写真提供:マイナビニュース

写真拡大

●「イメージを変えてやるのが俳優の仕事」映画『るろうに剣心 京都大火編 / 伝説の最後編』(8月1日・9月13日公開)で主人公・緋村剣心を演じた俳優・佐藤健。興行収入30.1億円のヒットを記録した前作から2年を経て、佐藤は剣心を演じることを「自転車に乗る感覚」と表現する。しかし、本作での彼は「乗りこなしている」という印象は全くない。息つく暇を与えない怒涛の剣劇。にじみ出る葛藤と苦悩。その姿は志々雄真実と対峙する剣心の姿か、それとも剣心と必死に向き合う佐藤の姿か。製作費30億円が投下されるなどコケることが許されない状況下で、彼はどのように"緋村剣心"を再起動させ、肉付けしていったのか。役作りから衝撃のラストシーンまで。佐藤が自らの分身を語り尽くした。

――前作を凌ぐ迫力の剣劇に圧倒されました。立ち回り等で気をつけていることは?

練習している時も常にムービーを撮っているんですが、1つの立ち回りが終わったら、その立ち回りをみんなで見て動きを確認します。それは感覚的なもので、ひたすらそれを繰り返します。どんなに僕がかっこよく形を決めて、早く超人的な動きをしたとしても、周りに届いてなかったり、全然違うところを狙ってたりしたら、意味がありません。見ている人が興奮するのは、やっぱりリアリティ。それが重要だと感じながら演じていました。僕の形や格好よりも、殺そうとしているのが一瞬でも見えた方が見ている人はワクワクするんじゃないかと思います。

――その緋村剣心を演じる上での前作との違いは。

前回は豹変してしまうところにカタルシスを作りたかったんです。だから、前半はできるだけオロオロして(笑)。強く見せないように抑えて抑えて、最後に吉川(晃司)さんとの対決で一気に爆発する。その二面性をいかに大きく出せるかが、前作の剣心を演じる上でのテーマでした。でも、今回はやっている僕ですら、剣心自身ですら、抜刀斎と剣心のどちらのモードなのか分からないまま突き進んでくという感じでした。そのあたりは、かなり複雑なんですが、感覚で演じたところもありました。ここはどっちなのと聞かれても、きっとうまく答えられないと思います。

――原作はもともとご存知だったそうですね。

リアルタイムでアニメを観ていました。当時は小学校低学年だったので、とにかく戦闘シーンが好きで。あらためて原作を読み返してみたら、すごく深いんですよね。(剣心は)人として正しいこと言っているなと感じます。剣の腕だけではなくて、心も強い人なんだとあらためて気づかされました。今回は、自分の中でも好きなセリフを言えたのですごくうれしかった。『京都大火編』でいうと、栄次にかける最後の言葉とか。

――その中で感じる、漫画原作を実写化する難しさとは?

やっている側からすると、「漫画原作」という一括りでは語れません。実写化する上では「漫画それぞれに違いがある」というのが僕の考えです。『るろうに剣心』に関して言うと、僕自身がすごく好きな作品なので、漫画やアニメからセリフを引っ張ってきたりとか。台本を読んでしっくりこない時に、剣心の気持ちを確かめるためにも漫画から探したり。「忠実」とは違いますが、かなり漫画を意識している方だと思います。

特に『伝説の最期編』はオリジナルストーリーの要素がかなり強い。原作の「京都編」はとても長いから、それは仕方のないことでした。オリジナル要素が強くなると、原作のセリフがどんどん当てはまらなくなってくる。そうなった時が難しくて。剣心だったらこの状況でどんな言葉を口にするんだろうと僕なりに想像しながらセリフを考えて、監督に相談しました。

イメージを変えてやるのが俳優の仕事。役柄が自分に合っているかどうかという意見はあまり気にしません。だから、「役柄にピッタリ」と言われるよりも、「やっぱりイメージに合わせて来た」と言われた方がうれしいですね。

――今年6月の完成披露イベントでの「日本映画の歴史が変わる」という発言。この言葉にはどのような思いが込められているのでしょうか。

こんなに映像に力のある作品は、日本映画の中ではあまり観たことないんですよね。分かりやすくいうと、映画としての雰囲気がハリウッドに近い感じ。今まで洋画を見て体感していたことが、日本映画でも体感できる。でも、『るろうに剣心』はハリウッドの真似事になっていません。きちんと日本の"美"も含まれていますし、とにかくエンターテインメントというジャンルの作品でいうと、かなりのエネルギーを秘めていると感じます。

それから、刀を使った「ソードアクション」は実際に体に当てたり、ギリギリのところを避けたり、今まではそのようなリアリティを追求することはできませんでした。それが、アクション部の方が最高の技術を持ってきてくださって実現できたので、映画の「ソードアクション」としては革命的だと思います。そういった意味でも「日本映画の歴史が変わる」というのは、僕は全然大げさじゃないかなと。観るべき映画。好き嫌いの好みは置いといて、勉強として観てほしい。特に映画好きだったら、「2014年に大友啓史が作った映画」として、まず観るべきだと思います。

●ラストシーンは「25年生きて来た中でもかなり特別な時間」

――それだけ自信をもって送る本作。前作での反省を踏まえて挑んだそうですね。

もちろん今は今なりの反省点はたくさんあります。ですが、前回よりいいものはできたという自信はあります。具体的な作業の積み重ねなので、例えばアクションを1つとっても、この避け方がよくないとか。その動きがカッコよく見えるように勉強しようと思ったり。本当にちょっとした細かいことの積み重ね。一旦はやりきれた感はあります。またあるかどうか分かりませんが…たぶんないと思いますけど(笑)、やるとなったら、また反省点をクリアにしていくことからはじめたいと思います。

――先月のプレミア試写会で「ケガの恐怖が常にあった」とおっしゃっていました。相当過酷な現場だったんですね。

怪我で撮影が最後までできなくなってしまうという事が大げさじゃなくて、日常のように有り得るような現場でした。でも、そんなことを起こすわけにはいかないので、どうするかというと、とにかく集中してやるしかありません。そのモチベーションを半年間キープしてやり続けるのが一番しんどかったです。本当に辛かったし、きつかった。

でも、そういう時にたくさんの方が楽しみに待っていてくれることを思うと、やってやろうという気持ちになれました。きれいごとではなくて、撮影中かなり助けてもらいました。それに共演者の皆さんも頑張っていますからね、僕一人じゃありません。1つの作品にかける覚悟、本気具合はほかの作品よりも強い。そんな気持ちにさせてくれるのが大友組です。

――志々雄真実を演じた藤原竜也さんは、志々雄スーツを着ると不機嫌になったそうですが、その精神的な負荷が役作りにも生かされたと。対面してそのような印象は受けましたか。

クランクインの時からすごかったですね。もう何も言わなくてもラスボスだと(笑)。最強なんだという説得力がありました。僕と藤原さんが一緒のシーンはそんなにないんですが、物語上すごく大切なシーンになります。だから、同じ現場でもお互いいっぱいいっぱい過ぎて、談笑みたいなことはできなかったです。

ゆっくり話せたのは、終わってからの打ち上げ。あとは舞台あいさつなどで、やっとしゃべれています。『伝説の最期編』のクライマックスなんかは、「俺らの戦いはどうやって終わるべきか」を結構話していました。そのかいあって、完全に納得することができました。

――神木隆之介さん演じる瀬田宗次郎とも対峙しますね。

(前編での対決は)すべての床の中で最悪な足場でした(笑)。あのシーンは、僕もそうですし、隆もそうだと思うんですが、準備運動の戦い。それは『伝説の最期編』を観てもらえれば分かると思います。だから、『京都大火編』の新月村でのあの戦いは、全然すごいことをやっているつもりはありません。

――前作から2年を経ての本作。これだけの時間が空いたことによる苦労などはなかったのでしょうか。

体に染み付いてるみたいなんですよね。自転車に乗る感覚というか。クランクインの3カ月ぐらい前からアクション練習をやれていたので、そのあたりから徐々に。一番の役作りは、特別なことをするというよりも、その役のことを考えている時間。今回は準備期間もたくさんありましたし、自然と戻ることができました。

――そして前作では監督が「無理目」という言葉を口にされていたそうですね。本作ではいかがでしたか。

無理目(笑)。監督オリジナルの言葉です。今回は「超無理目」とおっしゃっていました(笑)。監督は大変だなと感じるのは、「超無理目」でアピールしてこれだけやれるからとお金を引っ張ってきたりしてると思うんですよ。そうやって周りを巻き込んでいく。僕は巻き込まれるというよりも、ひたすら剣心と向き合っていくだけです(笑)。

――「伝説の最期編」のラストは、まさに"超無理目"な激しいシーンに仕上がっているそうですね。

本当にすごかった。1週間ぐらいかけて、東宝のスタジオで撮りました。毎日壮絶だったんですが、最終日は朝から撮って、終わったのは翌日。剣心も志々雄も最後はヒゲが生えてました(笑)。あのセットでの1週間は、僕が25年生きて来た中でもかなり特別な時間でした。なんて言えばいいのか…。常にアドレナリンが出続けているような。本当にすごかったですよ。クランクアップではなかったんですが、そのシーンが終わって、はじめて監督と握手をして。それは、自分が設定したハードルを1つ超えられた瞬間でした。

■プロフィール佐藤健1989年3月21日生まれ。埼玉県出身。2007年に『仮面ライダー電王』(テレビ朝日系)で初主演を飾る。『ROOKIES ルーキーズ』(TBS系08年)で注目を集め、NHK大河ドラマ『龍馬伝』(10年)の岡田以蔵役で時代劇に初挑戦。昨年は、『リアル〜完全なる首長竜の日〜』や『カノジョは嘘を愛しすぎてる』でなどの主演作が続き、2015年公開予定の『バクマン。』では、神木隆之介とダブル主演を務める。(C)和月伸宏/集英社 (C)2014「るろうに剣心 京都大火/伝説の最期」製作委員会

(水崎泰臣)