アギーレ監督の初陣メンバーには驚きの名前もあったが、その特徴を探れば指揮官の意図は明確なものだ。(C) SOCCER DIGEST

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 ハビエル・アギーレ監督は、決然と変化を選択した。                        
 
 就任会見では、過去4年間のアルベルト・ザッケローニ時代に対しての言及は避けたが、最初の23名の人選には明確なメッセージが込められた。
 
 アギーレ監督は4年後に照準を合わせてチーム作りを始める。しかし年明けのアジアカップでは優勝がノルマになる。そこでブラジル・ワールドカップの主力を残しながら、一方で敢えてサプライズの人選をした。つまり数か月後に結果を出すメンバーと、近未来を見据えた半ば育成組を用意したことになる。
 
 ザッケローニ前監督も、実績の少ない若手を招集したことがあったが、今回は技術委員会も呆気にとられるほどの人選である。個人的にも、一度も見たことのない選手が日本代表に抜擢されるケースに遭遇したのは、ハンス・オフト時代の高木琢也、森保一以来だった。
 
 そして新顔の特徴を探れば、アギーレ監督が何を求めているかが浮き上がる。ザッケローニ監督は「私はバランスを大切にする」と主張しながら、日本協会の依頼に基づき、ボールを保持しながら攻撃する時間を増やし、数多くのチャンスを築こうとしてきた。俊敏で器用な日本人の特性を活かすためにも、あまりサイズにはこだわらなかった。
 
 だがアギーレ監督は、この流れを踏襲したままでは勝てないと判断した。新顔メンバーに共通するのは高さだ。GK林彰洋、CB水本裕貴、MF扇原貴宏の復帰組、所属クラブでもまだレギュラー当落線上の坂井達弥、皆川佑介、さらにSBとしてはスケールのある松原健、躍進神戸を牽引する森岡亮太。全員が180センチを超えており、当然平均身長は一気に引き上げられた。
 
 一方、大方の予想通りに初選出された武藤嘉紀は、前線から労を惜しまず守備に貢献しながら、カウンターでは飛び出して行けるスピードを持っている。アギーレ監督は「将来性のある選手を」と語っていたが、選ばれたのは「堅守速攻」という構想に則り、伸びしろを持つと判断された選手たちだった。
 根底にあるのは、弱者の論理だ。かつてメキシコは、北中米内での内弁慶的性格が染みつき、欧州や南米への劣等感が根強かった。そこで自大陸の枠を超えて、いかに強豪国に立ち向かうか知恵を絞った。アギーレにとって、それはスペインでの監督経験も同じだった。オサスナ、サラゴサ、エスパニョール……、指揮を執って来たクラブの戦力を考えれば、優勝戦線より残留争いの方が身近だった。それでもバルセロナやレアル・マドリーなど、世界屈指の金満クラブに立ち向かわなければならない。そのためには、しっかりと守備を固め、勢い込んで攻めに出て来る相手の背後を突くのが最も効率的だった。
 
 格上を倒すには、11人が100パーセントの献身を継続する必要がある。また「自分たちのスタイルを貫く」などと理想にこだわるわけにもいかない。むしろ相手を分析し尽くし、意表を突く。「賢く戦う」というのは、相手の狙いを外し、かく乱することを意味する。今までザッケローニ体制下では「90分間の継続性」が強調され、それだけにシナリオが狂うと修正が利かなかった。
 
 だがアギーレ監督は、主体的なスタイルの継続ではなく、相手を「主」として考え、適時最も嫌がる方法を採る。ザッケローニ監督は「時間が足りない」と、3-4-3の実験を諦めてしまったが、アギーレ監督がさらに多くのバリエーションを加えていくことができるのか、注目される。大筋でザッケローニ路線は、180度転換されることになる。ただしもしアギーレ体制で、多彩な戦術を機能させられるなら、それも別の意味で日本の良さを活かしたサッカーとも言えるかもしれない。
 
 岡田武史元監督は、理想を追い求めながら、ワールドカップ本番直前で現実と向き合った。しかしアギーレ監督は、最初から現実を見据えて勝つ確率を高めようと知恵を絞る。例えば、現在日本サッカー界では、U-16代表を率いる吉武博文監督が、おそらく最も多くの共感を呼ぶ理想を追い求めている。華麗なポゼッションで魅了する吉武ジャパンは、大半が小柄で俊敏な選手たちで占められる。しかし今回のアギーレ監督の人選を見る限り、それだけでは戦えない、とアンチテーゼを示そうとしているようにも映る。
 
 今までの日本は、決定力を上げるためにも、ボールを長く保持しチャンスを増やす術を考えて来た。だが新監督は、相手にゴールを割らせないことから逆算してチーム作りを進めていく。最終ラインは攻撃よりハイボールを撥ね返す能力を重視し、軽量ばかりだった前線にも186センチ、84キロの皆川が加わった。
 
 スペクタクルより、リスクの軽減が意識されたラインナップ。勝率は高まるかもしれない。ただしそれが日本にとって最適の道だという保証はない。

文:加部 究(スポーツライター)