晩夏の夜、はやラグビーのトップリーグ(TL)が開幕した。優勝の行方はもちろんだが、"世界"を知る名将たちのチーム作りも焦点のひとつである。昨季のトップ4、すべてのチームが新たな指導者を迎えて、さらなる飛躍を目指す。

 8月22日の開幕戦。昨季二冠の青色ジャージのパナソニックは、赤いジャージの固まりの東芝の圧力に押され、26−39で敗れた。日本代表7人、スーパーラグビー(SR)組3人を擁しながら、スタートでつまずいた。

 よもやの敗戦にも、パナソニックの新監督、ロビー・ディーンズは淡々としていた。堀江翔太主将によると、新監督は決して、怒らない。試合後のロッカー ルームでは静かにこう、言ったそうだ。「きょうは相手の気迫がまさっていた。どうしてか考えよう。次はもっと気持ちを前に出せるようにしていこう」と。

 ある程度、こういった試合内容は予想できたことだった。昨季、日本選手権の決勝を含め、パナソニックに4戦全敗の東芝は必死だった。東芝のこの日のテー マが「エナジーとパッション(情熱)」(冨岡鉄平ヘッドコーチ)。ディーンズ新監督も「東芝が気持ちを前面に出してくると予想できた」と漏らす。

 王者が勝ち続けることは難しい。どうしても勝利への執着で後手を踏む。それがスクラム、モールの結束、接点での二人目の寄り、レッグ・ドライブ(足のか き)になって表れた。SR組合流から3週間。まだチームの組織的な攻防にはほど遠く、持ち前の防御からの切り返しもトライにはつながらなかった。

「どのキャンペーン(リーグ)もチャレンジです」とディーンズ新監督は言った。「そのチャレンジに私はエキサイトしている。きょうは後半、プレッシャーをかけることができず、逆に相手にかけられて、ペナルティーを犯し、ディシプリン(規律)を守ることができなかった」

 ディーンズ新監督は54歳、ニュージーランド出身ながらオーストラリア代表監督を務め、SRではクルセダーズを常勝チームに育て上げた名将である。3年 ほど前からパナソニックに関わっており、日本選手の特徴、日本のラグビー文化もある程度分かっている。どんな名将でも日本選手のメンタリティを理解できな いと成功はおぼつかないだろう。

 パナソニックの飯島均部長の言葉を借りると、新監督は「哲学者」だそうだ。一流コーチの要素として、指導方法はともかく、「優れた理論」と「人をひきつ ける魅力」の2つがある。ディーンズ新監督は、その両方に長(た)けた稀有な人物との評が高い。同じ歳のエディー・ジョーンズ日本代表ヘッドコーチ (HC)とは持ち味がちょっと違う。チームの成長を個人の判断におき、動きの中での状況判断に磨きをかけようとしている。

 チーム強化のベースは、選手の人間的成長にある。経験豊富なディーンズ新監督ならば、いろいろなストーリーを考えているはずである。全勝優勝が理想では あるが、時には負け、時には失敗を犯しながら、より成長を促す場合もあろう。ディーンズ新監督は柔和な笑顔を浮かべながら漏らした。

「この敗戦もチームのステップアップにつながると思う。ひとつひとつがチャレンジ。シーズンが深まるにつれて、もっともっとステップアップしていきたい」
 
 現役時はカリスマ主将であり、今年BKコーチから昇格した東芝の冨岡HCは相変わらず謙虚である。「ロビーさんを尊敬しています」と言った。

「経験値、場数は比べものになりません。僕も選手になって、彼に指導してもらいたいくらいです。エディーさん(ジョーンズHC)をはじめ、日本に国際的ないいコーチがどんどん入っていますので、それはすごく喜ばしいことです」

 同感である。増えている世界的なスター選手だけではない。ディーンズ新監督ほか、今季から、サントリーはSRのブランビーズで指導経験のあるアンディ・ フレンド(前キャノン)をHCとし、神戸製鋼も南アフリカ代表のコーチや世界各地のクラブで活躍したギャリー・ゴールドをHCとして招請した。サントリー も神鋼も白星スタートを切った。

 誤解を恐れずにいえば、日本ラグビーはまだまだ「井の中の蛙(かわず)」である。TLを担当する稲垣純一・日本協会理事は「コーチの世界水準化」を期待する。

「外国人コーチの存在が、選手だけでなく、日本人指導者を含めた日本のラグビーのレベルアップにつながってほしい」

もちろん、指導者が国際化されても、指導を受ける選手のほうも"世界"をある程度知っていなければならない。指導者と選手の国際化は一体なのである。

松瀬 学●取材・文 text by Matsuse Manabu