“癒し”なんてブッ飛ばせ!“ウクレレの奇人たち”の凶暴な世界
 夏の楽器といえば、いまやギター以上に日本人に愛されているかもしれないウクレレ。演奏教室を開けばすぐに定員がいっぱいになるそうで、定年を迎えた団塊世代が新たに始める趣味としても大人気とのこと。

 またその幅の広さも魅力。コードをポロンポロンとやりながらほんわか歌う“ゆるふわ系”から、ジャズギターのコードソロのようなスタイルまでをも余裕でカバーしてしまいます。さらにかわいらしい小回りの利くサイズが日本の住宅事情にマッチしていることもあるかもしれません。

 穏やかで平和なイメージのあるウクレレという楽器。しかしそんな見方を一変してしまうような使い手もいるのです。題して「ウクレレの奇人たち」。クレイジーだったり暗かったり凶暴だったりの3名です。

◆ほとんどホラー!インパクトありすぎのタイニー・ティム

 まずはカーリーなロン毛にニコラス・ケイジのような顔立ちから、脳天を突き抜けるようなファルセットで歌いだすタイニー・ティム。同名のロケット弾に負けないインパクトを残したミュージシャンでした。

 ワーナーの名物企画・名盤探検隊でリイシューされ話題となった『God Bless Tiny Tim』が彼の代表作。そのアルバムにも収録された1920年代のスタンダードナンバー「Tiptoe Through The Tulips」の浮遊感はほとんどホラー。大人が見れば笑いが起き、子供からは悲鳴があがります。

⇒【YouTube】Tip Toe Thru the Tulips Tiny Tim on“The Tonight Show Starring Johnny Carson”in 1968. http://youtu.be/N_PLWqnfFgU

 それでもエルヴィスの見事なモノマネで「Heartbreak Hotel」を歌い、上着を脱いで地面に寝そべって脚をバタバタさせ子供たちを喜ばせたアイオワ州のとある学校でのパフォーマンスは感動的です。最後にはその手にウクレレはありませんでした。

⇒【YouTube】Tiny Tim Lost Iowa Performace http://youtu.be/WNwCs5Cfj1w

◆孤高の天才、ステファン・メリットの暗い歌声

 お次はステファン・メリット。アメリカインディーポップ界が誇る孤高の天才で、The Magnetic Fieldsというバンドのメインソングライターでもあります。そんな彼も近年ウクレレにご執心の様子。しかし持っている楽器にまったく左右されることのない歌声の暗さが際立ちます。

 ピーター・ゲイブリエルのカバーがアメリカ版の映画『Shall We Dance?』サントラにも収録されている「The Book Of Love」は大変な名曲ですが、やはりこの荒れ果てたユーモアの乾いた襞は作者にしか再現できないようです。ゴージャスなストリングスが、カマカのウクレレに張られたブラックナイロン弦に変わると曲の表情も一変します。

⇒【YouTube】The Magnetic Fields performs“The Book of Love”(Live at WFUV) http://youtu.be/XoAydx7Anuc

 ランディ・ニューマンやハリー・ニルソンにたとえられることもあるステファン・メリットですが、ウクレレでこの曲を弾き語る姿には、ニルソンの傑作「クニルソン」のジャケットがちらつきます。

◆50年前のアメリカ南部のウクレレ、レモン・ナッシュ

 最後はウクレレを引っ掻き、つねり、いじめ倒してジャズやゴスペル、ブルースの名曲を歌ったニューオリンズのレモン・ナッシュ。アメリカのルーツミュージックを数多くリイシューするアーフリー・レコードが送り出した名盤ならぬ“奇盤”です。

 楽器一つでスタンダードのカバーをするニューオリンズのミュージシャンといえば、こちらも突き刺すようなギターを聴かせるスヌークス・イーグリンの名前が浮かぶところですが、何せレモン・ナッシュはウクレレです。

 その極端なサステインの短さがかえって冷たい暴力性を増しているようにも思えます。チューニングもメタメタだわ、コードをきちんと押さえきれていない部分もあるわで、決して耳に優しい音ではありません。

 しかしそれを補って余りあるのが歌の大きさ。ウクレレの舌足らずなつなぎ目を潤していくハーモニーを含んでいるように聴こえます。一人で飴とムチの二役をこなしてしまうような振れ幅の広い弾き語りにはなかなかお目にかかれるものではありません。

※アーフリーレコード(試聴できます)
http://www.arhoolie.com/jazz/lemon-nash-papa-lemon.html

 というわけでご紹介してきた「ウクレレの奇人たち」。お盆を過ぎてもまだまだ暑い日本の夏ですが、それ以上に暑苦しい強烈な個性の持ち主であることは間違いなさそうです。

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>