第41回:スポーツ漫画

名古屋場所(7月場所)で
通算30回目の優勝を飾った横綱。
今回はその舞台裏を振り返るとともに、
『スポルティーバ』の月間特集に合わせて、
モンゴルの漫画事情と、横綱が好きな
スポーツ漫画について語ってくれた。

 この夏の巡業は、8月7日の福島県いわき市での復興祈願土俵入りを皮切りに、茨城県、新潟県、東北の各県(山形県、宮城県、秋田県)、そして北海道の各都市と、全国9カ所を回ってきました。

  どの土地でも、熱心なファンの方々が朝早くから会場に詰め掛けて、稽古の模様を真剣に観戦。各力士にゲキを飛ばす様子が随所に見受けられました。そして、 どこの会場も大入り満員。千秋楽まで盛り上がった名古屋場所(7月場所)の余韻が感じられ、私たち力士にとって大いに励みになりました。巡業に足を運んで くれたみなさん、本当にありがとうございました。

 さて、先の名古屋場所で、私はひとつの区切りとなる30回目の優勝を飾ることができまし た。優勝30回以上を記録している力士は、私が尊敬してやまない大鵬関(32回)と、「ウルフ」と称されて一時代を築いた千代の富士関(31回)のふたり しかいません。おふたりとも「大横綱」と呼ばれた相撲界の大先輩です。そのような方たちと肩を並べることになる記録だけに、達成したときのうれしさは、こ れまでの優勝とは違った感覚がありました。

 場所前は、とにかく「30」という数字を意識しないようにしていました。あくまでも白鵬という 力士が土俵でがんばってきた積み重ねの結果であって、数字自体に大きな意味はない、と。とはいえ、私も人間ですから、知らず知らずのうちに意識していたん でしょうね。「30」という数字は、いつも頭の片隅にありました。

 その分、名古屋場所はとても苦しい場所になりました。実は、場所が始 まってからというもの、結果を求めるがゆえに、心と体が一致しないことが何度もありました。11日目の関脇・豪栄道戦、13日目の大関・稀勢の里戦のとき がまさにそんな状態で、私の心の弱さが敗戦につながったと思っています。

 私が2敗を喫したことで、優勝争いは混沌となりました。千秋楽を前にして、2敗で並ぶ大関・琴奨菊をはじめ、3敗の豪栄道、高安(前頭11枚目)にまで優勝のチャンスが生まれました。

 迎えた千秋楽。まず、高安が敗れて脱落。優勝を争う相手は、直接対決する2敗の琴奨菊と3敗の豪栄道のふたりに絞られました。私はもちろんのこ と、誰もがその一番に注目していました。しかもその日の朝、豪栄道が勝って12勝すれば、場所後に大関昇進という審判部の方針が明らかになったことで、一 層注目度が増しました。

 結果は、大関昇進がかかった豪栄道が奮起して勝利。豪栄道と琴奨菊が3敗で並んで、結びの一番で私が敗れれば、3人による優勝決定戦に持ち込まれる状況となりました。おかげで、私が土俵に上がるまでの間は、そんな展開を期待するムードが館内に漂っていましたね。

 実際、私自身「優勝決定巴戦になるかもしれない......」という不安を抱えていました。土俵下で前の取組みを見ている間は、少なからず緊張していたと思います。

 しかし、こうしたもつれたシチュエーションは、私にとって初めての経験ではありません。土俵に上がったときには、「落ち着いていけば大丈夫」と自分に言い聞かせて、自分を信じて相撲を取った結果、日馬富士に勝利。30回目の優勝を飾ることができました。

 その瞬間、心底ホッとしたのと同時に、自分は本当に幸せ者だな、と思いましたね。

  話は変わりますが、このところ、じわじわと相撲人気が高まってきたこともあってか、この4月から『暴れん坊力士!! 松太郎』(テレビ朝日系)という相撲アニメがテレビで放送されるようになりました。かつて、漫画雑誌『ビッグコミック』(小学館)に連載されていた、ちば てつや氏原作の相撲ヒーロー漫画『のたり松太郎』をアニメ化したものだそうです。

 内容は、破天荒な青年・松太郎が、ひょんなことから相撲部屋に入門。相撲界でいろいろなことを経験しながら、一人前の力士に成長していくストーリーです。主人公の松太郎はまさしく型破りな人間なんですが、非常に魅力的なキャラクターで、なかなか面白いアニメなんですよ。

 日本では、漫画やアニメの影響を受けて、スポーツを始める子どもが結構いると聞いています。それで最近は、この『暴れん坊力士!! 松太郎』を見て、相撲を始めてくれる子どもたちが増えてくれたらいいな、なんて思っています。

 そんなことを考えながら、自分の少年時代を振り返ってみると、漫画を読んだり、テレビでアニメを見たりといった覚えがありません。そもそも、モン ゴルには漫画雑誌というものがなかったんですよ。テレビでは何かしらアニメを放送していたかもしれませんが、それを見ていた記憶もありません。小、中学生 の頃の私は、とにかくバスケットボールに夢中で、毎日、家に帰る直前までバスケットボールをやっていました。それで、テレビを見る時間がなかった、という のもあるんですけどね。

 もちろん、今ではモンゴルでも日本のアニメが放送されていますし、DVDで見ることもできます。そのため、近年はモンゴルの子どもたちにもアニメ好きが増えているみたいで、ひょっとするとその影響を受けて、スポーツを始めている子がいるかもしれませんね。

 私の3人の子どもたちも、アニメは大好きです。ただ、スポーツ物には興味がないようで、もっぱら家で見ているのは、宮崎駿さんの「スタジオジブリ」の作品ばかりです。

 今でもバスケットボールが大好きな私は、漫画と言えば、やっぱり『SLAM DUNK』(集英社)ですね。テレビアニメはずっと見ていましたし、コミックは全巻そろえてあります。時間があるときは、たまに読み返して"バスケット・ワールド"に浸っているんですよ。

武田葉月●構成 text&photo by Takeda Hazuki