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●船長として、なめられないようにするには…?日本人初の国際宇宙ステーション(ISS)船長である若田光一さんの長期滞在ミッション報告会「〜『聞く』『任せる』『実践する』若田船長の仕事術〜」が22日、東京都・浅草の浅草公会堂で実施された。

会場には約1,000名が集まり、若田さんの船長としての活躍ぶりに耳を傾けた。本レポートでは、2時間にわたって行われた報告会の様子などをお伝えする。

○プログラムは、若田宇宙飛行士による宇宙からの中継で開始

若田さんが船長を務めた国際宇宙ステーションとは、宇宙の微小重量状態で様々な実験・観測をする有人施設。地上からの高度が約400キロメートルに存在し、日本を始め世界15カ国が協力して組み立ててきた。

2014年3月9日にロシア人のオレッグ・コトフ宇宙飛行士から第39代ISS船長としての任務を引き継いだ若田さん。日本人初の就任という快挙について、「みなさんのおかげ」と振り返る。

若田さん「ISSでは約2カ月にわたって船長業務を遂行しました。宇宙では様々な実験を行いましたが、それにあたっては、地上チームの支援が欠かせません。筑波宇宙センターには、実験の提案者の科学者、実験装置を作った技術者などが集まって軌道上での作業の支援をしてもらいました」

若田さん「今回宇宙ステーション滞在の後半で船長という任務につかせていただきましたが、それはやはり日本に対する宇宙技術の信頼感が非常に高まったということが背景にあると思います。日本は『きぼう 日本実験棟』、『こうのとり』や『はやぶさ』などの打ち上げを行いましたが、すべてのミッションを予定通りきちんと遂行しているということで、宇宙技術の信頼感が高まった。それがあって初めて日本人にも『船長』という任務を与えてもいいだろうということになったと思います。私が宇宙の仕事をさせていただいたのも、日本の皆さんの総合力のおかげだと思います」

○阿川佐和子さんとのトークセッションでは、船長としての苦労を語る

続いて行われたトークセッション第1部には、作家・エッセイストの阿川佐和子さんが登場。ISSの基本情報から、普通では聞けないような宇宙での裏話、船長としての活動を紹介した。

阿川さん「いろいろ伺っていますが、忙しいんですね。まず、時差ってあるんですか?」

若田さん「世界の共同プロジェクトなので、グリニッジ標準時間(イギリス時間)を使っています。ISSは1時間半で地球を1周するので、日の出が1日に16回あるんです。日の出日の入りではどれが1日かわからなくなっちゃうんです。クルーは全員同じ時間に起き働き、同じ時間に寝ます。実は宇宙飛行士だけでなくて、筑波宇宙センターの飛行管制室の管制局の人もISSに合わせてグリニッジ標準時で仕事をしているんですよ。なので、筑波の管制官は結構夜勤が多いんです。世界各国の管制局は結構苦労して仕事しているみたいですよ」

阿川さん「筑波の時間は違うんですねえ。ハードスケジュールだと思うんですが、1日でどれ位の仕事をされるんですか?」

若田さん「睡眠時間は夜9時半から朝6時と決まっているんです。私はだいたい6時間寝ていましたね。ふわふわ浮いて眠るのって気持ちいいのでぐっすり眠れました。起きると朝礼があって、地上管制局の皆さんと会議をやって、それが終わったら実験だとか、観測だとか整備を行います。あるときは船外に出て活動をしたりとかですね。それから運動も毎日2時間ぐらいやりますね。そして、その日の振り返りや明日やることを確認する夕礼があって、地上管制局の皆さんと打ち合わせをします。後は自由時間なので、家族に電話をしたり、仕事のメールをしたりします。映画や本を読んだりもしました」

阿川さん「そんなに『忙しい、忙しい』という感じじゃないんでしょうか? だって実験したら、その記録とかも取らないといけないでしょうし、日記も付けないといけないですよね」

若田さん「そうですね。それは朝から夕方までに全部終わらせるということを前提にしているので。他にも調整やゴミ捨て、食料の管理、掃除などもしなくてはならないのでなんだかんだいっていると、寝る間際まで仕事をしている日もありましたね。ただ、仕事をし過ぎると問題なので、健康管理には十分気をつけていましたね」

阿川さん「仕事をなんとなくサボリ気味の人もいるんでしょうか?」

若田さん「そうですね(笑)。まあ宇宙飛行士はみんなやる気が満々の人なので。宇宙でもきちんと仕事をしてくれます。疲れやすい人もいますけど。なので、みんなの健康状態や士気が低下しているかを、いろいろな会話を通して踏まえながら過ごしました」

また、ISS内の様子や他の船員との関係についても話が及ぶ。

阿川さん「ISSは国際宇宙選手村、共同住宅みたいなものですよね。ここで働く宇宙飛行士の船長になったわけですが、みんなはどこで仕事をしているんでしょうか?」

若田さん「『きぼう』であったり、いろいろなところで実験しています。自分の国の施設だけとは限りません」

阿川さん「ここは落ち着かないな…ということはありますか?」

若田さん「窓がないところは落ち着かないですね。地球が見えるほうがいいですから」

阿川さん「他のメンバーはロシアの人、アメリカの人と日本人ですよね。和を大事にする若田さんに対して『和とか言ってる場合じゃないだろう』っていう人はいなかったんですか?」

若田さん「おっしゃる通りですね。最初からハーモニーを求めるんじゃなくて、きちんと自分の意見を伝えるっていう。そういう中で、自分の立ち位置や相手の気持ちを理解する率直なコミュニケーションが大事ですね」

阿川さん「船長として、なめられないようにするにはどうしたらよいですか?」

若田さん「なめられない(笑)。自分をさらけ出すこと、押すところは押す、引くところは引くというところですね。でもやっぱり直球勝負がいいと思いますね。相手に自分の良さも悪さもわかってもらうという。チームの中で円滑なコミュニケーションを作っていくのが大事ですね」

トークでは、船長としての仕事ぶりから、宇宙ステーションのトイレが故障して大変だったという裏話も披露された。終始笑いが起こり、若田さんの人の良さが伝わってくるようであった。

●名選手は名監督になれない○若田宇宙飛行士と佐々木監督が語る、宇宙での働き方

続いて行われたトークセッション第2部には、サッカー女子W杯でチームを優勝に導いた、日本女子代表(なでしこジャパン)監督の佐々木則夫さんも参加。3人で世界で活躍する日本人リーダーの素顔などについてトークが行われた。

阿川さん「ISSではお父さんみたいな年齢の船員を指揮したわけですよね。どんな感じだったんでしょうか?」

若田さん「監督というよりは、選手兼マネージャーのようなものなんですよね。まずは実験などの現場作業をやって、あとからチームの取りまとめをやるので。中間管理職ですね。仲間とやっている中で、きちんと船長の仕事はやっていかないといけないですけどね」

阿川さん「若田さんはよく『我々は中間管理職だ』とおっしゃっていますよね。どうしてですか?」

若田さん「宇宙飛行士だけでできる仕事って少ないんですよね。地上の管制局とやりとりしながら宇宙飛行士をまとめるので。管理者からの指令をメンバーに伝えて、メンバーの希望をくみ取って管理本部に伝えるので。大きなチームの中で、クルーをまとめているので『中間管理職』と表現していますね」

佐々木さん「リーダーというのは、年齢の高い低いではなくて、センスによると僕は思いますね。若田さんは野球をなさっていたそうで、そういうところのコミュニケーション力とかもあるんじゃないですか」

阿川さん「そんな上手な選手じゃなかったそうですよ」

若田さん「そう、僕はレギュラーになりたかったけどなれなかったんですよね(笑)」

佐々木さん「だからこそ逆に言うと、そういうところの良さが質を高めるということもありますよね」

阿川さん「野球でも言いますよね『名選手は名監督になれない』って。弱みを知らないからでしょうね。なぜ打てないんだろうって思っちゃうという」

若田さん「そうですね。野球では縁の下の力持ちというか、チームのために何をやったらいいのかを考えながらやっていましたね。それで引っ張る方になったら相手の気持ちも考えられるようになったのだと思います」

阿川さん「佐々木監督は最終的に女子だけの世界に入ったわけですよね」

佐々木さん「そうですね。キャンプに行けば女子寮の管理人のおやじみたいな感じですね。でも結構居心地いいですよ。そんな違和感もないですね」

阿川さん「歳としてはお父さんみたいな感じですよね。そんな中で、佐々木監督が就任されてからなでしこジャパンは本当に強くなりましたよね」

佐々木さん「30年間の歴史の中で、積み上げてきたものがありますからね。それと選手と一体感を持ったことが大きいですね。お互いに信頼しながらやっていくことが、チームが勝つということだと思います」

2人共仲間や選手との信頼関係を重視しているという姿勢が明らかになった。トークセッション中には、参加者から寄せられた仕事の悩みに答えるコーナーも。そこでは若田さん流仲間のこころのつかみ方も披露された。

阿川さん「部下の手柄は自分のもの、自分の失敗は部下のせいというような嫌な上司にあたったらどうすればいいんでしょうか?」

佐々木さん「そういう上司を見たら、まねをしないということですね。どこにもいるんですよそういう人」

阿川さん「サッカー協会にも?」

佐々木さん「いますいます(笑)。そういう人はそのうちいなくなるので反面教師にします。あとは飲み屋で発散します」

若田さん「宇宙だと飲みにいけないんですよね(笑)。なので、ストレス発散するとなると、食べることしかないんです。おいしいものを食べられないのって結構つらいんですよ。宇宙では通常の食事の他に、自分の好きな食べ物、ボーナス食を持っていけるんですが、僕が船長の時にアメリカ人船員のボーナス食が着かないということがわかったんですね。自分が好きなモノが宇宙にないっていうのは問題なので、管理部門に『彼の好きな食べ物を僕たちが着く前に打ち上げてくれ』ってお願いしました。のちにクルーが自分のボーナス食をこうして運んでもらったってわかると、信頼度もぐんと上がりますからね」

阿川さん「食べ物で釣るっていう、ちょっと計算してるんですね(笑)」

若田さん「そうですね(笑)」

リーダーとしての苦労話から食事の話まで、大いに盛り上がったトークセッション。最後に阿川さんが対談の感想を尋ねられ、2人は以下のように振り返った。

佐々木さん「本当に勉強になりました。若田さんの仕事を通して、自分の仕事を見つめなおすこともできましたし。どんな時でも、食事って大事なんだとわかりました(笑)。また、いろんな国の人の間に入ってコントロールできるところが素晴らしいですね。物事を一方的に押し付けるのではなく、若田さんのようににこやかに仕事をしたいと思います」

若田さん「佐々木監督の素晴らしいリーダーシップや思いというのは宇宙ステーションにも通じるところがあるのかと思います。チーム一人ひとりの思いをくみ取ってあげる、そのコミュニケーションが信頼を作るということを強く感じました。また、問題があった時も自分で責任をとる、覚悟を持つというところが共通して大切なことなんでしょうね」

日本を代表して世界や宇宙という舞台で働くということは、並大抵のことではない。佐々木監督も若田宇宙飛行士も計り知れないプレッシャーの中で素晴らしい成果を残してきた人物だ。彼らは「チームを動かすには信頼関係が重要」と口をそろえていたが、その信頼関係は、彼らの優しくも頼りになる人柄から生まれているのではないかと感じさせるトークイベントだった。部下と信頼関係が築けていない管理職の人も、上司とうまくいかない若手社員も、彼らの働き方を参考にしてみてはいかがだろうか。

(関根千尋)