8月19日に行なわれたワールドグランプリファイナル東京大会の前日記者会見で、眞鍋ジャパンが春から取り組んできた最新戦術の名称が「Hybrid6」と発表された。

 昨年11月に開催されたグランドチャンピオンズカップで、お披露目された戦術MB1。その名の通り、従来コートの中に2人いた(後衛ではリベロと変わることがほとんどだが)MB(ミドルブロッカー)を1人に減らし、攻撃力を増やすというものだった。疑り深い筆者は、眞鍋政義監督特有のサービス精神から来る、メディアやファン向けの話題作りの一つなのではと一歩引いて見ていたのだが、そうではなかった。彼は本気のようだった。

「シンプルな話ですよ。過去数年間のデータを分析してみたら、MBの攻撃力が他のポジションよりも低いことがわかったのです。だから、MBのところに他のアタッカーを入れようと。それだけです」

 MB1を採用した理由についてこう述べていた眞鍋監督だったが、グラチャン5戦と、その前のアメリカとの練習試合25セットを分析すると、確かにMBを2人入れた時よりも得点が増えていた。一方、ブロックの面でも、ロンドン五輪の時と比べて遜色はなかった。このことが、眞鍋監督が新路線を推し進める後押しになった。

 2014バージョンの新戦術はMB1をさらに進化させたもの。すでに5月に行なわれた全日本始動会見で、今年も新戦術が用意されており、今大会でそれを発表するとの予告があった。

 6月に姫路で行なわれた紅白戦を取材したカメラマンに、新戦術は何だったのかと聞くと、「MB0ですよ」と教えてくれた。だが、その後開幕したワールドグランプリ第1〜第3ラウンドでは、単純な「MB0」にも見えなかった。これまでのラウンドを見ていると、たとえば長岡望悠といった本来サイドアタッカーの選手がミドルブロッカーの位置に入ってクイックやライト攻撃をしたり、セッターの宮下遥が真ん中でブロックに跳んでいたり、普通に大野果奈、山口舞のMB2人が入っていたり、いってしまうなら「ポジションレス」というべきシステムを導入していた。いや、導入しようと努力しているところだった。

「MB1というと、どうしてもMBが1人足りない、マイナスというイメージがあるじゃないですか。だから、もっとポジティブなイメージで命名しました」

 それがHybrid6である。ハイブリッドの意味は、掛け合わせる、混ぜ合わせる、新しいものを組み合わせるといったところ。日本には絶対的なエースがいないため、コートにいる6人全員にいろいろな役割を果たしてもらうことを前提に、こう命名したのだそうだ。

 しかしMB1がある意味で非常にわかりやすく、センセーショナルなネーミングだっただけに、若干インパクトと具体性に欠ける名称ではある。眞鍋監督に「具体的にはどんな戦術なんですか?」と質問したところ、以下のような答えが返ってきた。

「相手によって、MBが1人の時も2人の時も、0のときもあります。攻撃陣はポジションを固定しないで、1人が複数のポジションをこなします。常識や既成概念を捨て、ローテーションごとにそれぞれの選手が一番能力を発揮できるポジションを担う、一番得点できる6人を同時にコートに入れて戦うフォーメーションのことです。今、選手に言っているのは、パスを上げる人がパスヒッター、それ以外は全員ポイントを取るポイントゲッターだということ。ポジションの概念は払拭しよう、と」

 バレーボールは25点を先に3セット取ればいいスポーツ。そのために、得点力がある選手を同時にコートに投入することをまず考えたのだという。2年後のリオで金メダルを獲るためには、身長に劣る日本が常識的なことをしていては勝てない。以前からそんな信条を持っていた眞鍋監督は、2人サーブレシーブ制やリードブロック(相手がトスを上げるのを見てから跳ぶブロック)を導入して世界のバレーを変革した元アメリカ代表監督ダグビィル氏と話し、その思いを強くしたようだ。

 眞鍋監督はバレーの歴史を調べて、いつ、誰がポジションを固定し始めたのかを探ったが、それはわからなかったという。ならばいっそ、このポジションごとに役割を固定するのをやめたらどうか。2012年、眞鍋ジャパンが28年ぶりにロンドン五輪で銅メダルを獲得した同じ大会の男子決勝では、ロシアが試合中にミドルブロッカーのムセルスキーをオポジット(セッター対角のアタッカー)にコンバートして、フルセットの末に大逆転で金を獲った。これももちろん参考になった。

 Hybrid6に取り組んできたワールドグランプリの予選ラウンド。日本は5連敗のあと4連勝してファイナル東京大会に臨むことになる。

 鍵を握るセッター2人のうち宮下は、「負けが続いたとき、この戦術でいいのかという迷いや不安がチーム全体の中で大きくなったところはあります。でも、眞鍋さんにも『すぐに結果は出るわけじゃない』とミーティングでもいわれましたし、私のようなあまり試合に出ないメンバーができるのは雰囲気作りなので、できることを精一杯やりました。センターブロックを跳ぶのは、今までやったことがなくて......すごく難しいです(笑)。両サイドに跳んだあと、切り返しの攻撃のためのトスをあげる時に体勢が崩れてしまうので、そこはもっと自分が頑張らないと」と語っている。

 また主将の木村沙織は、「新しいことに取り組んでいるので、そんなにすぐには結果が出ない。でもあきらめずに続けていったことで個人の調子が上がったし、チームとしても丁寧なバレーができるようになってきて結果も出るようになりました。私個人では、やることがそんなには変わっていません。バックアタックが少し速くなったくらい。ローテーションによって違うポジションをやる選手もいるので、苦労している部分はありますが、いい感じで決勝に臨めると思います」と、前向きだった。

 香港ラウンド、マカオラウンドで2度日本と対戦し、2度目は日本に敗れた中国の郎平監督は、「2試合日本と戦って、日本にはいい選手が非常に多く、どんなメンバーがどのポジションで来るのかわからなくて翻弄(ほんろう)された。また、スピードの速さにもやられた部分があった」と、新戦術に対して警戒を強めている。

 新戦術Hybrid6の現時点での完成度は、50%くらいとのこと。それを、この5連戦でどれだけ上積みできるのか。ワールドグランプリファイナルラウンドは、20日のロシア戦から24日のブラジル戦まで、有明コロシアムで開催される。

中西美雁●文 text by Nakanishi Mikari