サッカージャーナリスト座談会(前編)

ブラジルW杯で日本がグループリーグ敗退に終わった直後、戦前の盛り上がりとは裏腹に、ザックジャパンの話題は一気に世の中から消えていった。日本サッカー協会をはじめ、テレビや新聞などの大メディアが、日本代表の敗因を厳しく分析し、検証するようなことはほとんどなかった。はたして、それでいいのだろうか。失敗に終わったときこそ、その原因をきちんと究明しなければいけないのではないか。そしてそれが、次世代に生かされ、日本サッカーの強化につながっていくはずである。そこで今回、杉山茂樹氏、浅田真樹氏、中山淳氏の3人のサッカージャーナリストに集まってもらい、ザックジャパンの4年間について徹底検証。日本代表が本当に強くなるにはどうしたらいいのか、探った――。

●なぜ日本は、敗因の検証をしないのか

―― 今回は、ザッケローニ監督が率いた日本代表の4年間、そしてブラジルW杯の戦いぶりについて検証してもらいたいと思っていますが、まずその前にうかがいたいことがあります。先頃、日本代表の新たな指揮官として、ハビエル・アギーレ監督(メキシコ)の就任が決まりました。W杯の検証がままならないうちに、新監督を決めてしまうのはいかがなものか、といった意見もあります。みなさんはどうお考えですか。

杉山:それは、一理ある。7月末、日本サッカー協会(以下、協会)の技術委員会でブラジルW杯を総括し、育成や審判、Jリーグなど各部門における今後の取り組みについて検討したあと、一応、原さん(原博実・協会専務理事兼技術委員長)が記者会見を開いたけど、"検証"と言うにはほど遠いものだった。「えっ、それだけですか?」って感じで、全然足りなかった。しかも、自分の責任をできるだけ回避するような検証しかしていないからね。

中山:これまでは、協会がW杯について検証をしても、それがあまり表に出てくることはなかった。それからすれば、原さんが技術委員長になって、今回のW杯における検証結果が「これこれこうだった」と説明したことは、いいことだと思いますよ。ただそれが、本当に"検証"と言えるものだったのかというと......さすがに違っていましたよね。どちらかというと、ブラジルW杯における惨敗を受けての、原さんの感想だったんじゃないかな、と。

杉山:とりあえず、謝って......いや、謝ったんじゃなくて、代表がW杯で結果を出せなかったことに対して、協会として"申し訳ないムード"が漂う中、みなさん(メディア)の前で喋りましたっていう事実を作っただけだよね。だとしたら、周りがもっとツッコまないと。別にその場で質問したりしなくても、テレビの番組や、新聞、雑誌の紙面でもっと検証をすればいい。僕ら個人は、ブラジルW杯に挑んだ日本代表についての分析や検証を雑誌やウェブなどでちょこちょこ書いているけど、大手メディアがやらないから、日本全体として"検証"をしている感が出てこない。協会の問題でもあるけれど、検証を"やっている感"が出ないのは、大手メディアがやってないからだと思う。今回ここで、『スポルティーバ』だけがやってもね......現実的に"やっている感"は強まらないよ。

―― すみません......。でも、何もやらないよりは、ここできちんと検証することが大切だと思っています。

杉山:そうだね。ここから、大きな波になっていくことを期待するよ。

中山:何にしても、確かに杉山さんが言うように、多くのメディアが大した検証もしないで、すぐに新しいニュース、今回であれば、新監督アギーレの話題に飛びついていってしまう。だから原さんも、ちょっと感想を語っただけで許されるだろうっていう感覚になる。"検証"と言うからには、もう少し具体的なもの、「あのときザッケローニ監督はどうしたかったのか」とか、それに対して「選手がどうプレイしたから、こうだったんだ」とか、そんな詳細な話も聞きたかったんですけどね。そういう意味では、7月末のW杯総括会見の場に、ザッケローニ監督がいなかったのも残念でした。

―― 浅田さんは、どう思われていますか。

浅田:僕は正直、日本代表の監督人事が、4年に一度の定期異動のようになっていることがしっくりこない。"検証"と言うのなら、W杯に関係なく、常々行なわれるべきなのに、それがなされていないのか、(代表監督が)途中で解任されることもなければ、契約を延長して「留任してください」って話にもならない。事務的に4年サイクルで回っている感じがすごく気持ち悪い。協会だって、検証はしていると思うけど、それがどう生かされているのか、というのがちょっと不透明な印象を受ける。

―― それは、監督や選手だけでなく、協会も見られていますよ、評価されていますよ、という風潮が日本の場合はないからでしょうね。

杉山:ないよね。

浅田:結果、(メディアは)無理にでも話題を転換してしまおうとする。そういう体質というか、雰囲気は、常に厳しい目を向けなくてもいい、という状況をどんどん膨らませてしまっている。

杉山:本来、楽しいことなんだけどね、サッカーの試合を振り返って、あれこれ言い合うのは。そこで、違う意見の人がいたっていい。それこそ、検証なんだから。今回のW杯にしても、日本はグループリーグで敗退したけど、「日本の戦いぶりは別に悪くなかった。俺はよかったと思うよ」って、言う人がいてもいいんだよ。

中山:「負けたら、もう何も見ない」みたいな状況になってしまうより、いろいろな意見を持った人たちが、試合や大会のあとに言い合う場があったり、そういうテレビ番組があったりしたほうがいい。

杉山:試合のあとに反省、検証するのは、悪いことじゃないからね。それをやらないと、サッカーの魅力はあぶり出されない。要は、試合に負けても、たとえ3連敗に終わったとしても、その結果を楽しめる国じゃないとダメなんですよ。

浅田:確かに今は、「ほら見たことか。日本がグループリーグを突破できるわけねぇんだ」といった、すべてを否定するような意見が出てきたりして、ちょっと極端な傾向が強い感じがする。どんなにいいサッカーをしていても、3連敗することはあるんだし、杉山さんが言うように「日本のサッカーは悪くなかったよ」って言う人がいてもいい。

杉山:そうそう。運もあるしね。

中山:たぶん、居酒屋とか電車の移動中とか、そういうところではサッカー好きの人同士で、あれこれ話をしているとは思うんですよ。でも、メディアがまったく触れないから、そういう人たちは特に今回、フラストレーションがたまっているかもしれないですね。

杉山:それは言える。だから僕は、プレイの中身も検証しなきゃいけないけど、その周り(メディア)も検証する必要性があると思っている。日本のメディアのレベルと、日本代表のプレイのレベルを考えたら、僕はむしろメディアのほうが低いと見ているからね。新監督のアギーレにしても、今は盛り上がっていて、僕自身、日本にとっていい監督だと思っているけど、これからもずっとアギーレがいい監督でいられるかどうかは、こっちの人間(メディア)がどう対応するかによる。ザッケローニ監督もそうだったでしょ。最初は期待されて、結果も出して、決して悪くはなかった。でも、しばらくして底が見え始めて、魅力がどんどんなくなっていってしまった。でも、これがイタリアやスペインだったら、そういう状態に陥ったときに、メディアが突っつくわけ。「なんで、3−4−3をやらねぇんだよ」とか「同じ選手ばっかり使っているんじゃねぇよ」とか言ってね。そうすると、多少はザッケローニ監督への興味がつなぎ止められる。したがって、そういうことができなかったメディアの検証も本当はしないといけないんだよね。

●「コンディショニングの失敗」は敗因と言えるのか?

―― さて、本題に入らせてください。ザッケローニ監督に率いられた日本代表の、ブラジルW杯の結果を受けての検証をしていきたいと思います。まずは、W杯に臨むにあたってのコンディショニングの失敗について、です。今回のW杯における日本の問題、教訓になったことは何だったか、ということを事前にみなさんにうかがった際、誰もがコンディショニングを強調されていました。

杉山:今回のW杯では、日本代表のコンディションの悪さが余りにも目についたんだけど、僕からすれば、本当はそんなことを問題点のひとつにさえ挙げたくない。4年もの間、多くの大金をつぎ込んでやってきて、最大の敗因はそこだったですか? となって話が終わっちゃうからね。にもかかわらず、原さんは先日の記者会見でも、「(拠点の)イトゥは涼しかったけど、試合会場が暑くて、その分、調整するのが大変でした」とか、「(5月下旬の)指宿合宿で追い込み過ぎました」とか、コンディション作りでうまくいかなかった点を口にした。それにはもう、開いた口が塞がらないというか、情けなさを感じたよ。だって、コンディションのことを言い訳にしたら、自分の無能さを証明しているようなもの。最もやってはいけない、「初歩的なミスをしました」と言っているのと同じなんだから。それでいて、代表チームを統率するトップの人間が、平気な顔をしてコンディション作りの失敗を敗因に挙げるのは、すごくカッコ悪い。だから僕の中では、原さんが一番の厳罰対象になる。

浅田:昨年、コンフェデレーションズカップがあって、ブラジルには一度、行っているわけですからね。協会側が、イトゥが寒くて試合会場は暑いとか、あまりにも基本的なことを敗因に挙げることへの違和感は、確かにある。と同時に、以前の日本はコンディショニングという部分に対して、「もっと緻密だったのになぁ」という悲しい気持ちもありますね。暑熱対策だとか、給水だとか、そういう細かいところに気を配ることによって、何とか強豪国との差を詰めようとしてきた。ある意味、そうしたことをやってきた結果、日本のサッカーは2002年ぐらいまでは右肩上がりに伸びてきた。ところが、ジーコ監督の頃からかなぁ......、「サウナに入れば暑さ対策になる!」みたいなレベルになってきちゃった。

杉山:日本はまだまだ弱者なのにね。「強者の論理」になっちゃった感があるね。

浅田:そういうこともあってか、コンディション作りに関してすごく適当になってきた。日本の協会には、そういうことの蓄積があるはずなのに、いつの頃からか失われて、コンディショニングというものに対して、大ざっぱなチームになってしまった。

中山:ヨーロッパナイズというか、上のほうのレベルに合わせちゃって、自分たちの本当の実力を見失っていたというのはあるでしょうね。選手だけでなく、準備する側の協会のスタッフとかも、感覚が少し狂ってしまったんだと思う。第一、コンディションが万全だったとしても、コロンビアに勝てる力があったのか、というと甚(はなは)だ疑問。自分たちの実力を見誤っていたことも含めて、コンディションうんぬんで結果が出なかった、と語るのはナンセンスでしょ。

―― 試合会場の高温多湿は、対戦相手だって条件は同じですからね。

杉山:そう。だから、コンディションは(負けた)理由にならないんだよ。相手だってコンディションが悪かったかもしれないし。コンディションを言い訳にしたら、サッカーの話は一切できなくなるんだよ。

浅田:日本のサッカーは、特に運動量がカギになるからコンディショニングは重要な要素。だからこそ、そこにフォーカスしたくなるんだろうけど......以前は緻密すぎるくらいできていたことが今はできなくなったんだから、むしろ恥ずかしいこと。それを敗因にするのは、あまりに情けないですよね。

―― 何はともあれ、コンディショニングをいい訳にしてしまうこと自体が、ブラジルW杯で改めて痛感させられた日本代表の最大の反省点と言えそうですね。

浅田:杉山さんが言う「コンディションを理由にするのは最低だ」というのとは違って、「昔できたことができなくなるのは最低だ」っていう感じ。せっかく過去の蓄積があるんだから、コンディショニングについては、監督に意見してでも、協会が積極的に働きかけていかなければいけないと思う。

(つづく)

text by Sportiva