写真提供:マイナビニュース

写真拡大

先日、愛読しているある評論家の方のブログの中に、下記のような一節があった。

動物行動学でも知られている現象について。巣の中にいる鳥は、巣の外から他の鳥などに攻撃されると、まず巣を守ろうとする。本来は、巣にじっとしていると攻撃されやすいのだから、巣の外に逃げることが合理的に思える。ところが「巣づくり」に費やした時間やコストが大きい鳥ほど巣を守ろうとする傾向があるという。

これを人間に置き換えて考える。私たちが仮に誰かに自宅を襲われた時に自宅を守らず逃げてしまうことが事前にわかっていたら、自分で家を建てるよりも他人の家を襲う方にまわった方が合理的だ。もっとも、そういう生物はいずれ滅亡する。従って、仮に自宅を何者かに襲われたとしても、自宅を守り、かつ、他の人の自宅を襲わない生物が生き残ったとも考えられる。

この話を読んで、私は「サンクコスト」という言葉を思い出した。

○「サンクコスト」とは?

ある時、私が200万円で新車を買ったとする。この新車の調子が悪く、修理に出して見積もりを依頼したところ60万円かかるとする。私はしぶしぶ60万を払って修理に出したと仮定する。ところがしばらくたって、今度は新車の他の部品が故障し、同じく修理の見積もりを依頼したら今度は120万円ほどかかると言われる。

最初の修理で60万円請求され、すでに支払い済みである。その上に、今度は120万円がかかるという。合計だと180万円にもなる。これならば、あと20万円追加すれば、別の新車が買えてしまう。買ったばかりの新車は失敗だったと諦めて、別の新車を買い直そうと私は思うだろうか?

ただし、この場合、私が先に支払った50万円は完全なムダ金だったことになる。120万円を新たに追加で払ってでも修理してもらうことにする可能性が高い。もっとも最初から200万円で買った新車の修理に180万円かかると言われれば、私は間違いなく修理はせずに、別の新車に買い替えただろう。

人間は「含み損」を抱えていると、このように「サンクコスト」による影響を強く受ける。例えば、株式投資を行う時。仮に、購入した株の株価が直後に値下がりしてしまったときに、値下がった安い値段で同じ銘柄をさらに買い増すことがある。これを「難平」(ナンピン)と呼ぶ。「含み損」を抱えると、この「難平」を繰り返すことで、平均購入価格を下げることができる。なぜこのような心理が働くかというと、最初に投資した費用がムダになってしまうのを嫌うからだ。この「サンクコスト」による心理の萎縮は、最初の投資額が大きければ大きいほど激しくなる。

ところで、企業経営や新規プロジェクトなどでも同じ心理が経営者やマネージャーの心理には働く。「失敗を認めたくない」という気持ちに、これまでに投下してきたリソースの大きさが、「今、撤退するべきだ」という冷静な判断を狂わす。

これは事業だけに関する話ではない。就職先や転職先の企業のこと、これまで気付いてきた人間関係のこと、自らのこれまでのキャリアのこと、そして恋愛関係についても…。

<著者プロフィール>片岡英彦1970年9月6日 東京生まれ神奈川育ち。京都大学卒業後、日本テレビ入社。報道記者、宣伝プロデューサーを経て、2001年アップルコンピュータ株式会社のコミュニケーションマネージャーに。後に、MTVジャパン広報部長、日本マクドナルドマーケティングPR部長、株式会社ミクシィのエグゼクティブプロデューサーを経て、2011年「片岡英彦事務所」を設立。企業のマーケティング支援の他「日本を明るくする」プロジェクトに参加。