『平穏死できる人、できない人 延命治療で苦しまず』(PHP研究所)

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 スパゲティ症候群という言葉をご存知だろうか。点滴やカテーテル、モニターなど、身体中にチューブやセンサーを装着された重症患者をこう呼ぶという。

 医療が発達した現代、9割以上の人が病院で息を引き取る時代となった。末期患者は病院のベッドで"スパゲティ"にされ、意識が朦朧となったり苦しんだりして死ぬという。そんな現状に疑問を抱いた医師・長尾和宏氏が実践、提唱しているのが「平穏死」だ。

 人生の最期に苦しむのは病気のせいではなく過剰な延命治療のためで、「過剰な延命処置さえしなければ、たとえ末期がんでも人は穏やかに、枯れるように死んでいける」のだという。

 しかも、長尾医師の著書『平穏死できる人、できない人 延命治療で苦しまず』(PHP研究所)によると、実は「平穏死」とはほど遠いように思える"おひとりさま"こそ、平穏死できるという。一体どういうことか。

 現代において「平穏死」には乗り越えるべき問題が山積みだ。まず医師の9割が「平穏死」という言葉や概念すら知らない。よって「患者側が何も要求しない限り、医師は命を一分一秒でも長引かせよう」とする。それが医師の宿命でもある。だから、平穏死を望むなら越えなければならない3つの課題があるという。

1.自分自身が死に意思を持つ。希望を考え、終末期治療の知識も得て、準備をする
2.自分の意志を通すためには家族の同意と協力がどうしても必要。理解してもらうなど意思を統一する
3.平穏死に一番興味がないのは実は医療関係者なので平穏死を支持してくれる病院、医師を選ぶ

 実際、平穏死を選び、延命治療をしなかった末期がん患者が、死ぬ前日まで食べて動いて、そして宣告された余命より長く生きたケースは数多いという。

 そして"おひとりさま"である。平穏死するには自己決定力が必要だ。そして、明るく自分の死を受け入ることも大切である。これはおひとりさまの人生そのものであり、得意分野ではないか! 

 さらに家族の不在という環境が平穏死にとってはプラスに働くという。「最後の最後に変な横やりをいれてくるよけいな家族」がいないからだ。だからこそ本人の意思が十分に尊重され、穏やかな平穏死を迎えることができる。しかもおひとりさまのケースで最も危惧される「在宅治療」も、介護保険を利用すれば十分可能だという。実際、98歳のおひとりさまの女性は、訪問する医師と治療方針を決め、医師とまるでデートするように楽しく在宅治療を実践したらしい。

 ちなみに、逆に平穏死できない職業ベスト3は「医師とお坊さんと学校の先生」。「死」に対して頭でっかちになり、凝り固まり、価値観を変えることが難しいからなのだとか。うーん、納得。

 もちろん、人によって価値観は様々だ。最後まで最新の治療を受けたい人もいるだろう。だからこそ"そのとき"のため、「自分はどう死にたいか」を考えておくことは決して無駄ではないはずだ。誰しもいつかは死を迎えるのだから。
(伊勢崎馨)