「サーッサ、ヨイヤッサ!」

 台風直撃の8月9日。雨の中、釜石市民が掛け声をかけ、市内の目抜き通りを踊りながら、練り歩く。日本選手権7連覇の"北の鉄人"新日鉄釜石ラグビー部の流れをくむ地域クラブ「釜石シーウェイブス(SW)」のメンバーたちも、真っ赤なTシャツ姿で跳んだりはねたり、笑顔で行進した。

 釜石市はこのほど、2019年に日本で開かれるラグビーワールドカップ(W杯)開催都市への立候補を表明した。この伝統の祭り、『釜石よいさ』に初めて参加した43歳の元日本代表フォワード、伊藤剛臣が踊りながら、W杯への思いを口にした。

「立候補はうれしいですね。誇りに思います。ここは7連覇の伝説の地ですから。ここでプレーできることに感謝しています。自分たちが頑張って、ワールドカップ招致をもりあげていきたい」

 誘致の始まりは、東日本大震災直後の3年前にさかのぼる。新日鉄釜石ラグビー部OBらでつくる復興支援NPO「スクラム釜石」が市に提案した。紆余曲折を経て、「夢物語」がようやく現実味を帯びてきた。

 過疎化が進む、人口約3万7千人の被災地が世界のメガ・イベントを開催できるのか。いまだ仮設住宅に住む人々への配慮は大丈夫なのか。開催基準となる1万5000人収容のスタジアムはどうするのか。交通機関は? チーム、観戦客の宿泊施設は? 釜石にとって、いわば壮大なるチャレンジである。でも課題をひとつひとつクリアして、野田武則市長は重い腰を上げた。釜石市教育委員会の釜石市スポーツ推進課ワールドカップ誘致推進室の増田久士さん(元釜石SW事務局長)が説明する。

「こんな震災にあった小さな町が、全国と勝負できること自体が、釜石にとっては貴重な機会なのです。(W杯開催の)条件をぜんぶクリアできる見通しが立って、市民のみんなが協力してくれるところまできたから、(市長が)手を上げた。やっと誘致に向けたスタートが切れたということです」

 懸案のスタジアムは、津波で被災した鵜住居(うのすまい)小学校などの跡地に建設。多くを仮設スタンドとし、開催基準を満たすスタジアムをつくる。将来、建設予定の高速道路で交通問題がある程度解消され、チームや観戦客の宿舎もなんとか対応できる見通しが立ちそうだ。難題の財源確保は、岩手県や日本スポーツ振興センターなどの協力を得たいとしている。

 市民の機運を盛り上げるため、随時、釜石誘致応援タウンミーティングが開かれてきた。10日は「ラグビーと男女共同参画の推進」をテーマとし、日本ラグビー協会の稲沢裕子理事が講師を務めた。「開催地になるかどうかはわかりませんが」と前置きし、稲沢理事は期待した。

「ワールドカップで釜石から何かを発信してほしいなというのはありますね」

 2019年W杯の開催地立候補は10月いっぱいで締め切られる。東大阪市や熊谷市、神戸市などが既に立候補を表明。東北では、仙台市も招致を検討している。

 一方、19年W杯組織委員会は目下、立候補希望都市と個別対話を重ねており、立候補締め切り後、国際ラグビーボード(IRB)側と一緒に候補地視察を実施する。会場決定は来年3月。試合会場は、「10〜12会場」になる見通しだ(開幕戦と決勝戦については建て替えられる新国立競技場で開催されることが決まっている)。

 会場選定においては、開催に必要なスタジアムの規模や設備などの諸条件、交通機関、宿泊施設などインフラ面、大会後のスタジアム活用、開催理念、W杯を通したまちづくりなどが吟味されることになる。

 19年W杯組織委員会は、会場選定のほか、約300億円といわれる財源確保と機運の盛り上げ(プロモーション)が主な課題となっている。ラグビーW杯2019組織委員会の徳増浩司事務局長によると、「試合会場の誘致に強い関心を持っているところは20〜30自治体」という。

「ラグビー協会はラグビーの普及・発展を、組織委は収益性をより大事にするでしょう。ただ全国の人々をできるだけ巻き込もうとすれば、地域的にバランス良く会場をおけるかがポイントとなります。いずれにしろ、最後は組織委の考えをIRBに納得してもらわないといけません」

 組織委にとっては目下、大会に向けての「戦略づくり」の期間である。日本ラグビー界はアジアで初のW杯を開くことで、どんなレガシー(遺産)をつくり、アジアのラグビーの盛り上がりをどう図っていくのか。大きくいえば、国際平和にどう貢献するのか、である。

 盛り上げに関しては、2020年東京五輪パラリンピックと連携して効率的な運営を図るため、このほど、同五輪パラ組織委員会と連絡会を設置することになった。ラグビーW杯も東京五輪パラも、国内的課題のひとつは震災からの復興支援である。そういった意味でも、開催地として被災地の釜石が選ばれるかどうか、注目されている。

松瀬 学●取材・文 text by Manabu Matsuse