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物質・材料研究機構(NIMS)は、物質内を走行する表面に敏感なエネルギーの低い低速電子がエネルギーの情報を保持する平均走行距離を正確に計算するための理論的なアルゴリズムを開発したと発表した。

同成果は、NIMS 極限計測ユニット・表面化学分析グループの达博ポスドク研究員、篠塚寛志 元ポスドク研究員、吉川英樹グループリーダー、田沼繁夫特別研究員、中国科学技術大学の丁澤軍教授らによるもの。詳細は、「Physical Review Letter」のオンライン版に掲載された。

ナノスケールの表面層・界面層は、触媒、電池、半導体、センサ、防食材などの種々の機能材料においてその特性を左右するため、存在する元素の量とその化学結合状態を知ることは、機能材料の性能向上や新材料の開発にとって不可欠である。これを調べるには、表面・界面層に存在する元素の存在状態を担う電子(結合電子)の正確な分析・計測が必要であり、X線や電子などの外部からの刺激で物質の外に取り出された結合電子のエネルギーとその強度分布測定が利用されている。その際、測定されたデータが、表面からどの深さの範囲から得られたのかを明らかにする必要がある。この深さの範囲は、元のエネルギーを保ったままで電子が物質内を進むことができる距離である非弾性平均自由行程という物理量により求めることができる。非弾性平均自由行程を実験的・理論的に求める研究は1970年代より世界中で行われてきたが、特に表面に敏感な低速電子(200eV以下)では難しく、この値を決めることは長い間、課題とされてきた。

物質中の非弾性平均自由行程は、その物質のエネルギー損失関数が完全に分かっていれば理論的に正確に計算することができる。エネルギー損失関数とは、物質が電磁波と相互作用するときの大きさを表すもので、物質内での散乱現象で電子が失うエネルギー量および運動量の変化で記述される。ところが、従来のモデル関数では、エネルギー損失に運動量変化が伴う場合の寿命を考慮しておらず、運動量変化の起こらない限られた条件下での部分的なエネルギー損失関数(光学的エネルギー損失関数)しか求めることはできなかった。しかし、これでは非弾性平均自由行程を求めるエネルギー損失関数としては不完全である。特に、表面に敏感な低速電子では近似式も成り立たず、深刻な問題だった。

そこで今回、この問題を克服するために、光学的エネルギー損失関数を多数個の関数を組み合わせた合成関数で記述するとともに、運動量の変化を正確に表現する新規のモデル関数を導入することで、ほぼ完全なエネルギー損失関数を得ることに成功した。この計算方法を使うことにより、高輝度放射光施設を使った分光測定(拡張X線吸収微細構造分光測定)によって求められた銅やモリブデンの低速電子の非弾性平均自由行程の実験値により近い値を理論的に予測し、そのエネルギーと物質による違いを説明することができたという。

研究グループでは、今回の成果により、電子を使って原子数層レベルの物質表層の元素の定量分析・化学結合状態分析を行う際の正確さを向上させることができたとコメントしている。