インドの株式相場に連動するETFが米国で人気化している。理由はインド経済をテコ入れできると期待されるモディ新首相の誕生だ。インド株の復調に伴って、「新興国→先進国」という昨年から続いてきたマネーの流れは、足元では止まったようだ。

米国の投資家の話題になっている2つのETF(上場投資信託)がある。インドの株式相場に連動するEPIとINDAだ。5月からの2カ月間で2割程度上昇して人気化。株高に加えてインドの通貨高が背景だ。

理由はインドの政情だ。インド西部グジャラート州前首相だったナレンドラ・モディ氏率いるBJP(インド人民党)が5月の総選挙で勝利し、モディ氏自身がインドの新首相に就任したのが効いた。モディ氏はグジャラート州首相時代に市場を開放し、外資導入などで経済を活性化した実績があるだけに、インド経済のテコ入れが期待されたのだ。

経常収支と財政収支が赤字で、インフレなのにマクロ経済が減速中――。インドは経済が停滞する新興国の代表格で、FRB(連邦制度準備理事会)が昨年5月に量的緩和策の解除を示唆すると、株価と通貨が同時に売り込まれた。

市場が希望をつないだのが、昨年9月にRBI(インド準備銀行)総裁となった経済学者ラグラム・ラジャン氏だ。2008年の金融危機を予想した学者としても知られる俊英でインフレ抑制と金融市場自由化を目指したのだが前政権からの協力が乏しかった。

インドは米国とは距離を置く政策で知られてきた。1947年に英国から独立したインドだが、冷戦時代には旧ソ連に接近した。1984年に起きた米国の化学大手ユニオン・カーバイドの工場爆発(ボパール事件)もインド国内の嫌米ブームを誘発し、インド社会は米国からの投資に消極的になった。昨年、ニューヨーク駐在のインド副総領事がメイドの雇用問題で逮捕されるとインド国民の対米感情はさらに悪化した。

そこにモディ氏が新首相として登場したのである。通称「モディノミクス」。人材、貿易、技術力、観光、伝統という「5本の矢」で成長を狙う経済政策を打ち出したからこそ、ウォール街も「買い」を入れた。「成長重視が評価されている」とは、昨年まで米国国務省で南アジア担当次官補代理を務めたアリッサ・アイリス氏。

モディ氏はグジャラート州首相時代に自動車大手のフォードなど米国企業に市場を開いており、外資導入を経済活性化の切り札にしようとしている。モディ新首相が掲げる自由・競争主義が米国など外国人投資家に評価され、ラジャン総裁とのコンビが期待されているのだ。メディアによると、モディ新首相は国連総会が開かれる9月に訪米して、ワシントンDCにてオバマ大統領との会談に臨むというが、爐土産〞となる市場開放策を投資家は期待する。

インド株の復調に合わせて、インドネシア、ブラジル、南アフリカ、トルコといった経常収支赤字国の株式相場も戻り基調にある。6月のFOMC(連邦公開市場委員会)でFRBが「ハト派」的な姿勢を強調したこともあるが、「新興国↓先進国」という昨年から続いてきたマネーの流れは、足元では止まっている。

松浦 肇(Hajime Matsuura)
産経新聞ニューヨーク駐在編集委員

日本経済新聞記者、コンサルタントなどを経て現職。ペンシルベニア大ウォートン校、コロンビア大法科大学院、同ジャーナリズム・スクールにて修士号を取得。


この記事は「WEBネットマネー2014年9月号」に掲載されたものです。