アニメ『ジュエルペット』生みの親、セガトイズの宮崎奈緒子さん

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 近年、おもちゃ業界を席巻しているのが「スマホ型トイ」と呼ばれる電子玩具だ。

 おもちゃといっても侮れない。カメラ撮影、赤外線でのメールのやり取り、音楽再生&録音、ゲームアプリ……と、大人向けスマホも顔負けの機能が詰まっている。しかも、主にタッチパネルを器用に操って遊んでいるのが「JS」と呼ばれる女子小学生だと聞けば、今さらながら驚く大人も多いだろう。

「いまの小学生は低学年とはいえ、親のスマホを奪って離さないほど操作方法には慣れています。だから、おもちゃのスマホでも、スライド・タップ・ドラックといった指操作や友達どうしでメールやアイテムのやりとり、SDカードに保存なんて機能は普通に使いこなせますよ」

 こう話すのは、大手玩具メーカー、セガトイズ執行役員(兼TOY事業部TOYMD部部長)の宮崎奈緒子さん(36)。

 彼女はJSに人気のアニメ“ジュエルペット”のキャラクターと連動させたスマホ型トイ『ジュエルポッド』を他に先駆けて企画開発し、2010年の発売からシリーズ累計100万台超を売り上げたヒットメーカーだ。

 宮崎さんはもともとゲーム機ビジネスに精通していたわけではない。明治大学商学部を卒業後、キャラクターデザインやプロデュース業などを請け負う小さな会社で“癒し系キャラ”のライセンス活動に励んでいた。

 前職でつくった代表的なキャラは、<OLの姿をした“豚”>。更衣室できついスカートを無理やり履いていたり、風呂で半身浴をしていたりといった設定のユニークな3Dキャラを考案し、大手メーカー各社にグッズ化の提案をして回った。

「自分が生み出したキャラを世に広めたいというのが夢でした。でも、私は絵を描くセンスがないので、どちらかというとプロデューサー的な立ち位置。ゆくゆくはライセンス展開ができたらいいなと。

 OLキャラは自分と同世代がターゲットだったので、共感を得られやすいと思いました。<クールで仕事バリバリ系>が豚なら、<モテモテのお嬢様系>はウサギとタイプ分けして発展させるなど、工夫も凝らしました」

 一時は商品化されたキャラが原宿のキデイランドに並んだ時期もあったというが、勤務先がキャラクタービジネスの縮小方針を出すなどしたため、転職を決意せざるを得なかったという。そして、中途採用募集の広告で目に留まったのがセガトイズだ。

「2005年当時のセガトイズは、『お茶犬』などのキャラ商品や、家庭で味わえるプラネタリウムの『ホームスター』、音楽に合わせて動く『アイドッグ』など、次々と斬新な発想のおもちゃを開発して、勢いのある会社だなと感じました」

 腕が鳴るとはこのことか。宮崎さんの才能が新天地で発揮されるまでに、そう時間はかからなかった。転職後2年で女児向けの新キャラ開発メンバーに抜擢された。

「女の子の好みは多様化しているので、とにかくたくさんの動物キャラをイメージして、『私はこの子がいい』と選べるようにしました。そして、誰に絵を描いてもらおうか考えていたときに、サンリオとの共同開発の提案が持ち上がりました」

 しかし、自社でデザイナーや開発部隊を多数抱えるサンリオにとって、わざわざ他社と組んでキャラクターを作る必要はない。むしろ、組む理由が必要であった。

 そこで、当時、小学生が家庭でパソコンを使い始めていることをヒントに、宮崎さんはゲームキャラとしてのデビューを提案した。

「ペットキャラの目はそれぞれ意味のある宝石にして、魔法のアイテムを加えるなど、女の子が大好きな要素を次々と足して、ハローキティーのデザイナーの山口裕子さんと二人でジュエルペットの世界観を膨らませていきました」

 そうして誕生したジュエルペットは、後にテレビアニメや雑誌連載、そのほか数々の商品展開を見せていくことになるが、セガトイズが早くから着目したのが、普及し始めたスマホだった。

「私の周りでもスマホに夢中になっている人が増える中、『オトナの気分を味わいたい』子供にもスマホ型の玩具を作れば絶対に受け入れられるはず――と確信しました」

 開発過程で宮崎さんが上司から口酸っぱく言われ続けていたことがある。

<7〜9歳ターゲットの商品を作るなら、女児を渋谷のギャルと思え!>

 つまり、最終的な仕様や使い方は易しくしても、最初から子供向け商品を作っていたら、必ず飽きられるというわけだ。そこで、宮崎さんはじめ開発メンバーたちは、スマホはなぜ普及しているのか、女子高生がどんなアプリで遊んでいるかなど、徹底的に調べ上げた。

 こうして2010年に発売にこぎつけたジュエルポッドは、指の動きだけで操作するスマホ型玩具から、モノクロ液晶、カラー液晶タッチパネルと年々進化させていった。機能もカメラや音楽、デコメールの送受信や写真加工、公式サイトからPCでゲームをダウンロードし、SDカードで追加するなど、いまでは本物のスマホに限りなく近づいている。

 8月7日にはシリーズ第5弾となるタブレット型(ジュエルパッド)も発売された。5インチの大画面ならではの遊びを追求し、動画の撮影・編集やマンガ・小説の掲載、タッチペンによるお絵かき・学習アプリなどの機能が満載だ。

 すでに競合他社の中には、IP電話や高速データ通信が楽しめるスマホ玩具も登場している。ここまでくると「おもちゃ」とはいえない代物といえるが、宮崎さんのジュエルポッド開発にはひとつのこだわりがあるという。

「使いやすさを追求したり、遊びに拡張性を持たせたりする努力は今後の機種でもしていきますが、あくまでも安全なコミュニケーションツールとして、“おもちゃ”であり続けたいと思っています。

 だから、価格もおもちゃの域を超えないよう1万円前後で抑えていますし、最終的には子供たちがハードにどこまでの機能を求めているのかといったニーズを見失わないようにしたいです」

 いまでは“JSの必須アイテム”と言われるまでに成長したジュエルポッド。セガトイズのスマホ型トイが他社の追随を許さないのは、もちろん先行者利益も大きいが、なによりキャラづくりから魂を込める宮崎さんのソフトパワーの勝利といえるだろう。

●撮影/渡辺利博