『彼女たちの売春(ワリキリ) 社会からの斥力、出会い系の引力』(荻上チキ/扶桑社)

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 女性の貧困が社会問題化している。2011年には国立社会保障・人口問題研究所が「20歳から64歳の単身女性の3人に1人が貧困」「19歳以下の子どもがいる母子家庭では貧困率は57%」という衝撃の調査結果を公表し話題になったが、その後も女性の貧困は改善されるどころかますます加速している。
 そんな"ガールズプア"に呼応するように増えているのが「性風俗で働く母親たち」の存在だ。NHK『あさイチ』でも「性風俗は特殊ではなく母親にとっても身近な存在」「貧困にあえぐ母親のセーフティーネットになっている」と働く風俗ママを特集内で紹介し、大きな反響を呼んだことは記憶に新しい。
 だが、性を売る母親は何も風俗で働いている女性だけではない。"管理された"風俗店とは別に、個人的に性を売る "ワリキリ(割り切り)"にも母親が数多く存在するという。ワリキリは路上で客を引く"たちんぼ"とは異なり、出会い系サイトや出会い喫茶、テレクラなど出会い系メディアを媒介とし売春を行うことだが、90年代のエンコー(援助交際)を経て、2000年代に入って"ワリキリ"、または"ワリ"と称されるようになったものだ。
『彼女たちの売春(ワリキリ) 社会からの斥力、出会い系の引力』(荻上チキ/扶桑社)は、ワリキリで生計を立てる女性100人以上にインタビューしたフィールドワークの著だが、そこには当然のように母親たちも登場する。
「2011年に取材した女性100人のうち、子どもがいるという女性は14人。そのうち4人がバツイチのシングルマザー、1人が現在離婚調停中で、8人が未婚のシングルマザーだった」(同書より)
 風俗店以外でも子どもを抱え売春で生計を立てる女性、特にシングルマザーの多さには驚かされるが、彼女たちのワリキリは切実だ。
 まずは4歳の息子を抱えるバツイチシングルマザー、リオのケースを紹介したい。リオは固定のワリキリ客を10人ほど持ち、その間毎日のように出会い喫茶に通って新規顧客を開拓している。ワリキリ料金は通常1万5千円から3万円ほどで、リオの場合毎月の収入は40万円ほど。その収入は「子どもの将来のため」ほとんどを貯金しているという。
 以前は風俗店で働いていたというリオだが、それを辞めた理由は「子どもがいるから」だという。
「ワリキリなら、自分の都合に合わせて時間を決めることができる。子どものために貯金をしているのに、一定時間を拘束されてしまう風俗は、割に合わないと感じた」(同書より)
 確かに理にはかなっている。しかも出会い喫茶なら風俗のように店にバックマージンを取られないし、好きな時間に働ける。また、相手を自分で選べるし、サービスの質や値段を決められる。誰の干渉を受けることもなく "自由"だ。もちろん身の危険などのトラブルなどリスクもあるが、母親である彼女たちにとって、子どもに合わせて働けるワリキリは風俗店よりも合理的だ。
 もう1人、小学校3年生の息子を持つ未婚のシングルマザー、ユウのケースもその動機は似通っている。10代で援助交際を経験したというユウは、高校卒業後はキャバクラで働き、SMの女王さまも経験した。いわば水商売しか経験したこともなく、未婚のまま子どもを産み、そして子どもが3歳になると子どもを託児所に預けワリキリを始めた。
「今は、子どもが小学校に行っている間にワリキリしている。子どもは普通に学校行って、その後は学童保育に行って。で、あたしが仕事終わったら迎えにいくみたいな」(同書より)

 彼女も子どもの時間に合わせて「夜7時には帰路に着く」という規則正しいワリキリで生計を立てて子育てをする。
 また、あるシングルマザーは子どもを寝かしつけてから、自宅ワリキリをする。
「子どもを寝かしつけてからワリキリで稼ぐんだけど、でも、まだ(子どもが)小さいから、家にひとりではおいていけなくて。だから自宅に男性を呼んでするの」(同書より)
 寝かしつけた子どもの隣で初対面の男性と売春することには衝撃を受けるが、そうせざるを得ないのもまた「子どもをひとりでおいていけない」という親の心情というのが切ない。
 こうして自らの身体を使ったワリキリでお金を稼ぎ、その報酬で子どもを育てる──。
「この社会はとても脆弱なもので、いかにも頼りない。だから彼女たちは、生き延びるための手段としてワリキリを選択した」

 著者がこう記すように、彼女たちの多くは家族からも社会からも孤立している。学歴もキャリアもなく、頼る人もいない女性が子どもを抱えて生きて行くための手段がワリキリであり風俗──それが豊かであるはずの日本の現実だ。
 しかも、彼女たちはワリキリを楽しんでいるわけではない。

「買う男はキモイ。苦痛なだけ。気持ち悪い」(リオ)
「ワリキリでのセックスは、面倒だと感じる」「何も感じない」(ユウ)
 
 問題はそのしわ寄せが母親だけでなく子どもたちにも及んでいくことだ。前出のリオはワリキリ生活などで精神状態が安定せず抗うつ剤を飲んでいるという。
「(出会い)喫茶は本当、病んでる子が多い。聞くと、みんな安定剤飲んでるとか、手首切ったことがあるとか。その原因は彼氏だったり、親だったり、いろんな理由がある。本当にいろいろ。一概にこれっていうのはないんだけど、病みやすいよね。みんな病む。すぐに病む」(同書より)

 こうした悪循環は必然的に子どもたちへ向かう。10年には大阪で23歳の風俗嬢が2人の幼児をマンションに50日間も放置して餓死させる事件が起こったが、これも風俗で働く母親のひとつの "現実"だ。
 こうした母親、女性たちを個人的資質として貶め、蔑み、批判し、切り捨てるのは簡単だ。だが、その背後に貧困、格差、女性蔑視という社会的構造があり、それが子どもたちへのネグレクト、虐待に連鎖していることを決して無視するわけにはいかない。
 今、日本の全国民がこの状況を直視すべき時だ。
(伊勢崎馨)