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●仮面ライダーマルスの変身ポーズは昭和ライダーの変身を彷彿とさせる昨年、一世を風靡したTVドラマ『半沢直樹』オネエキャラの金融庁統括官・黒崎の好演から一転、歌舞伎界初の仮面ライダーへの変身――仮面ライダーの毎年恒例夏の劇場版、今年のトピックは、やはり歌舞伎俳優の片岡愛之助が変身するということだろう。仮面ライダーの劇場版は、毎回さまざまなゲストが出演する。今人気の俳優、芸人、タレント、スポーツ選手。皆、子供の頃の熱い想いや憧れを抱きながら演技に挑んでいく。もちろん愛之助も、少年時代に仮面ライダーやキカイダーなどの活躍に声援を送った、かつての子供たちの一人だった。

現在公開中の『仮面ライダー鎧武 サッカー大決戦!黄金の果実争奪杯(カップ)!』にて、愛之助は仮面ライダーマルスに変身するコウガネ役を演じている。『仮面ライダー鎧武/ガイム』における鍵「黄金の果実」を完成させようと企む最強のライダーであり、注目の変身シーンはもちろん、アクションや立ち回り、彼の十八番と言える眼力など見どころも多い。しかし、愛之助がライダーのオファーを受けた理由は、ただ少年時代に抱いた想いや憧れだけではない。仮面ライダーへの憧れが、現在の片岡愛之助として牽引する歌舞伎への想いに繋っていく、ひとつのエピソードがあった。

――「仮面ライダーマルス」の変身シーン、拝見させていただきました。どことなく歌舞伎を思わせるつくりで、存分にタメが効いていました。動きもスローで、昭和ライダーっぽいというか。平成ライダーではちょっと珍しい動きですよね。

伝わってよかった(笑)。ある意味古風ですよね。そこが歌舞伎っぽいといえば、歌舞伎っぽい。確かにゆっくり腕を回転させるのは、1号をはじめとした昭和ライダーの変身! を彷彿とさせますね。平成ライダーの変身は、バーッ、ビャーッ、ババーン! と高速で動くか、あるいは最小限に留めるかどちらかの印象がありましたから。

――その初の変身ポーズ、皆さんがお聞きしたいところだと思います。

正直言うと、最初は恥ずかしかった(笑)。ただ、やっているうちにどんどん癖になる自分もいて。驚いたのは、ライダーはどんな場所でも変身できてしまう。こうして(体を動かして実際に変身ポーズをとる)変身する……するとスタッフさんが「はい! ここでストップしてください!」と手と顔の位置を合わせ、「はい! では、愛之助さんはこちらに」と僕は掃けます。

そこでスーツアクターさんが入ったマルスが同じ位置に入り「よーいスタート! はい!」とライダーが動き出して撮影が再開する――特撮の現場では当たり前のことかもしれませんが、これには驚きました。面白いな、どこでもできるじゃん! って。スタッフさんは「これ原始的な形なんで……」って言っておりましたが(笑)。

――愛之助さんが演じたコウガネは、ひと癖あるというよりは、ストレートな悪役でした。

最初から"悪"という存在感を全面に押し出すべきなのか、徐々にせり上がってくるものなのか、金田監督に聞くと「出てきたらドーン!」とおっしゃっていたので(笑)。ただ、ちょっとしたストップモーションでぐっと睨みを効かせる――歌舞伎で言うところの"見得を切る"ようなことを期待されていたので、眼力はかなり入っています。あとは、動き。ボスキャラのような大きな存在になればなるほど、あまり動かない。仁王立ち。あまり動かず、動じず、堂々とすることで役は大きく見えてくる。ストレートな悪役が組み上げられていきます。悪役は楽しいですよ。

――以前から悪役を演じるのが楽しいとおっしゃっていましたよね。

人に悪いことをするという行為は日常的ではないでしょう? 例えば、蹴り飛ばして、踏みつけて、高笑いすることって普通はない。非現実的なんです。歌舞伎の役でも同じで、だいたいの正義、だいたいの主人公は(演じていると)けっこうストレスがたまります(笑)。演じる上でも実際の主人公の心情でも。主人公がどれだけ痛めつけられるかで、お客さんも「あーかわいそう! がんばれ!」と感情移入する。だから、いかにして主人公に負荷をかけるかというのが、悪の定義。こらえるという抑止はいらず、むしろ発散することが"悪"の心情に繋がります。実は、悪役こそストレスがたまらないんですよ。

――歌舞伎俳優が根底にある愛之助さんにとって、役作りのプロセスとはどういうものでしょう。

役作りはオーソドックスだと思いますよ。内面、中から構築していって、プラスアルファでどれだけ色づけしていくか。役柄によりますけども。ただ、やはり芝居というのはひとりでできるものではなく、相手の役者との受け答えの連続なので、どんなトーンなのか、相手の立場や心情はどうなのか……自分の役柄だけではなく、外的要因も関係してきます。今回のライダーは、所謂アウェイ(笑)。こういうのは現場に入らないとわからない部分はあるので、もう現場との駆け引きにもなりますね。

――外的要因というのは、例えば衣装のような。

そうです。イメージや雰囲気というのは、自分が見せようと思っても見えない場合もありますから、とても難しい。ですが、衣装というのはひとつあります。衣装を実際に着る――その過程で自分の中のイメージが覆され、新たな発見もあったりして、イメージや雰囲気がより具体化していく場合もあるんです。衣装と自分があり、台本があり、相手の役者がいて役が完成されていく。今回だとツメを深緑に塗ったり、ちょっと指輪をつけてみたりとか(笑)。それらが頭の中でガチャガチャっと組み上がっていってできたのがコウガネです。

●マルスにはスーツアクターとして、僕が入りたかったくらい――そうして臨んだ特撮の撮影現場ですが、やはり通常のドラマや映画とは違う、独特の雰囲気があったかと思います。

独特でしたね。やはり爆発が一番びっくりします。工場の中での撮影だったので、とにかく反響が凄まじい。爆発のタイミングは把握できないし、だいたいが自分の後方で爆発しますから(笑)。台詞を発して、立ち回りもこなして……そこで突然ドカーン! ときて、思わず目を閉じてしまったんです。金田監督は「はいオッケー、次いこうー!」って言うもんだから、「いやいやいや、監督! 今の絶対ダメでしょ! 目つぶりましたよ」とあわてて伝えました。金田監督がもう一度確認したら「んーダメだな、もう一回!」って(笑)。

――(笑)。金田監督との2ショットがブログに掲載されていましたよね。

金田監督とのやりとりはとにかく楽しい。もうやりとりにならないみたいな(笑)。「バーッ、ビュン、ビューンとやっちゃって!」みたいに、ジェスチャーや擬音がやたら多いんです。

――それでわかるものですか?(笑)

それがわかるんですよ(笑)。先ほどの爆発のお話もそうで、ざっくりした部分はありますが、そこが金田監督の魅力なんです。僕との相性はすごくいい。感覚的でわかりやすい。感覚的だからこそ、特撮のような良い画、生きた画、躍動感のある画が撮れるんだと思います。勢いと迫力が抜群。個人的な感覚だとわかりにくくなりますが、金田監督は、感覚的なことを皆に伝えることができる。これって実はすごいことですよね。

――ライダーチームは若い役者さんが多い現場でしたが、愛之助さんの目にはどう映りましたか? 合わせて、スーツアクターさんとのエピソードもあればぜひお聞きしたいです。

やはり勢いがある現場でしたね。スタッフさんも若い方が多い。現場全体が撮影を楽しめている印象で、タフでパワフル。金田監督の檄は飛びますが、すごくボジティブです。みんなで作品を創っている感じが伝わってきます。

スーツアクターについては、もう僕が入りたかったくらいで(笑)。ただ、マルスのスーツアクターを担当していた今井さんは、体がすごい。昔は鍛えていたというお話をされていて、あれだけ重いスーツを着てキレのある動きができるわけですから、軽はずみにやりたいなんておこがましいです。特に、殴られる、切られる側の受け身に注目して見ていましたが、映像よりも現場の方がよりリアル。学べる部分は多かったです。スーツアクターの方は、半端ないですね(笑)。昭和ライダーも夢中になって見てきましたから。

――仮面ライダーをはじめ、小さい頃から東映特撮をご覧になっていたんですよね。キカイダーもお好きだと聞いて驚きました。

僕は、仮面ライダー派でした。1号、2号、V3、X、アマゾンと見ていましたし、小さい頃は自分の日常と地続きに思えていて、リアリティがあった。本当に夢中になって見ていました。好きだったのはアマゾンかな。やはり記憶を辿るなら、あの「アーマーゾーン!」は鮮烈(笑)。後は、最近REBOOTも公開されましたが、キカイダーやハカイダーも大好きでしたね。むしろライダーよりものめり込んでいたかもしれない。

――最近の平成ライダーについてはどうでしょう?

学園ものの……『フォーゼ』ですね。"宇宙キター!"ってやつ(笑)。昭和ライダーを見ていた者からすると何から何までぶっ飛んでいますが、ついにライダーもここまできたかと。学園もので、宇宙を目指してライダーをやるっていうチャレンジングな部分もいいですよね。とても新鮮に見ることができて、時代時代に合わせたコンテンツの変化の仕方が、懐の深さがライダーにはあるようで、とても面白かった。日曜の朝にやっていることも大きくて、僕にとってはタイミングがいいんです。あまりテレビを見る時間がないのですが、ライダーは別なのかな。テレビをつけて放送されていると、そのままつい引き込まれてしまう。若い役者もかっこいいですし。これはお母さんたちにも好かれるだろうな(笑)。

――ライダーの映画は、色々なゲストさんが出演されますが、必ずそのゲストがライダーに変身できるわけでもないんですよね。決定した時、歌舞伎俳優のお仲間はどんな反応でしたか?

まさかライダーを! っていう(笑)。もともと僕らの仕事の範疇にライダーは入っていないんですよ。まさかオファーがくるとも思っていないし。かといってやりたいといってできるものでもないじゃないですか。そりゃあ驚かれました(笑)。ただ、僕が今回のお話を受けるにあたり、歌舞伎と繋がる部分が確かにあったんです。

●仮面ライダーへの出演は、きっと歌舞伎にも繋がるはずだと思った――歌舞伎と繋がる部分?

歌舞伎は、それこそ一昔前なら、小さい頃におばあちゃんに連れて行ってもらうというひとつの文化の形がありましたが、最近は減っています。ただ、少し前に小、中、高、大学生が対象の"学生歌舞伎"をやらせていただいて、小学生の日でひとつ発見があったんです。この日は、台詞ひとつとっても普段より滑舌よくしたり、特に気を遣いました。小学生にどこまで理解できるのかと心配していたんですが……これが大ウケだったんですよ。彼らは最初から最後まで前のめりで、「あはははは!」って手を叩いて喜んでいる。

――小学生がですか?

そうです。歌舞伎十八番のひとつで「毛抜」という芝居があります。毛抜が大きくなり、漫画みたいに宙に浮いていく――すると、子供たちが「うわあああああ!」と100点満点のリアクションで驚く。彼らには感覚的にわかるみたいです。高校生や大学生よりも歌舞伎をしっかり観てくれている。つまり、思春期を超えると自分の物差しがある程度完成されてきますから、自分の感覚に合わないと斜めに構えたり、寝てしまうこともあります。だけど、小学生が純粋に目と音で楽しめるように、歌舞伎というのは実はすごくシンプルで、わかりやすいものなんです。どうも世間的に敷居が高いのか、子供も大人も歌舞伎に触れる機会、きっかけすら少ないのが現状。ただ、きっかけというのはすごく大切で、例えば物心つくかつかないかくらいの子供たちに、もし僕が"仮面ライダーに変身した人"ということが前提にあれば……。

――違いますね。反応がより大きくなる。

そうでしょう! 「あ! 仮面ライダーでてた人や!」ってさらにテンションが上がるはずなんです。全然違うでしょう? そこなんですよ。小さい頃に仮面ライダーやキカイダーが大好きだった僕と今の歌舞伎をやっている僕――そこが繋がってくる。今回の仮面ライダーへの出演は、きっと歌舞伎にも繋がるはずだと思ってオファーを受けることにしたんです。仮面ライダーと歌舞伎、どちらも日本の文化であり、小さい頃から触れられる文化です。日本も経済的に色々なことが言われていますが、文化が豊かにならないとお金はまわらないでしょう。そういうことの積み重ねが未来に繋がっていくと思っています。

――それは、歌舞伎を始められた当初から愛之助さんの頭にあったのでしょうか?

歌舞伎を始めた頃は、自分のやらせていただく仕事はもちろん、師匠のことでいっぱいいっぱいで、何かを考える余裕なんて全くなくて。逆に、歌舞伎以外の仕事に全く興味がなかったほどです。本当に歌舞伎一筋でした。

――昨年の『半沢直樹』を経て、歌舞伎以外の世界から色々な声が聞こえ、色々な人に出会い、愛之助さんご自身の景色も変わってきたと思います。

確かに景色が変わった部分もあります。ただ、僕の仕事内容はそれほど変わっていないんです。だいたい2年先までスケジュールが詰まっているのは、ここ最近の話でもなくて、ずっと前から。『半沢』以後で急に主役が増えたわけではなく、歌舞伎の中ではずっと座頭として主役を務めさせていただいたこともありましたので。先ほどのお話のような、どうやったら歌舞伎にご縁のない方に見に来ていただけるのか? ということは、10年くらい前から考えるようになりましたね。歌舞伎一筋だった僕が、役者をはじめ色々なお仕事をやらせていただく中で「これはこれでまた面白いな」と思えるようになってくると、歌舞伎に繋がるはず、と自然な流れで変わっていきました。『半沢』について言えば、そういう流れの中で「年に1本は、歌舞伎以外の映画なり舞台なりに出よう」と決めて、その中にたまたまあっただけなんですよ、本当は。

――大きな流れの中のひとつでしかないと。

そうです。もちろん『半沢』に出会えたことは僕の財産です。ただ、たまたまそこにあった、たまたま視聴率がよかったという話で、視聴率が20%や30%いくなんて誰も思っていませんでしたから(笑)。

――ここ最近の歌舞伎界は、愛之助さんをはじめ、市川海老蔵さんが歌舞伎界を飛び出して現代劇にも進出し、尾上松也さんが『永遠の0』の主演に抜てきされ、香川照之さんが戻って来られたり。すごく活気に満ちていて、元気ですよね。

僕もそう思います。昔からお世話になった、かわいがっていただいた先輩が次々と亡くなりました。絶対にあって欲しくないこと、本当に信じられないようなことが立て続けに起こりました。そういう中で、奮起してがんばるしかないんです。僕らが、裾野を広げていくことがまず大事なことだと思います。海老蔵さんともよく話しますが、彼もすごくそういうことを考えていて。それでいて一致団結というよりは、世代の近い方たちが皆同じような想いを抱いていて、気がついたら良い流れが生まれていた、というのが実感としてありますね。

――海老蔵さんといえばブログの更新が凄まじいですが、愛之助さんも昨年ブログを始められましたね。

僕は、海老蔵さんの勧めで始めました。だから、彼に習ってブログはこれくらいあげるのが普通なのかって思っていたら、彼が言うんですよ、「すごいブログあげるね」って。いやいやいや……僕は海老蔵さんのブログしか見たことがなかったので、他の人を見てみると、ほんと3日に一回とか(笑)。同じことをやるならたくさんやった方がいいし、僕を知ってもらえることはありがたいことです。ブログを知らなかった人間にとって、コメントは新鮮でしたね。世の中の人が何を思ってどう見てくださっているのか、ストレートにわかる。コミニケーションも一方的ではなくなるし、直接声として聞こえるのがすごく勉強になります。

――ブログはいつも楽しみに見ております(笑)。では、最後に映画をご覧になる子供たち、あるいは親御さんたちにメッセージをいただければと思います。

歌舞伎界から初のライダーとして、悪役を思う存分演じさせていただきました。ですから、子供たちは道で僕を見かけても石を投げないでください(笑)。ただ、悪役は人気があるみたいで……そうそう『半沢』でもね、僕のことを子供たちが意外と知ってくれていることには驚きました。

――大人だけでなく、子供たちが?

意外でしょう? 街を歩いていても、帽子を被っていればだいたいバレません。だけど、視界のラインが低い子供たちにはバレてしまうんですよ(笑)。エレベーターに乗っていて、視線を下ろすと、子供たちが「あっ! あああああ!」って(笑)。黒崎までは出てこないみたいでしたが。そうすると僕は、指を口に当てて「しーっ!」って。子供たちに好かれるということは狙ってできることではないので、これはうれしいことです。なので、今回の仮面ライダーも、そして歌舞伎もひとつのきっかけとして、日本の文化全体を盛り上げていきたいと思っています。

(C)石森プロ・テレビ朝日・ADK・東映

(古川純基)