2018-0608
内閣府は2018年6月8日付で2018年5月時点となる景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは先回月比で下落し47.1を計上、基準値の50.0は割り込む状態が継続。先行き判断DIは先回月比で下落して49.2となり、基準値の50を割り込み形に。結果として、現状下落・先行き下落の傾向となり、基調判断は「緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる。先行きについては、人手不足、コストの上昇等に対する懸念もある一方、引き続き受注、設備投資等への期待がみられる」と示された。なお2016年10月分からは季節調整値による動向精査が発表内容のメインとなり、それに併せて過去の一定期間までさかのぼる形で季節調整値も併せ掲載されている。今回取り上げる各DIは原則として季節調整値である(【平成30年5月調査(平成30年6月8日公表):景気ウォッチャー調査】)。

現状は下落、先行きも下落


調査要件や文中のDI値の意味は今調査の解説記事一覧や用語解説ページ【景気ウォッチャー調査(内閣府発表)】で解説している。必要な場合はそちらで確認のこと。

2018年5月分の調査結果をまとめると次の通りとなる。

・現状判断DIは前回月比マイナス1.9ポイントの47.1。
 →原数値では「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」が減少。原数値DIは47.7。
 →詳細項目は「住宅関連」「非製造業」「雇用関連」のみ上昇。「住宅関連」「非製造業」のプラス0.3ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「非製造業」「雇用関連」。

・先行き判断DIは先回月比でマイナス0.9ポイントの49.2。
 →原数値では「ややよくなる」「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「よくなる」「変わらない」が減少。原数値DIは50.7。
 →詳細項目では「飲食関連」「サービ関連」「雇用関連」のみ上昇。最大の下げ幅は「小売関連」のマイナス2.2ポイント。基準値の50.0を超えている項目は「サービス関連」「雇用関連」。

2014年4月の消費税率引き上げの際に発生した、同年3月までの駆け込み需要の反動、そして税率上昇に伴う消費マインドの直接的・表面上の低下は同年5月頃から鎮静化の動きを示し、同年7月までにはほぼ収束している。

2014年秋以降は原油価格の大幅な下落に伴い、ガソリンや灯油価格も下落が生じ、直接自動車を利用する際のガソリン代の軽減に加え、輸送コストなどのコスト安がもたらされたことで、景況感を支え、立て直す形となった。また円安に伴い海外からの観光客が増加し、これが国内需要を喚起させる一因になっている。

ここ数年の間に起きた大きな変動要因としては、2016年6月に発生した「イギリスショック」(イギリスのEU離脱に関する国民投票の結果を受けて経済マインドが大きく揺れ動いた)が記憶に新しいが、その影響も和らぎ、持ち直しを見せている。とはいえ原油価格動向をはじめとする海外経済動向、金融市場に対する不安定感への懸念は小さくない。また消費税率の引き上げに関連する形での消費減退の懸念も、そろそろ消費動向に影響を与えてきそうではある。

なお冒頭で触れた通り、2016年10月分から各DI値は季節調整値を原則用いた上での解釈が成されている。発表値もさかのぼれるものについてはすべて季節調整値に差し替え、グラフなどを生成している(毎月公開値が微妙に変化するため、基本的に毎回入力し直している)。


↑ 景気の現状判断DI(全体)

↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

推移グラフを見れば分かる通り、直近の大きな下げ要因となったイギリスショックの急落からは大よそ回復している。

昨今では現状も先行きもいくぶん軟調気味


それでは次に、現状・先行きそれぞれの指数動向について、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。繰り返しになるが、季節調整値であることに注意。

↑ 景気の現状判断DI(-2018年5月)
↑ 景気の現状判断DI(-2018年5月)

消費税率(2014年4月)改定からはすでに4年が経過したが、それによる消費者心理の深層部分におけるプレッシャーは継続中(税率がそのまま維持されていることに加え、消費者にとって日々の生活において欠かせない買い物のたびに意識する機会があるのだから当然ではある)。さらに食料品をはじめとする物価上昇を起因とした消費心理の減退が上乗せされ、その上社会保険料の重圧による可処分所得の低迷により、景況感は足かせ状態が続いている。

2015年春先以降の一時的な原油価格の上昇に伴いガソリン代は少しずつ値を上乗せしていたが、その後は緩やかに失速し、ガソリン価格もそれに従う形で2014年秋以降に落ち込んだ価格水準にまで再び下落。直接的な景況感の観点ではプラスの要素として継続(企業の収益構造上の話としてはまた別)。さらに円安を受けて海外からの観光客の流入が増加し、これが消費を後押しする形となり、特に小売やサービス部門で大きくプラスの影響を受けていた。

ところが2015年夏以降中国の景気後退、厳密には経済内情が外から見た状況よりも不安定要素を多く抱えていたことが株価の大幅下落、加えてそれへの当局の対応策などから暴露される形となり、世界的なリスク資産からの逃避や景況感の悪化の動きが生じ、その波が日本にも到来した感は強い。また債務危機の最大の山場をこえたと思われた欧州方面では、中東地域からの大量の移民・難民の流入、それを大きな要因とする中東地域における戦闘の激化もまた、世界市場の不安定要素として持ち上がり、日本国内の景況感にも不安要素としてのしかかる形となっている。

その上、原油価格の低迷感が続くことで、関連企業や原油輸出を大きな糧としている諸国の経済的不安定感が強まり、金融市場にも影を落とし、相場低迷に拍車をかけている。為替の変動と原油価格の動向が、日本の株式市場、さらには景況感を左右する主要因となっているほど。そして産油国の生産調整に関わる合意を受けて原油価格は上昇し、1バレルあたりの価格が50ドル強を推移するようになり、これまでの30ドルから50ドルでのボックス圏での動きと比べると随分と底上げされた形に。これを受け、ガソリンなどの価格も上昇の動きを示し、輸送分野をはじめと各方面へのコスト面の影響が懸念されていた。

その後は石油産出国の協調減産の動きを受け、さらに中東情勢の緊迫化もあり、原油価格は少しずつ上昇を示していた。原油価格の上昇にあわせて活動が活発化し市場の調整役・頭を押さえる役割を果たしている米国内のシェールオイルの採掘による生産量の増加も、影響は限定的。結果として日本国内のガソリンや灯油価格も上昇の動きに。米国内のシェールオイルの生産量がさらに増加を続け、1970年以来最大の量を記録したとのEIAの報を受けて原油価格は一時的に頭打ち、さらには下落の動きを示したが、同国の景況感の堅調さから生産量増加分も打ち消しになるのではとの思惑が強まり、さらにはシリアとイスラエルの紛争激化やアメリカ合衆国のイラン核合意からの離脱とイランへの経済制裁再開など中東情勢の緊迫化から、再び上昇の動きに転じている。

今回月の現状判断DIは総計で前回月から1.9ポイントのマイナス、詳細項目では「住宅関連」「非製造業」「雇用関連」以外で下落。もっとも下げ幅は最大で2.9ポイント、上昇した項目の最大の上げ幅は0.3ポイントでしか無く、小幅な動きに留まっている。

景気の先行き判断DIは「飲食関連」「サービス関連」「雇用関連」以外の項目で下げ。下げ幅は「小売関連」の2.2ポイントが最大。

↑ 景気の先行き判断DI(-2018年5月)
↑ 景気の先行き判断DI(-2018年5月)

今回月で基準値を超えている詳細項目は「サービス関連」「雇用関連」のみ。

悪天候地域の下落が目立つ


発表資料では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして各地域ごとに細分化した上で公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に係わる事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状
・真夏日が続いてエアコンの売行きがよい(家電量販店)。
・住宅フェアなどのイベントには来場者が多く、真剣に購入を検討している客の割合が高い(住宅販売会社)。
・富裕層の高額品購買やインバウンド需要の力強さがあるものの、中間層の購買動向は安定しないままの状況である(百貨店)。
・ゴールデンウィークの悪天候の影響で行楽地の動きが悪く、来客数が大きく減少している(コンビニ)。
・ゴールデンウィークは好調に動いたが、ゴールデンウィーク明けから来客数が前年割れの店舗が増えている(高級レストラン)。

■先行き
・好天が続いていることから、来園者数や売上の伸びも期待できる(テーマパーク)。
・訪日外国人の利用もあり、予約も前年より多くなっている(一般レストラン)。
・化粧品など、継続して好調な商品群もあるが、その他は一進一退で、好転する材料は見つからない(百貨店)。
・乳製品などの値上げがあり、節約志向の客が増える(スーパー)

今回月では多くの業態で稼ぎどころとなるゴールデンウィークにおいて、東日本ではよい天候に恵まれたものの、西日本や北海道では悪天候に見舞われ、売上に少なからぬ影響を与えたようだ。また、年度替わりの商品価格の引き上げの影響も続いている。

企業関連の景況感では堅調さを示す話がある一方、原材料費や人手不足による人件費の高騰に頭を抱える声が見受けられる。

■現状
・例年ならばゴールデンウィーク明けから閑散期に入るが、今年は取引先から新規提案依頼が多いため、暇にならない。受注件数、金額ともに前年同月比プラスとなり、入札案件も増えている(通信業)。
・受注は順調であるものの、原料価格が高止まり傾向にある。人手不足による人件費の高騰も続いている(プラスチック製品製造業)。

■先行き
・来月より新規モデルチェンジ生産による初期需要が見込める(輸送用機械器具製造業)。
・ドライバー不足の影響と軽油価格上昇によって、利益率が低下している(輸送業)。
・原材料、人件費、物流費の上昇が避けられない状況だが、販売価格に全てのコストアップ分を転嫁できない(食料品製造業)。

原油価格は上昇基調にあるが、現時点では特段の言及は見受けられない。東京オリンピックに向けた光学業界の新製品とは、デジタルカメラや望遠鏡だろうか。人手不足は相変わらずだがこれを契機ととらえるところもあるようだ。

雇用関連では人手不足に関わる多様な意見が見受けられる。

■現状
・正社員への転換や賃金アップなど、従業員の処遇改善に努める企業が増加している(職業安定所)。

■先行き
・前月と比べても、正社員の求人数と求職者数が共に増加している(求人情報誌製作会社)。

今回の雇用関連のコメントでは職業安定所や求人情報誌のような、雇用市場の現場にある企業からの声であり、大いに期待ができる内容となっている。無論、従業員を雇う企業側にとってはコストがこれまで以上にかかることになるため、頭を痛めているところもあるのだろうが。

人手不足はよく聞くところではあるが、この類の話には得てして「現在の雇用市場に合致した対価・条件を提示しているのか」との疑問が付きまとう。今件のコメントでも全国分を確認すると、「人手不足」「人材不足」の文言を多数見受けることができる(現状計26件、先行き計60件、合わせて86件)。ただし全国で景気の先行きに限定して雇用関連の印象を確認すると、良好4件、やや良好34件、不変88件、やや悪い9件 悪い2件となっており、イメージされているほど状況が悪いものでも無いことが統計からはうかがえる。

大企業に人材を取られるので自社のような中小企業は人材不足を解消できない、思い切った商売ができないなどのような感想も。一方で単に人手不足への不満だけで無く、景況感の上向きの表れでは無いかとする解釈を持つところや、正規雇用の拡大につながるという声も見られる。人手の充足ができたので今後の飛躍が期待できるとの言及もある。

「働き方改革の影響で、3か月前に比べて仕事に対する時間管理の締め付けがきつくなり、思うようには仕事を受注できない現状となっている」「調整も多く、工場は大変な忙しさである。残業等で対応していたが、働き方改革で対応に苦慮している」とする、これまでの状況がいかに就業者側に大きな負担があったのかを認識できる声も見受けられる。人手不足で受注できない、売上が伸びないとの意見は少なく無いが、果たしてどこまで現状に対応する姿勢を示しているのか、その点までは今調査のコメントから確認できないのは残念ではある。種も蒔かずに育てもせずに肥料や手間をふところに納め、いざとなったら果実が欲しいと騒ぐのは、あまりにもむしがよい話ではある。ましてや人手不足の状況では育てられていなかったのは果実では無く、人である。



多分に外部的要因に左右されるところが大きい昨今の景気動向だが、国内ではそれらの要因を抑え込むだけの景況感を回復させ、お金と商品の回転を上げるためのエネルギーとなる、消費性向を加速をつけるような材料が望まれる。「景気」とは周辺状況の雰囲気・気分と読み解くこともでき、多分に一般消費者の心境に左右される。

昨今では可処分所得を削り取る大きな要素である社会保険料の軽減を果たすための、社会保障の抜本的な見直し、以前実施されていた定率減税の復活など、打てる手立てを打ち、消費を底上げし、世の中に循環するお金の量を継続的に増加させる必要がある。少しずつの後押しでは人の心境はすぐに慣れ、当たり前のものと認識してしまうため、それだけに限らず、同時に大きな喝を与えるような策を定期的に打ち出す方が効果は高い。雑誌ならば売り上げを伸ばすため、人気作品を何本も連載するとともに、目を引く、話題を集める大作を定期的に掲載するようなもの。

世界各国が経済面で深く結びついている以上、海外での事象が日本にも小さからぬ火の粉として降りかかることになる。株価に一喜一憂しないのがベストではあるが、ポジティブな時には静かに伝え、ネガティブな時には盛り盛りで報じる昨今の報道姿勢を見るに「過剰な不安を持つな」と諭しても無理がある。むしろ内需の動きを後押しする形で、海外からのマイナス要因を打ち消すほどの、国内におけるプラス材料が望まれる。

もっとも昨今では直接影響のある半島情勢が緊迫化している。また米国の貿易政策に多くの企業が直接、間接的に懸念を持っている。双方とも景況感、消費にはマイナスに作用するだけに始末が悪い。

数か月先のことでは無く、数年、数十年先を見越した、長期にわたる展望が期待できる政策、例えば上記で挙げた社会保障の抜本的な見直しに加え、社会リソースの若年層に対する重点配置、現状のあまりにも少ない配分比率の変更といった、抜本的な転換のかじ取りが求められよう。

昨今問題視されている、そして報道では得てして否定的に取り上げられている人手不足にしても、雇用市場の需給バランスの正常化、そして適切な労働対価が労働力とやり取りされる状態となるための移行プロセスに過ぎないと考えれば、むしろ肯定的に見るべき問題ではある。現在の社会環境がそのコスト水準を求めており、それに応じたコストの算出ができないのであれば、ビジネスモデルそのものが現状に対応しきれていないか、そろばん勘定の上でどこかゆがみが生じているか、判断を間違っていたまでの話。昔と今とでは状況が異なることを認識すべきではある。