『ママだって、人間』(河出書房新社)

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「妊娠したら母性は自然に湧いてくるもの」「つわりは母性で乗り越えられる」「出産の痛みを乗り越えてこそ母になれる!」「子供にとっては母親が一番。やっぱり父親はかなわないよ」

全部、嘘だった。
いや、嘘とまではいわない。「私は母性でつわりを乗り越えました!」と大いに共感する人もいるだろう。ただ少なくとも、私の場合はどれも当てはまらなかった。母性とやらは自然に湧くものでもなかったし、痛みはないに越したことはない。母親ができることは父親もできる。それが今現在、2歳児を育てている私(と夫)の偽らざる実感だ。そして確信している。同じように思っているけど口に出さないママが世間には絶対大勢いるはずだ、と。

『ママだって、人間』(河出書房新社)を読むとそれがよくわかる。作者は、実母との長年の戦いを描いた『母がしんどい』でブレイクした田房永子。両親と決別した後、今度は自らが母になった彼女が妊娠・出産・育児の実体験を綴ったこのコミックエッセイは、帯のコピーに「育児マンガのタブーを破る!」とある。育児マンガのタブーとは何か? 

 本書の中で作者は、驚くくらい赤裸々に自分の性欲や性生活についてさらけ出している。妊娠してから乳首の感度が上がったこと、夫婦でTENGAの使い方をめぐってケンカしたこと、出産後に大陰唇がビロビロになったこと、娘の「われめの中」をどう洗えばいいかわからないこと、産後セックスレスの打開案として夫をラブホテルに誘ったら引かれたこと、そのことに怒ってFacebook経由で元カレに連絡を取ろうとしたこと......。

 どのエピソードも世間一般の「いいママ」像とはほど遠い。「そんなはしたないこと公にして......」と眉をひそめる人もいるだろう。だが、出産経験者の立場からすれば、どれをとっても「わかる!」「あるある!」の連続だ。すべての行動が同じとはいわないが、根っこにある焦燥感、切実さはリアルに共感できる。だからこのマンガは笑えない。読んでいるとじくじくと傷跡が痛むような感覚に襲われる。

 これまで育児コミックエッセイといえば、子供のおもしろ言動を笑いに昇華させたギャグ系が人気だったが、『ママだって、人間』は同ジャンルの作品の中では明らかに一線を画している。作者は自分の心身の変化を赤裸々に描くことで、「母になったら生々しいオンナを封印しろ」という世間の無言の圧力に身をもって立ち向かっている。産前産後の女の心身に起きるドラスティックな変化は、雑なギャグに昇華できるほど軽いものじゃないのだ。

育児マンガのタブー、それは「母性ですべてはカバーできない」という圧倒的事実を明らかにしたことだ。「母性本能」という曖昧な言葉でなかったことにされていた、さまざまな事象への違和感。それは実母との関係に悩み続け、ついには縁を切ることで母性幻想を打ち破った作者だからこそ描けたのかもしれない。

娘として、女として、そして母になって。「母性」に振り回され続けた作者がたどり着いた「母性」のあり方とは? ぜひ本書で確かめてほしい。
(阿部花恵)