「ユリイカ」2014年9月増刊号「イケメン・スタディーズ」(青土社)

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 芸術総合誌「ユリイカ」(青土社)が9月臨時増刊号として発売した、「イケメン・スタディーズ」が早くも話題となっている。

 2000年前後から使われるようになった「イケメン」という言葉だが、いまや「イケメンシェフ」や「イケメンアスリート」というように「美男子/美形」よりも気軽に使われることや、「性格イケメン」というように単に美醜を表す言葉ではなくなってきたことから、「イケメンのインフレ」が起こり、定義することすら難しくなってきた。今号の「ユリイカ」では、そのような現状を踏まえ、イケメンという概念を捉え直したり、文学やポップカルチャーとイケメンのかかわり方の変遷を追ったりと、多角的に「イケメン」を論じている。

 しかし、なぜ今イケメンを取り上げる必要があるのか。ジェンダー・セクシュアリティ研究者の前川直哉氏による「イケメン学の幕ひらくとき 『社会のイケメン化』をめぐる現代史」から、その理由を考察してみよう。

 心理学者の渡辺恒夫氏がかつて著書で記したとおり、近代以降、男性は長らく「美も感性もはぎとられた灰色の産業ロボット」として、色味のないスーツを着て、社会の中で経済的・文化的・政治的役割を担うことが求められてきた。美醜の眼差しを受けるのは常に女性であり、「男性が外見に気を遣うこと、装いに手間ひまをかけることは、明確に『男らしくない』行為だとみなされてきた」という。

「多くの男性が自らも『見られる客体』であることを意識しはじめ、装う快楽を手にするようになっていった」というのが80年代後半。「MEN'S NON-NO」や「FINEBOYS」が創刊され、男性用化粧品が発売されるようになり、女性たちの投票によってファイナリストが決まる「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」が始まったのだ。この背景には、男性を中心とした肉体労働が重視されなくなり「男らしさ」の像が変化したこと、男性向け基礎化粧品やエステといった新規顧客開拓が必要となったという経済的な側面も理由として挙げられているが、前川氏が注視しているのは男子中高生の動きだ。

 前川氏いわく、「日本社会の『イケメン化』は80年代後半を一つの画期とし、90年代後半のストリートファッション誌創刊ラッシュと『東京ストリートニュース!』誌などの『スーパー高校生』ブームを通じて、中高生より低い年齢層にも浸透していった」という。そしてこの時期は、中高生が勉強しなくなっていく時期と重なっているというのだ。それは、「中高生のときにガマンして勉強していい大学に入れば、いい会社に就職し、いい暮らしができる」という神話の崩壊、つまり経済不況が原因のひとつだと指摘している。またスクールカーストという学生ならではの序列が、若年層のイケメン化に拍車をかけたという見方を示している。

 90年代後半に中高生だった男性は、現在は30代。働き盛りであり、夫や父親になる年齢でもある。しかし同時に、女性が結婚・出産をしても働き続けるといった多様化についていけない層でもある。今まで社会や親に教えられてきた「男らしさ」の基盤が、不況や社会変化で揺らぎ始めたことも要因だろう。だからこそ、いま研究が求められるのは男性学、そしてイケメン学なのではないだろうか。イケメン学というと軽いイメージがあるかもしれないが、実は「男女ともに生きやすい社会を作る、ひとつの手立て」という意味もはらんでおり、決して軽視すべき事象ではないはずだ。
(江崎理生)