マイクロソフト社がコンピューター演算の未来像を構築している場所、それが「ステーションQ」だ。

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サンタバーバラで、マイクロソフト社はコンピューター演算の未来について研究している。「ステーションQ」は、この星の最も聡明な数学者と研究者を数人擁するマイクロソフト社の研究施設である。彼らはそこで量子演算の基本的な問題を解明するための研究を行っている。

ここから興味深い話が生まれる。

この木曜、マイクロソフト社は説得力に溢れた物語を発表した。それは自社の研究者と科学者達が、いかにして量子力学の問題に答え、ゆくゆくは安定した量子コンピューターを生み出そうとしていることを説明するものだった。

Microsoft Storiesには「ステーションQ」とタイトル付けられたジェニファー・ウォーニックによる記事が掲載されている。そこではサンタバーバラの施設で働く科学者達と、彼らがどのようにコンピューター演算の次なる進化に取り組んでいるかについての話が紹介されている。

この記事は、人々への量子コンピューター演算の基礎についての啓蒙という点で重要なものである、そしてマイクロソフト社のような企業が他の研究施設や大学、企業等と最高レベルの頭脳達をその研究努力の為に集められるか、という競争においても重要な意味を持つ。

量子演算の物語

あなたは一体どれくらい量子演算についてご存知だろうか?誰かがあなたに「キュービット(Qubit)」がどんなもので何をするのか尋ねて来たら、簡潔に理路整然と答える事ができるだろうか?

それはごく少数の数学者やコンピューター科学者にしかできない事だ。

これこそが問題なのだ。量子演算は最も重要で急成長しているコンピューター・サイエンスの分野であり、今まで発見されたどんなテクノロジーよりも重大な進化的影響を人類に与えうる研究だ。だが、ほとんどの人々はそれが何なのか、何が課題になっているか、あるいはその最も基本的な問題の解決の為に研究者達が何をしているのか、見当もつかないのだ。

問題の一部は、量子力学がとても難解な分野であり、最も明敏な科学者達にとってすら、その領域を理解するのが難しい、という所にある。話すのがとても難しい物語なのだ。

では、キュービットとは何なのか?キュービットとは「量子(Quantum)ビット」のことで、量子演算の基礎となるものだ。

マイクロソフト社の説明によると:

量子コンピューターは量子ビット、すなわちキュービットで作動する。「重ね合わせの原理」のような、量子状態の奇妙な性質により、キュービットは「1」または「0」になる事ができる。あるいは「1」と「0」の役割を同時に果たす事ができる。1つのキュービットが、「1」と「0」の両方として機能し、2つの計算を同時に行えるなら、二つのキュービットは四つの計算が可能、という具合に、事は急速に累乗されて行く。

マイクロソフト社研究部長、ピーター・リーは現在の「1」と「0」のみに基づくバイナリー方式に比べて、量子演算がどれほど多くの情報処理を行えるかを説明している。

「学校でよくある数学の文章問題の、子供に1,000ドル今すぐあげるか、今日は1セントだけあげて、明日は2セント、という具合に毎日倍にしていくのを30日間続けるか、というのに似ています」

科学における「もの語り」の価値

根本的な難題が科学的研究の領域に存在している。仕事の質の善し悪しに関わらず、自分の仕事の話が上手な者は耳目を集め(その後資金援助もされ)、話下手な者はしばしば忘れられて無視される、というものだ。

「話を魅力的にするために、科学的発見がコミュニティから感情的に受け入れられるために、科学者には創造力が必要です」生化学者でサイエンス・マーケターのハミッド・グハナダンは、今年初頭のTedxCambridgeイベントでこのように述べた。

グハナダンは、アメリカ人科学者ライナス・ポーリングと二人の英国人研究者、ジェイムス・ワトソンとフランシス・クリックの間でおきた、DNA基本理論の発見と発表の競争の話を紹介した。ポーリングの方が優秀な語り手で、彼はある時一度に7つもの「決定的な」論文を科学コミュニティに投下し、その分野での名声と国際的な認知を得た。問題は、ポーリングの発見が部分的に間違っていた、という事だ。

ワトソンとクリックの研究(のちに近代生物化学の基礎になった)は、最終的には科学コミュニティの主流として受け入れられる事となった。だが、ポーリングはその創造力と話術によって、まずリードを奪ったのだ。

似た様な話は、トーマス・エジソンとニコラ・テスラの間で1880年代に行われた「電流戦争」にもあった。エジソンが直流電気(DC)を擁護する傍ら、彼の元従業員であるテスラは交流電力(AC)を熱心に売り込んだ。卓越した「もの語り」の能力とマーケター、セールスマンとしての才能(それに加えてJ.P.モルガンの資金)をもって、電流戦争で先にリードを得たのはエジソンだった。最終的には、自身のカリスマ的な「もの語り」の能力(とジョージ・ウェスティングハウスの資金)で、ナイアガラの滝の水力発電所における電力基準として契約を勝ち取ったテスラが、電流戦争の勝利者となった。

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マイクロソフト研究部長、ピーター・リー、マイクロソフト社ニューイングランド・リサーチ・アンド・デベロップメントにて(ダン・ロウィンスキー撮影)

科学者にとって、「もの語り」は進化的特徴のようなものだ。優れた語り手は、下手な語り手よりもそのメッセージを上手く伝達することができる。彼の成果はより多くの検証を受け、もし正論であれば承認を得ることができるのだ。創造力は科学的方法へとおのずから導かれ、科学者が仮説を作り出し、承認を得る手助けとなるだろう、とグハナダンは記述している。

マイクロソフト社の量子物語

Microsoft StoriesにおけるステーションQの話は興味深いものだ。だが、それはある基本的原則、つまりマーケティングと言えるのである。

マイクロソフト社は、量子演算についての研究がいかに難しいか、そして量子演算がテクノロジーと人間の進化の歴史においてどれだけ素晴らしい次の一歩になり得るか、を皆に知らしめたいのだ。現在の主流がクラウドとデバイスだろうが、量子世界の未来が不透明だろうが、マイクロソフト社はコンピューター演算の未来にしっかりとその名を刻んでおきたいのだ。

それゆえ、マイクロソフト社がステーションQの話を、それが過剰に演出されていても、可能な限り最も魅力的で説得力ある形で発表する事は一理あるのだ。

ステーションQのディレクター、マイケル・フリードマンは威厳があり、健康的で、よく日に焼けている。彼は映画「ジョーズ」で俳優ロイ・シャイダーが演じた、小さな海辺の町を人喰いザメから守った勇敢な警察署長、マーティン・ブロディにどことなく似ている。カリフォルニア大学サンタバーバラ校のキャンパスにあるステーションQで、フリードマンと、マイクロソフト社の内外を問わず世界中から集まった彼の同僚達は、とある空間を探検している。それはコンピューター・サイエンスと量子力学が出会う、刺激的で神秘的、難解で、率直に言って奇妙な空間なのだ。

マイクロソフト社がなぜ物語を語るのか、それは同社が「もの語り」を重要視するからである。ステーションQは最も聡明なる頭脳を、最も強い知識欲と才能を持つ研究者達を欲している。ステーションQの物語はいわば募集要項なのだ。

技術集約型産業において才能を巡る争いは、熾烈を極めるものだ。その研究テーマがほとんど研究が進んでいない、ハイレベルの量子物理学であるならば尚更である。

IBM、グーグル、各施設や大学、米軍(DARPA、国防高等研究計画局を通じて)や、他の一流研究機関の全てが、この星の最上級の物理学者達を巡って争っている。彼らを手した組織だけが、未来の成功を得るだろう。

Dan Rowinski
[原文]