『野田琺瑯のレシピ 琺瑯容器+冷蔵庫で、無駄なく、手早く、おいしく。』(野田善子/文藝春秋)

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 東日本大震災以降、書店でよく目にするようになったのが、保存食のレシピ本である。それ以前にも、そういった方面に特化した本がなかったわけではないが、そこまで数は多くなかった。そして、食における「備える」という視点は、より日々の生活と密接に結びつき、近年の「常備菜レシピ本」ブームへという流れを生んだ。また同時に、『体脂肪計タニタの社員食堂〜500kcalのまんぷく定食〜』(大和書房)をはじめとする、いわゆる企業レシピ本ブームがあったことも記憶に新しい。こうした流行の上に位置付けられるのが、先日出版された『野田琺瑯のレシピ 琺瑯容器+冷蔵庫で、無駄なく、手早く、おいしく。』(野田善子/文藝春秋)である。

「野田琺瑯」は、今年で創業80年を迎える老舗琺瑯メーカーだ。台所用品としては、70年代に「漬物ファミリー」(漬け物保存容器・現在廃番)などのヒット商品を出すも、生活様式の変化からその需要は減少。さらに90年代に入ると、バブル崩壊の影響もあり琺瑯自体の売れ行きが落ち、日本全国の琺瑯メーカーが規模を縮小するようになる。しかし、2000年代に入り、野田琺瑯は「ホワイトシリーズ」を発売し、巻き返しを図ることに成功する。これは、名前の通り白色で、シンプルかつスタイリッシュなデザインの冷蔵庫用保存容器シリーズ。さまざまな形状・大きさがあり、用途に応じて使い分けることができるが、基本的にスクエア型・ラウンド型の2パターンで統一されているので、スタッキング可能なのも特徴だ。

 さて、そのシリーズの生みの親が、本書の著者・野田善子氏である。野田琺瑯株式会社の現社長・野田浩一の家に嫁いだ彼女は、預かった家庭の台所で自社製品を使ううちに、「もっと○○だったら便利なのに」という、いわば主婦目線の希望を持つようになる。そして、その意見を反映して作られたのが「ホワイトシリーズ」であり、今や野田琺瑯の主力商品となっているのだ。『野田琺瑯のレシピ』では、その人気保存容器シリーズを用いたレシピの数々が紹介されている。

 琺瑯といっても、鍋などの「調理器具」を用いたレシピならわかるが、保存容器で料理ってどういうこと? そんな疑問を抱かれる方もいるかもしれない。そこで、まずは本書で紹介されている「琺瑯を使いこなす7つの技」を見てみよう。

1 保存する
2 直火にかける
3 そのまま蒸す
4 オーブンに入れる
5 ボール代わりに
6 そのまま器に
7 お弁当箱にも

 野田琺瑯の琺瑯容器は、鍋やケトルと同じ材質なので、直火にかけることができ、熱伝導にも優れている。いわば「調理器具としての保存容器」なのだ(2〜4)。また琺瑯は、表面がガラス質でできているため、細菌が繁殖しにくく、酸や塩分にも強い。内容物を変化させにくい特性から、保存容器としても素晴らしいパフォーマンスを発揮するのである(1)。さらに、シンプルかつ美しい造形は、そのまま食卓に出しても見栄えがいい(6)。つまり、鍋・器・保存容器と、ひとつで何役もこなすので、作業効率も上がるし、洗いものも減る、というわけだ。

 なかでも、「調理器具としての保存容器」の強みがもっとも発揮されるのが、第四章「かたまり肉があればいつもごちそう風に」だろうか。

 まずは、浅めの長方形型バット「レクタングル浅型S」を使った「蒸し鶏」。鶏もも肉に酒・塩・しょうがのしぼり汁をふって、バットごと蒸し器へ。蒸し終わったら、冷ましてそのまま冷蔵庫へ。普通なら、下味を付けるバット、蒸し器、耐熱容器、保存容器の4つが必要になるところ、ホワイトシリーズを使ったレシピであれば2つで済んでしまう。

 また、大きめで深みのある「レクタングル深型LL」を使った「ゆで豚」「煮豚」は、フライパンで焼き目を付ける、共に漬け込むゆで卵を作るといった+αの行程(煮豚)の有無はあれど、基本的には、容器に入れる→直火にかけて煮る→そのまま冷蔵庫で保存、というシンプルな流れは一緒だ。これも洗い物が少なくてすむ上に、そのまま食べる他、さまざまな料理に流用できて、ひじょうに便利だ。

 本書で紹介するレシピの主眼は何かと考えると、「手抜きではない時短料理」ということになるだろうか。第一章「野菜は下ごしらえが肝心」で紹介されるのは、「芯」「葉」などパーツごとに分けて保存した野菜を使って作るスピーディーな料理だ。また、第二章「常備菜があればごはんの準備もすぐできる」では、ポテトサラダ、ひじき煮など、食卓を短時間で整えるのに便利な常備菜が紹介される。その他に、挽肉料理やデザートの章もあるが、いずれにせよ料理の内容としては、良く言えばオーソドックス、悪く言えば目新しさはない。つまり、琺瑯保存容器を使うことで調理が効率化されてはいるものの、ざっくりと言えば、ごく普通の常備菜が並んでいるのである。

 常備菜レシピ本はすでに多数存在する。しかし本書が類書に埋没せず、独自の魅力を発揮しているのは、やはり野田琺瑯の商品の魅力・ブランド力の支えがあるからだろう。本書で紹介されているのは、琺瑯容器を使ったレシピだけではない。敷衍して言えば、野田琺瑯を取り入れた「豊かな(食)生活」こそがキモなのだ。ゆえに、そのルックスの美しさが生きてくる。つまり、機能性だけではなく、モノとしての魅力が同じくらい重要なのである。野田琺瑯を持つこと、使うことは、台所仕事の、さらには生活全般への「モチベーションを上げる」ことにつながる。これまで、ライフスタイル系の雑誌などで、料理研究家や、スタイリストたちがごぞって野田琺瑯を取り上げてきた理由も、おそらくこのへんにある。「ホワイトシリーズ」は、「豊かな生活」というイメージを、そのクリーンなホワイトカラーの輝きのなかに宿している。そして、ごくフツーの惣菜や家庭的なデザートといった素朴な料理が並ぶことで、その豊かさは、リアリティをもって読者に響くのである。
(辻本 力)