『お金と個人情報を守れ!ネット護身術入門』(守屋栄一/著、朝日選書)

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 昨秋から今春まで、消費者庁が全国6カ所で開催した悪質商法被害に関するシンポジウムに出席した。その場で話題となったことのひとつが、中高年をターゲットとしたネット上での詐欺、悪質商法の被害が減るどころか増加の一途を辿っているということだった。もちろん、子どもや少年少女の被害や事件も少なくはないのだが、それを上回るペースで中高年のネットトラブルが増えているのである。

 その理由の解説をと問われ、毎回答えることとなったのだが、スマホ(スマートフォン)の急速な普及が大きく影響していることは間違いない。ブロードバンドや掲示板サイト、SNSなど、仕事以外でネットを使うきっかけとなるブームはあったものの、パソコンがある場所へ行かなければならないという制約により、これまでの中高年は若者ほど自由にネットの世界に入り浸っていなかった。ところが、いつでもどこでもネットにアクセスできるスマホのお陰で「入り浸り」が可能となり、
その結果、古くさい手口の詐欺や悪質商法に引っかかっているというわけだ。

 ネット上で見られるワンクリック詐欺やウイルスの強制インストールなどの手口は、この10年ほどほとんど変わっていない。無料のアプリや動画などのファイルに同梱しておく、ニセのサイトへ誘導する、クリックさせるリンクにウイルスのインストールや別の指示を無断で仕掛けておく(CSRF)といったものが代表的であり、遠隔操作ウイルス事件でもこれらの手口が用いられていた。

 では、ネット上で詐欺や悪質商法の被害に遭わないためには、どうすれば良いのか。『お金と個人情報を守れ!ネット護身術入門』(守屋栄一/著、朝日選書)では、具体的な防衛策が示されている。

 すでに生活や業務にさえ浸透しているSNSであるが、「人間関係のトラブル」や匿名実名にかかわらず本人の個人情報が暴かれることがある。また、個人向けクラウドなどネット上に置かれている情報は、常に漏洩の危険性があるし、悪意をもった関係者が内部から意図的に漏洩してしまうことさえある。さらには、本物そっくりの偽サイトへ誘導され、IDやパスワードを盗まれ、勝手に預金を引き出されてしまう被害が横行している(フィッシング詐欺)。
 これらの被害から身を守るため、

・SNSには必要以上の情報を掲載しない。
・同一のパスワードを複数のサイトで使わない。ワンタイムパスワード(使い捨てパスワード)が利用できるサイトでは、そちらを使う。
・ブラウザやアプリの設定を見直し、オートコンプリート(IDやパスワードの自動入力)を解除する。
・ネットバンクやオンラインゲームなど、IDやパスワードを利用に際して求められるサイトでは、利用後に必ずログアウトする。
・ 信用情報や取引履歴を定期的に確認する。

 などの方策をとるよう奨めている。これらは、誰もが今からすぐに始められる
対策であり、言わば、ネットに向き合う際の暖機運転のようなものである。

 もちろん、怪しいアダルトサイトや身に覚えのない相手先からのメールに近づかないことは基本中の基本であるし、書籍や雑誌、ニュースサイト等を通じて詐欺被害などの情報を自ら取りに行く姿勢も不可欠だ。ただ、中高年のネットトラブルが減るどころか増加しているという事実は、詐欺や悪質商法の報道があっても他人事としか思わず、過去の事例からまったく学んでいない人がいかに多いかを物語っているとも言える。

 こうした防衛策は、油断があっては何の役にも立たない。各メディアで繰り返し述べてきたことであるが、ネット上には絶対的な安全地帯などない、と自覚することが大前提である。夜中に一人で怪しげな歓楽街を彷徨し、ボッタクリや強盗の被害に遭わないのと同様の警戒心を持つ。これが、イロハのイである。

 世界中のあらゆる人が行き来するネットは、巨大な街そのものだ。したがって、利便もあれば、一方では悪意や犯罪も存在する。楽しい、便利というだけでは、容易く悪意ある罠や脅威の餌食になってしまう。このことを、あらためて指摘しておきたい。
(井上トシユキ)