手倉森誠(てぐらもり・まこと)
1967年11月14日生まれ、青森県出身。現役時代は住友金属/鹿島、NEC山形に所属。引退後、山形、大分、仙台でコーチを務め、08年に仙台の監督に。14年にリオ五輪を目指すU-21代表の監督に就任。(C) SOCCER DIGEST

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――ブラジル・ワールドカップを現地視察されたなかで、どのような印象を受けましたか?
「まず、世界は進んでいるな、歩みを止めていないなと強く感じました。前回の南アフリカ大会で示されたスタンダードに対して、どんな事象が起こっているのか。そうした視点で見ると、4年前のスタンダードは継続されつつも、それ以上のものを打ち出してくる国がありました。前回、優勝したスペインのポゼッションサッカーに対抗しようと、ライバルたちは自分たちのポゼッション力を成長させつつ、スペインのそれを打破するための戦略も進化させてきた。そしてそういう国が勝ち上がる傾向にありました」
 
――スペインを打破するための具体的な戦略とは?
「ポゼッションサッカーに負けないためにどの国もやっていたのが、全員守備。全員守備とまではいかなくても、守備力をしっかり高めてきていました。ボールを握る(=保持する)のは当たり前で、それを打ち負かすための守備力を、全員守備という形で準備してきている国がほとんど。そして攻撃は全員攻撃でした」
 
――「全員守備・全員攻撃」は、監督がU-21代表チームでも掲げているコンセプトです。
「大会を観ながらU-21の選手たちも『こういうことだったんだな』と感じながら観てくれているんだろうなと、そんな風に思いながらブラジルで観ていましたけどね(笑)。個人的にも、ここまで多くの国が守備力をパワーアップさせているとは予想外でした。ただ、自分としては、このU-21代表チームを率いるにあたって、これからの世代はもっともっと『全員守備・全員攻撃』を身につけなければ、世界で戦えないと考えていました。特に若い世代にはしっかりと守備能力を磨いてほしいですが、当然ながら、ただ守るだけでなく、攻撃的な姿勢や堅実さ、強さ、厳しさも備わってないといけない。私が打ち出すサッカーは堅守速攻だけど、堅守『遅攻』もできるんだぞ、と。そのためには結局、戦い方にバリエーションを持つ必要があります。守備に関しても、いつもブロックを組んで守るのではなく、前からプレスをかけることもある。『これがダメなら、プランBがある』といった柔軟性こそが、今後の若い世代にとって最大のテーマとなるはずです」
 
――状況に応じて、臨機応変に対応する力が求められる、と?
「柔軟性、そして割り切りが大事だということは、これまでにも選手たちに話してきました。今回のワールドカップでは、高い守備力のほか、柔軟性と割り切りのある国が好成績を収めていました。自分たちと相手のストロングポイントを見比べた時、どんな展開に持ちこんでいくのか。攻勢の時間帯、劣勢の時間帯、今はやりたいことを我慢するのか、いつそれを発揮するのか。それらを正確に見極めながら、用意周到な準備の下で戦っていた」
――一方で「ハードワーク」が声高に叫ばれる昨今、「割り切る」という意識を浸透させていくのは、決して簡単ではないようにも思えます。
「例えば、前半に1点リードしてさらに2点差をつけたくても、試合の流れによってそれができなければ、後半は割り切って、1-0のまま時間を進める。中途半端に深追いしない。それは手を抜くこととは違います。そう見られがちだから、なかなか割り切れない部分があるけど、そこは指揮官である私の腕の見せどころでもあります。A代表を見据えたら、アジアだけでなく、世界でも勝ち抜けるようになるには、この柔軟性と割り切りを若いうちから刷り込んでおかなければいけないと考えています」
 
――日本の若い選手たちには、そうした部分が不足しているという印象があるのでしょうか?
「リオ世代の中心は、ちょうどJリーグが誕生した93年生まれで、自然とプロを目指してきた世代でもある。その育成段階で、プロになるためになにが求められてきたかというと、テクニックであり、上手さだったと思うんです。戦術面でもつなぐことが当たり前の世代に、時にはシンプルに蹴ることや、逆に相手に蹴られた時にはどう守るべきかも習得してほしい。そうした面も含めたものすべてがサッカーなんだと、教え込む必要性は感じていますね」