『孤独のグルメ』巡礼ガイド(扶桑社ムック)
ドラマのSeason1から3、そして原作に登場したお店を紹介している。原作者インタビューや松重豊インタビューも掲載されていて、ドラマ収録の裏話も多数。聖地巡礼派には必携の一冊。

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第3話「神奈川県足柄下群箱根町のステーキ丼」が予告で登場した後の木曜日には予約の電話が殺到し(定休日だったにも関わらず)、週末は三連休だったこともあってか大変な混雑だったようだ。

他の番組と『孤独のグルメ』ファンとで大きく違う点が二つある。一つ目は『孤独のグルメ』を見てきた客は、その後も何度もリピートするということ。他の番組を見て来たよりも、孤独のグルメの客(ちなみに注文するメニューがドラマと一緒で、すぐわかるとのこと)。番組に出た複数のお店の人から聞いたので、ほぼ間違いない。

もう一つは、「孤独のグルメファンは行儀がいい」ということだ。ここで7月24日に発売された「『孤独のグルメ』巡礼ガイド」内の原作者インタビューを引用しよう。

「夫婦で営業してるんで、急にたくさんのお客さんが来ちゃうとさばききれない。なので、お客さんには看板メニューの釜めしは「2時間もかかりますよ」って言ったら、みんな「待ちます」っておとなしく待ってくれたらしい。しかも誰かが片付けを自分で始めたら、みんなが後に続いてやってくれたんだって。「もう涙が出るようだった」って言ってましたね」

まるっきり、お店の事情がよくわかっている「常連」としての振る舞いだ。

この理由についても、前述のインタビュー内で久住はこう語っている。

「シーズン3までやってその理由がやっとわかったんだけど、どうやら五郎が静かな客だかららしい。『孤独のグルメ』のファンは、井之頭五郎になりきって食べるから、みんな騒がないんだよね」

原作でもドラマでも、五郎は静かに食べる。3話でも、知恵の輪に挑戦したあと、同じ知恵の輪をやっている子供の一家が多少騒いでも、「知恵はがんばれば授かるものではない。少年よ。人生には解答がでないときもあるのだ」と声に出さずに応援したりする。

根底には原作の名台詞「モノを食べる時はね。誰にも邪魔されず、自由でなんというか、救われてなきゃあダメなんだ。独りで静かで豊かで……」(原作第12話「東京都板橋区大山町のハンバーグ・ランチ」)があるのは間違いない。なので、邪魔をされたり、個人の自由が侵害されたとき、五郎は怒り、相手にアームロックを決める。「人生には…大嫌いなものを黙って食べなきゃならない時もある。だけど、人が嫌がるものを無理矢理食わせる権利は誰にもない」(原作「三鷹のお茶漬けの味」週刊SPA2011年7月5日号掲載)ということだ。

また、行儀の良さは松重豊演じる五郎の所作によるところも大きいだろう。前話のレビューで指摘されていたが、松重豊は非常に姿勢が良く、かつ品がある。がっついているはずなのに、不快感を与えるようながっつきようではない。そういう点もファンには刷り込まれ、五郎になりきるときに影響するのではないだろうか。

こうしてきちんと料理と向き合い、行儀良く食べた結果、「このお店はおいしい」「サービスもよかった」という当たり前のことに気づき、常連になっていくのだろう。原作とドラマの丁寧な作りが「常連を作るドラマ」になっているのだ。

ちなみに今回放送のステーキ丼は、あまりの美味しさに井之頭五郎役の松重豊も「放送されると混んじゃうだろうから、その前にもう一度食べたい」と、自腹でリピートをしに行ったという。撮影で訪れた役者本人も常連になってしまった。それぐらい、このドラマに出てくるお店は魅力に満ちあふれている。

本日放送される「東京都八王子市小宮町のヒレカルビとロースすき焼き風」は、原作でも今までのドラマシリーズでも特に評判の高い、「焼肉回」だ。名言の宝庫である焼肉回で、果たしてまた「うおォン。俺はまるで人間火力発電所だ」に匹敵する台詞が出るのかどうかも注目したい。もちろん、このお店も聖地巡礼で訪れたら、きっと常連になってしまうぐらい魅力的な店なんだろう。

孤独のグルメ 聖地巡礼ガイド
(杉村 啓)