簡単に家賃を下げる人が続出?家賃崩壊の実態と背景 1万円台、あふれる空室、大家受難…

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「何事も言ってみるもんですね。1万円安くしてと大家さんに交渉したら、1万円は無理だけど5000円ならということで、6万円の家賃が5万5000円になりました」

無邪気にそう喜ぶのは、東京都内のワンルームマンションに暮らすHさん(26歳男性)。今、Hさんのように家賃が下がる人が続出しているのをご存じだろうか。大家受難の状況に、年々拍車がかかっているのだ。

 現在、賃貸住宅の募集(空室)期間は平均3カ月(首都圏の場合)といわれており、大家は一度空室になると家賃3カ月分(6万円なら18万円)の減収を覚悟しなければならない。もちろん、すぐに入居者が見つかる物件もあるだろうが、逆に半年以上も空室になることもザラ。そのうえ、部屋の畳や壁紙などを替える原状回復費用もバカにならない。敷礼なし物件が普及する中、かつてのように工事費用を入居者に転嫁することも難しくなっている。それなら、多少家賃を下げてでも今の借主に継続して住んでもらったほうが得と考える大家が増えているというわけである。

 もしあなたが、もう何年も同じ家賃を払い続けているとしたら、一杯280円に下がった牛丼を倍の値段を支払って食べているのと同じ。家賃を下げることの最大の障害は、あなた自身の無知にあるといっても決して過言ではないのである。

●家賃1万円台の物件も続々

「家賃は下がらない」と思い込んでいる人は、最近の家賃崩壊現象を知らないのだろう。 たとえば、札幌市内の賃貸マンションをあるインターネットの不動産サイトで検索してみると、「1R15平方メートル:1.3万円」「1LDK30平方メートル:1.5万円」「1DK24平方メートル:1.5万円」と、激安物件が続々と出てくる。

札幌市は家賃崩壊現象が最も顕著に現れている都市のひとつなのだが、決して例外的な存在ではない。いまや主要な大都市の多くで、ワンルームの最安家賃が1万円台に突入する異常事態が起きている。

 1万円台物件の件数をみてみると、札幌市194件、福岡市75件、広島市44件、名古屋市23件、東京都下3件と続く。意外にも1万円台物件が最も多くヒットしたのは大阪市で、なんと24区計599件。木造のぼろアパートをイメージするかもしれないが、これらはすべて「マンション/駅徒歩15以内/10平方メートル以上」の条件で出てきたものである。

 さすがに1万円台物件ゼロの東京23区(時期によっては数件ヒットするが、シェアハウスばかり)も、数年前ならありえなかった2〜3万円台の物件がゴロゴロ転がっていて、不人気駅の設備が少し古くなったアパートなら、1万円台突入も時間の問題だろう。

 検索結果リストをみてみると、敷金礼金なしも十分に選択可能。少なくとも、競争の激しいワンルームの世界では、礼金は絶滅寸前の状態にあることが一目瞭然である。

●賃貸住宅の空室率は約2割

 では、いったい、なぜそんな事態が起きているのか。

 家賃崩壊の原因は、需要を上回る供給が続けられていることにある。バブル崩壊以降、「土地有効活用」と称した、専門の建築会社によるサブリース(一括借り上げ)方式で賃貸経営を始める地主たちが激増。地価は下がっても、世帯数増加に伴って賃貸需要は堅調に伸び続けていたため、その需要を満たす賃貸アパート・マンションが毎年数十万戸ずつ新たに建築されて供給され続けた。

 ところが、09年から日本の人口は突然減少に転じた。ここ数年は、毎年20数万人ずつ減少している。また08年のリーマンショック後、勤労世帯の所得が低下して、家計に占める家賃の負担が年々重くのしかかるようになった。にもかかわらず「サラリーマン大家で大儲け」などという情報に踊らされて、いまだに賃貸経営に乗り出す人が後を絶たない。

 需要が急激に縮小する一方で供給が増え続ければ、当然「在庫」が膨れ上がる。賃貸住宅の空室率は、14年現在で19%(不動産情報サイト「HOME’S」調べ)も。借り手がいなければ1円の収益も上げられない。手っ取り早く空室を埋めるには、家賃を下げるしかない。いくら景気が回復しても、“売れ残り”が倉庫にあふれている状況では、いきおい価格は下がらざるを得ない。そんな事態がいま着実に進行しているのである。

 家賃崩壊は、まだ始まったばかりだ。野村総合研究所の試算によれば、もし今と同じ水準で賃貸物件の新規供給が続いた場合、40年には空室率が40%にも達するという。そうなったら、家賃は文字通り「大崩壊」の一途をたどるに違いない。
(文=日向咲嗣/フリーライター)