7月特集 Jリーグから始めよう(9)

 W杯のような世界の舞台を経験して日本に戻ってくると、多くの選手が世界レベルとJリーグとのギャップに戸惑う。

 セレッソ大阪のMF山口蛍も、そのひとりではないだろうか――。

 ブラジルW杯後、山口は7月上旬にチームに合流。Jリーグでは、AFCチャンピオンズリーグのために未消化だった第12節(7月15日)の川崎フロンターレ戦(1−2)を皮切りに、リーグ全体の再開初戦となる第15節(7月19日)の横浜F・マリノス戦(2−2)、第16節(7月23日)のヴァンフォーレ甲府戦(0−0)、そして第17節(7月27日)のサガン鳥栖戦(0−1)と、W杯の疲れを見せることなく、全戦で先発フル出場を果たしている。山口の眼にJリーグでの戦いはどう映っているのだろうか。

「ブラジルでは、練習のときから毎回ピリピリしていて、厳しくやれていた。それが終わって日本に帰ってくると、やっぱりブラジルにいたときとの差っていうのは感じます。帰国して3週間くらい経ちますけど、自分の中では『もっとやらないといけない』と思いながらも、周囲に流されてしまうというか、周囲に合わせて、自分も(意識やプレイが)ぬるくなってしまっている。日本の環境やレベルは、世界と比べるとまだまだなので、それは仕方がない部分ではあるけれども、練習からもっと厳しいものがあってもいいと思うし、そこは自分も変えていかないといけないと思います」

 自らに厳しさを課すことができるのは、意識が高いということである。Jリーグでプレイする中で、そうした意識の差を感じることはあるのだろうか。

「選手個々の意識の差は感じますね。でも、僕ひとりだけが高い意識を持ってやっていても、みんなからすれば、『あいつ、かんばってんなぁ』とか『ちょっと空回りしてんな』っていうふうにしか見えない。本当は全員が意識を高く持ってやれば、お互いに刺激し合って、すごくチームは成長すると思うんですけど、そこはまだまだな感じですね。だからといって、黙っていても何も変わらないので、今はまず、自分が戦う姿勢を見せていこうと思っています。そうすれば、周囲の選手も自然とやらないといけないと思うだろうし、そうしていきたいんで」

 W杯による中断期間に、セレッソは新たな指揮官としてマルコ・ペッツァイオリ新監督(ドイツ出身、イタリア国籍)を招聘した。だが、まだ戦術が機能するまでには至らず、J再開後、チームはいまだ勝ち星を挙げることができていない。山口はキャプテンとして、結果が出ていないことに責任も感じているし、チームメイトと高い意識を共有するにはどうしたらいいのか、悩みどころとなっているのかもしない。

 とはいえ、チームメイトには、山口の成長がまぶしく映っているようだ。ジュニアユース、ユース時代から山口の背中を追って、ともに2010年ロンドン五輪を戦ったMF扇原貴宏は、特に山口の進化を感じ取っていた。

「蛍くんは、W杯ですごく悔しい思いをしたと思うけど、自信をつけて戻ってきたように思います。サッカーに対する意識はもともと高かったけど、より高くなって、ひとつひとつのプレイにこだわっている。『オレが引っ張る』という意識も強くなったし、相当な責任感を持ってやっていますね。その姿を見ていると刺激になるし、僕もしっかりやらないといけないと思います」

 2018年ロシアW杯では、山口や扇原らロンドン組が中心になるだろう。そのためには、山口自身、ブラジルW杯後に語っていた「個人のレベルアップ」が必要となる。その選択肢のひとつとして、海外移籍がある。そしてW杯後、同僚であり、親友のFW柿谷曜一朗は戦いの場を欧州に移した(バーゼル/スイス)。山口は、Jリーグでも「個人のレベルアップ」は可能だと思っているのだろうか。

「僕は、Jリーグでも成長できる部分はあると思います。W杯を経験して思ったのは、"うまい"だけでは勝てないということ。技術的には日本人のほうがうまいと感じたし、だからこそ、多くの日本人が海外でプレイしていると思うんです。でもW杯では、日本人より下手でも、活躍している選手が多かった。それは、勝負どころの見極めというか、判断力が的確だからだと思う。ここは行かなければいけない、というところにはしっかり行けるとか、そういう状況に応じたプレイがきちんとやれることが重要だな、と感じた。それは、Jリーグの中でもやっていけることかな、と思っています」

 ロシアW杯に向けて、日本代表はハビエル・アギーレ氏(メキシコ)の新監督就任が決まった。元ボランチ出身の監督だけに、ボランチの選手への要求は非常に高いと聞く。山口は、アギーレ監督について、どんな印象を持っているのだろうか。

「インターネットの情報でしか見ていないので、そこまで詳しくは知らないですけど、以前(アギーレ監督が指揮する)エスパニョール(スペイン)の試合を見た印象では、チームにハードワークを求めている感じがしました。あと、アギーレ監督は(自分と)同じポジションの出身で、勉強になることも多いと思っています。リーダーシップとかも、学ぶことができたらいいかな、と思いますね。まあ、またイチからのスタートなので、まずはしっかりアピールして、常に代表に入って、試合に出られる存在になっていきたいと思います」

 9月5日には、アギーレ新監督の初陣となるウルグアイ戦も決まった。いよいよロシアW杯に向けて、新たなスタートが切って落とされる。

「同世代でロンドン五輪組のキヨくん(清武弘嗣/ハノーファー)とかと、次のロシアW杯では『自分たちが中心になってやる』と誓い合ったし、そのメンバーで出たいと思っています。でも、そのためには、今のままではダメだと思う。重要なことは、常に100%の力を出せるようにすること。今、自分のスタイルを変えることはできないけど、それを維持しながら、毎試合、安定感のあるパフォーマンスを発揮しなければいけない。それは、すべて自分次第だし、自分がどれだけ高い意識を持ってやれるかどうか、だと思っています」

 山口は、今後すべきことは十分に理解している。あとは、Jリーグのピッチで答えを出していくだけである。

佐藤 俊●文 text by Sato Shun