京都精華女子
所在地:京都府京都市左京区吉田河原町5−1
創立:1905年 創部:2007年
主な戦績:2013年全日本高校女子選手権3位

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「はい、この中でPK蹴りたい人、立候補!」
 
 グラウンド中に京都精華女子高サッカー部(以下精華)の越智健一郎監督の明るい声が響いた。
 
「えぇ、そんなんイヤやわ!」
 京娘たちからの強烈なブーイング。しかしなぜか笑顔。
「じゃあ、ジャンケンして」
 
 その結果キッカーに決まったのは「いやいや自分で蹴って決める」と立候補したふたりと、ジャンケンに「勝った」3人。
 
「ジャンケンに勝つということは、運を持っているということ。だからうちはいつもジャンケンに勝った選手がPKを蹴るんです(笑)」(越智監督)
 
 インターハイ近畿予選の準決勝、大阪桐蔭戦。スコアは2-2のまま、決着はPK戦に持ち込まれた。この試合に勝てば、本大会出場が決まる大事な局面。まして精華にとっては、初出場がかかっている。しかしそんな状況とは思えないほど、選手もベンチも自然体。とにかく明るく笑顔で、いわゆるスポ根的な要素はゼロ。

 どちらかというと同好会の雰囲気に近い。キックオフ前の整列では、ピースサイン。試合中でもミスパスをして「キャー!」と乙女な声を上げる選手もいる。でも、これがいつもの「精華スタイル」なのだ。
 
 サッカー部の発足は約10年前と比較的新しい。しかも、寮がないので、選手は地元の京都府出身者がほとんど。当然全国のトップクラスの選手が来てくれるような環境ではない。
 
 唯一のアドバンテージは、中高一貫校なので、中学からそのままサッカーを続ける選手が多いことくらい。だからといって、ハードな練習で全国に追いつけ追い越せの悲壮感はゼロだ。
 
 越智監督は「彼女たちがお母さんになった時、『ママはこんなことできるんだよ』って、子どもの目の前でリフティングしたらカッコイイでしょ」とフランクに語る。
 
 しかしこのスタイルで結果もしっかり出している。2013年1月の全日本高校女子選手権では、2度目の出場で全国3位に輝いた。
 練習環境に関しては「ウチは週末の試合を除くと、週2回、学校から離れた場所にあるグラウンドで練習し、あとは学校の駐車場のコンクリートの上で行なう技術練習だけ。それも時間は、1時間半ほど」と越智監督は話す。
 
 トレーニングの多くはボールタッチに時間が割かれる。26種類あるというドリブル練習でまずはフィーリングを確認。ふと見ると、足下のボールが通常のサイズと違うことに気づく。
 
「サイズは3号球なんですが、重さは5号球と同じ不思議なボールなんです。これを蹴るとなぜか5号球のようにはボールが飛びません。明らかに重く感じるんです。でもうちの選手は試合直前までこのボールを触り続けています。でもこの扱いにくいボールで普段プレーしていると、5号球でのプレーが簡単だと感じるんです」(越智監督)
 
 しばらくして、練習は精華独特のリフティングメニューに移る。これもただのリフティングではない。ふたり組で向かい合い、一方が両手で数字を指し示す。例えば右手はリフティングの回数、左手はコントロールする足の部位という具合に。1ならインサイド、2はアウトサイド、3は腿。当然顔が上がっている状態でなければ相手の指示が見えない。
 
 そして突然「はい、ひねくれ」と越智監督の声。すると先ほどのルールが変更になり、1がアウトサイド、2は腿、3はインサイドに。とっさに判断を変えられるかどうか。実際にやってみると分かるのだが、頭と身体が同調しない。さらにリフティングをしながら手を身体の前後で叩き、さらに首を上下左右に振る動作も入れる。3つの動きを同時にこなさなくてはならず、当然混乱する。