『ひとり親家庭』(岩波新書)

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 ネグレクトや虐待による子どもの死亡事件が相次いでいる。6月にも、神奈川県厚木市のアパートで5歳だった男の子の白骨遺体が見つかり、36歳の父親が逮捕された。別の女性との交際を始めた父親は、女性との関係にのめりこみ、滅多に家に帰らず男の子は衰弱、餓死した──。

 2010年にも2人の子供を放置し餓死させた24歳の母親が世間を騒がせたが、今回の特徴は、シングルファザーだったことだ。

 40年前と比べて2倍も増加したシングルマザーは、社会的認知や支援も徐々にではあるが進んでいる。しかし、同じく増加する一方の父子家庭、シングルファザーの実態はほとんど知られてはいない。『ひとり親家庭』(赤石千衣子/岩波新書)によると、シングルファザーはシングルマザーと同様、いやそれ以上に様々な問題を抱えているという。

 意外かもしれないが、もっとも大きいのは経済面だ。シングルファザーの収入は「早い速度で下がり続けて」いる。そこには男社会ならではの問題が存在するのだという。

「シングルファザーは、男性として稼ぎ主になることを期待されているのだが、家庭責任を果たすような働き方が許されず、安定した稼ぎ主の地位から滑りおちていく」

 子どもに合わせた働き方をしようとすれば、残業や転勤は難しくなり、働く時間は減り、給与も下がる。そしてリストラの対象となり、アルバイト扱いに降格される危険性が増大する。

 父子家庭は、両親や親族が子どもの面倒を見てくれ父親は働くイメージがあるが、それも違うという。両親に子どもを預けても高齢の場合は長続きせず、親族との関係も悪化することが多いからだ。

 本書に取り上げられているケースを紹介しよう。登場するのは、妻がネグレクト気味だったため3歳の娘を引き取った男性だ。最終学歴は工業高校卒。当初、自分の母や兄家族と同居していたが、兄の妻の負担が大きくなったことや、育児を母親任せにしてしまうことなどが原因で娘と2人で家を出た。その後は車上生活をし、食品の引き売りをしながら子育てをした。その後、IT系の派遣となったが、月収は20万円ほど。

「外食はほとんどしない。無水鍋で野菜を使って食事づくりも一五分でできてしまう」というが、預貯金はほとんどなく、受験生となった娘の塾代も行政の支援貸付で借りたほどだ。

 これまで、シングルファザーに経済的な問題はあまりないと思われてきたが、実際には非正規雇用も増え、収入も減っている。父子家庭の平均年収は360万円だが、これは子どものいる世帯全体と比べ6割程度と少ない。しかも年収100万円以下というケースも増えており、シングルマザー同様、シングルファザーも貧困の傾向にあるという。

 さらに困難なのは、シングルファザーは役所に行っても使える支援がなく、孤独感を深めることだ。あるのは女性の「母子自立支援員」であり、「母子家庭等就業・自立支援センター」だ。このネーミングからしてこれまで父子家庭が行政支援の対象外だったことが浮かび上がる。実際、「母子家庭等就業・自立支援センター」が父子家庭も対象にしたのは昨年の2013年から。また、母子家庭に支給される児童扶養手当が10年まで父子家庭は適用されなかったほどだ。

 このようにシングルファザーもシングルマザー同様、いや社会的側面から考えればそれ以上の困難に直面している。もちろんだからといって、冒頭にあげたような、子どもを身勝手な理由で放置し、餓死させた父親が許される訳ではない。しかし、その背景には子どもを抱えた多くのシングルファザーの苦悩があり、それは現在も解決されていないことだけは認識しておきたい。
(伊勢崎馨)