大手デパートの夏のバーゲンセールが早くも終盤戦を迎えている。新聞各紙を見ると、増税後の個人消費の落ち込みは軽微で、むしろ安売りをしない正価品や高級品の販売が回復している――と報じている。

 こうした状況を見る限り、いよいよ景気回復も本物かと“錯覚”してしまう。しかし、「都市部の景況感だけに騙されてはいけない」と警鐘を鳴らすのは、『「流通戦略」の新常識』(PHPビジネス新書)などの著書がある流通コンサルタントの月泉博氏だ。

 * * *
――百貨店業界の間では、「セール品だからといって売れる時代ではない」という認識が広まっている。

月泉:<三越伊勢丹>や<ルミネ>、<ラフォーレ>といった百貨店は、安売りに頼らずバーゲン期間を遅らせてみたり、正価販売の比率を高めたりと強気の戦略を取っています。しかし、彼らはいずれも都心部の極めて立地のいいところに旗艦店を構える“勝ち組”ばかり。全国的にみれば、相変わらず消費者の財布のヒモは固いし、安売りセールに人が群がる傾向に変わりはありませんよ。

――確かに、宝石やブランド品が売れていると聞いても、いつまで経っても実感が湧いてこない。

月泉:アベノミクスが一番享受できているのは、都市型消費が行われているごく一部の百貨店やファッションビルだけですからね。割合にすれば5%にも満たないでしょう。その他、95%の商業施設と消費者は、高額消費といわれてもピンとこないはずです。

 それも当然です。家計調査を見れば昨年の春ぐらいから実質所得は下がりっぱなし。デフレ脱却で消費者物価が上がったと騒いでいますが、上がったのはガソリンなどのエネルギー代や、輸入食材における円安効果がほとんどです。庶民の生活はなんら変わらないし、同じ経済活動しかできていないのに単にコストだけが上がる、いわばスタグフレーションの状態なわけですから。

――では、「消費回復は顕著で、9月になれば完全に回復する」と予想する報道が多いのはなぜか。

月泉:そう書いている大新聞の記者たちは、東京に住んで1000万円以上の年収をもらって、いちばん生活感のない人たちばかりですからね(笑い)。

 政府自民党と財務省は、この7月〜9月GDP成長率によって、来年10月の消費増税第2弾を発表することにしています。国としてはこの夏に消費が滞ると困るので、大メディアに圧力をかけて景気のいいことばかり報道させる“大本営発表”がまかり通っているというのが実態でしょうね。

――デフレ時代に伸びた企業が軒並み苦戦している状況はどう見るか。

月泉:確かにアパレルでも<しまむら>や<西松屋チェーン>のようにデフレ対応型の業態で、増税後も値上げをしなかったSPA(製造小売り)チェーンは苦しんでいます。単に同じものを安く、コストパフォーマンスばかりを求めるような面白味のない商品は飽きられています。

 要するに値段が安いから売れなくなったのではなく、消費者を納得させるだけの価値や新鮮さがなくなったと見るほうが自然です。北欧雑貨の<タイガーコペンハーゲン>のように、低価格でも新たな価値を提供すれば行列ができるわけですから。

――値上げに踏み切った<無印良品>や<ユニクロ>はどうなるのか。

月泉:やはり消費者が納得するような商品と適正価格なら、引き続き好業績を維持できると思いますが、まだ結果は分かりません。本当の意味で消費増税の影響が表れてくるのは、むしろこれからだといえます。

――小売り各社は、これまで以上に消費者を飽きさせない独自商品の開発が欠かせない厳しい戦いを強いられる。

月泉:高額品が売れているといっても、バブル期のように、べらぼうに高いブランド品を並べて“とぐろを巻く”ように行列ができるなんてことはあり得ません。やはり、消費者の細かいニーズやライフスタイルに合わせて、少し目先の変えた商品を出さなければ淘汰される時代といえます。

 いまでも大手ディスカウントチェーンは、利益を削ってまで安価な品揃えを充実させようと、熾烈な戦いをしています。「消費が1割減れば、コンペティター(競争相手)は3割減る」と必死ですよ。

 とにかく安くしなければ売れなかった時代からは少し潮目が変わったとはいえ、またいつデフレ的な価値観に逆戻りするとも限りません。