今年の5月頭、米国の女子大生の約5人に1人が性的暴行の被害にあっている、という衝撃的なニュースが流れました。今年3月には、EU(ヨーロッパ連合)の人権機関FRA(欧州基本権機関)が、EU域内の15歳以上の女性のうち3人に1人が身体的暴力や性暴力を経験していると発表しています。

各国で問題になることが増えてきた女性への性暴力ですが、けっして日本に無関係な問題ではありません。日本における性的暴行事件の発生率は他国にくらべて低いとされていますが、実は性的暴行の申告率(=警察へ届け出る被害者の割合)が非常に低いのです。平成23年度の内閣府調査によると、無理やり性交された経験がある女性のうち、警察に相談した女性の割合はわずか3.7パーセント。このようなことから、日本は必ずしも性暴力が少ない国とはいえないのです。

性暴力が「なかったこと」にされてしまう社会――。今回は、そんな日本社会における性犯罪被害の中でも強姦被害に焦点を当て、「レイプクライシスセンターTSUBOMI(つぼみ)」代表である弁護士の望月晶子さんにお話を伺いました。

強姦を「事件」にすることすら難しい

レイプクライシスセンターTSUBOMIはレイプ、わいせつ行為、ストーカー等の性暴力に遭われた方を支援する非営利団体です。2012年の設立以来、700件超の性暴力被害者からの相談を受けてきました。

同センターに寄せられた強姦事件の相談のうち、8割が知人による加害。強姦の発生場所は加害者宅がもっとも多く、その次に被害者宅、ホテルと続きます。ニュース報道などでみる、一般社会に浸透している強姦のイメージと大きくちがうのではないでしょうか。

このようなイメージと実態のギャップは、「強姦を事件化する上でのハードルが高いことに関係している」と望月さんは話します。

日本で強姦罪を成立させるためには、性行為の強要にあたって暴行・脅迫があったことを立証しなければなりません。その立証責任を被害者側・検察側が負うので、強姦罪の起訴が難しくなります

具体的には、被害者に外傷がない場合や、加害者が知人である場合、加害者からの暴行・脅迫の存在を立証することが難しく、加害者が罪に問われないようなケースが多いのだそうです。

上記の問題を踏まえ、内閣府の男女共同参画局が平成24年7月に発表した報告書では、専門調査会が「暴行・脅迫」の立証責任を加害者に転換することなどを法務省に転換することが望ましいとの見解も示されています(※)。しかし、法改正への具体的な動きはいまだみられないのが現状です。

(※の文において、公開時は”立証責任を加害者に転換することなどを法務省に要求しています”としていた表現を”立証責任を加害者に転換することが望ましいとの見解も示されています”に訂正しました。)

「恥ずかしい」「自分も悪かった」強姦の事件化をはばむ被害者の心理

前述のとおり、無理やり性交された経験がある女性のうち、警察に相談した女性の割合はわずか3.7パーセント。この申告率の低さには、被害者側の心理的ハードルも影響しています。被害にあったことで、自身を責めてしまい、警察に相談することをためらう被害者が非常に多いのです。

被害者が自身を責めてしまう背景には、「強姦に対する社会の偏見・誤解が関係している」と望月さんは言います。

『恥ずかしい』、『自分も悪かった』、そういった感情が、警察への相談をしづらくさせています。『夜道を一人で歩かなければ、起こらなかった』『お酒を飲んでいなければ、起こらなかった』……こういうふうに、被害者に被害の責任の一端を負わせる風潮が社会全般にも存在していますが、非常に問題です。実際に、平成23年の内閣府による調べでは、周りの家族・友人を含めて、意に反した性交があったことを誰にも相談していない被害者は67.9パーセントにものぼることが分かっています

望月さんが挙げた例のほかにも、強姦被害には「若い女性だから起こってしまった」「女性側が挑発的な服装や行動をしたから起こってしまった」というような議論がつねにつきまといます。こういった議論は、科学的根拠に乏しいことから「レイプ神話」と呼ばれており、加害者の行為を正当化してしまう役割があるため、問題視されています。

明大サークル飲み会昏倒騒動で疑いがもちあがった「準強姦」の実態は?

今年6月に、明治大学や日本女子大学の学生とみられる女性らが集団昏倒していた騒動で、被害者が抵抗できない状態に乗じ、性交に及ぶ「準強姦」の可能性があげられました。準強姦被害を法に訴える際には、被害者が、泥酔や熟睡によって正常な判断力を失った状態を指す「心神喪失」、もしくは心理的・物理的に抵抗ができない状態を指す「抗拒不能」に陥っていたことがポイントとなります。

望月さんによれば、準強姦に関しても、やはり訴訟まで持ち込むのが難しいとのこと。強姦の場合と同様、準強姦罪を成立させるために必要な心神喪失・抗拒不能の立証が被害者側の責任となること、また、被害者が被害のことを詳細に覚えておらず、証拠が不足しがちなことなどから、起訴に持ち込むハードルが高いのだそう。加えて、準強姦被害は女性側の自己管理の問題にされてしまうことも少なくなく、準強姦が許されざる犯罪であるとの認識が多くの人に不足しているという実態もあります。

 「ずっと相談できなかった」10年以上前の相談がよせられる現状

ここまで、起訴までの司法制度上のハードルや被害者の心理的なハードルが、強姦・準強姦被害を「なかったこと」にしてしまう現状について伺いました。実際に、レイプクライシスセンターTSUBOMIでは、相談者の1割が法律相談をされているにもかかわらず、訴訟にまで持ち込むことができたケースはわずか数件。加えて、10年以上前の被害についての相談が、1か月以内の被害や、1年以内の被害と同程度寄せられているとのこと。強姦罪の起訴の難しさや、被害者が長いあいだ誰にも言えず、一人で悩む、強姦被害の現状がうかがえます。

強姦被害者への、行政や社会のサポートはいまだ不十分。そんな中で、自身や、身の回りの人が被害に遭ってしまったら、どのように対応すべきなのでしょうか。後編では、もしも被害に遭った場合に知っておくべきことや、身の回りの人が被害に遭ってしまったときの理想的な対応について伺います。

>>【後編】あなたが、友人が、もしも被害に遭ってしまったら? 知っておきたい“レイプの正しい知識”

●取材協力:レイプクライシスセンターTSUBOMI

(ケイヒルエミ)