『約束の日 安倍晋三試論』(幻冬舎)

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 前回の記事ではテレビ朝日のワイドショーが幻冬舎の本の宣伝装置と化していること、その一方で、同局の番組審議会委員長をつとめる見城徹・幻冬舎社長がテレビ朝日に食い込み、同局の早河洋会長らと非常に緊密な関係をもっていることを指摘した。

 だが、見城氏とテレビ朝日のつながりは、本の宣伝どころの問題ではなさそうだ。先日、見城氏とテレビ朝日幹部は一緒に意外な場所を訪問し、意外な人物に会っていた。その場所とは首相官邸、相手は他でもない、首相の安倍晋三である。2014年7月4日の「首相動静」にはこうある。

「18時55分 テレビ朝日の早河洋会長、吉田慎一社長、幻冬舎の見城徹社長。▽21時4分 私邸着。」(日本経済新聞)

 分刻みのスケジュールが組まれている総理大臣が2時間にわたって特定の出版社社長やテレビ局幹部に会っていたというのはきわめて異例なこと。しかも、これ、見城社長が主導した会合らしいのだ。

「見城氏は今回に限らずしょっちゅう安倍さんに会っている。メディア対策のご意見番的な存在といってもいいほどです。安倍首相からの信頼は非常に厚く、安倍首相は『ここまでこれたのは見城さんのおかげだ!』と公言しています」(政治ジャーナリスト)

 安倍氏とは行きつけのスポーツクラブで知り合ったという見城氏だが、その後、急速に親しくなり、2012年には首相に返り咲くための応援団を買って出る。そして、先の自民党総裁選前には『約束の日 安倍晋三試論』(小川榮太郎/2012年9月)を自社から刊行し、大々的に新聞広告を打つなどして安倍首相を援護射撃したのだ。大規模な広告展開を仕掛け、ベストセラーに仕立てる手法は幻冬舎商法と揶揄される戦略だが、それが成果をあげたのか、本はベストセラーに、安倍は首相への返り咲きに成功した。

 安倍首相が「ここまでこれたのは見城さんのおかげだ!」と発言したのは2013年9月20日、安倍首相と若手IT経営者との銀座での会食でのこと。

 その発言を書き込んだ近藤太香巳ネクシィーズ社長のfacebookを見ると、この日の会食の主催者も幻冬舎・見城徹社長で、「事務局長は損得舎 社長の佐藤尊徳。メンバーは、楽天 三木谷社長・GMO 熊谷社長・avex松浦社長・サイバーエージェント 藤田社長。僕の計8名でした。この少人数でトキの総理を囲み、話題は旬のオリンピック秘話から世界に向けた日本のあり方にまで進展」したとある。

 この会合を見てもわかるように、見城氏は積極的に自分の人脈と安倍氏を引き合わせている。2012年11月には、安倍に三木谷浩史・楽天社長(経済団体『新経済連盟(新経連)』代表理事)を引き合わせ、ITベンチャー業界を中心とする新経連との橋渡し役を務めていた。また、2013年11月13日には石井直・電通社長と一緒に安倍首相を訪問して会食をしている。

「その見城氏が最近、積極的に安倍首相との間をとりもっているのがテレビ朝日の早河会長なんです。早河氏と見城氏は今回だけでなく、2013年3月22日にも会食しています」(前出・政治ジャーナリスト)

 こうした工作が効いているのか、テレビ朝日の一部の番組では、露骨な安倍擁護の論調の番組も放映されるようになっている。たとえば、2013年12月末の安倍首相の靖国参拝の翌日のこと。「ワイド!スクランブル」がこの問題を取り上げたのだが、靖国参拝は中韓だけでなくアメリカからも批判を受けていることから多角的に論じるのかと思いきや、石破茂幹事長が番組に出演。安倍応援番組のような様相を呈したのだ。安倍首相の行動に疑問を投げかけたコメンテイター・デーブ・スペクターが逆に集中砲火を浴びたほどだ。

 とくに番組の中で、「今の瞬間だけの算盤で、損か得かだけをやるんであればね、保守のリーダーとは言い難い訳ですよ」と、露骨な安倍擁護を展開したのが番組コメンテイターの末延吉正氏だった。末延氏は元テレビ朝日の政治部長で、番組での肩書は「中央大学特任教授 政治ジャーナリスト」とされているが、実は、末延氏の父親は地元・山口で岸信介の時代から安倍家の有力な後援者で、末延氏自身も「月刊現代」2007年11月号に、「わが友・安倍晋三の「苦悩の350日」」といった文章を寄稿したこともあるくらいの親しい関係だ。2013年11月13日の安倍首相と見城氏、石井直・電通社長との会食にはこの末延氏も同席している。

 前回の記事では、テレビ朝日ではこの「ワイド!スクランブル」と「モーニングバード」という2つのワイドショーが、見城氏と幻冬舎の影響下にあると指摘したが、これらの番組で安倍応援色が強まっていると感じるのは偶然だろうか。

「テレビ朝日といえば、もともと『ニュースステーション』時代から反自民党色が強かったメディアです。このメディアを抑えることは自民党の悲願ともいってもいいものだった。そのメディアを見城氏が手なずけてくれれば、安倍首相にとってはこれ以上ない貢献になるでしょう」(政治ジャーナリスト)

 それにしても、見城氏は安倍首相に接近することでいったい何をもくろんでいるのだろうか。このままいくと、"第二のナベツネ"になって政界フィクサーとして君臨している、なんてことありうるかもしれない。
(小石川シンイチ)