画像はニンテンドー3DS用ゲームソフト『妖怪ウォッチ2 本家』より

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 現在、小学生の間で大ブームとなっているのが、ニンテンドー3DS用ゲームソフト『妖怪ウォッチ』。フィールド内に潜んでいる妖怪を探して友達にしながら物語を進めていくRPGで、たとえるなら"妖怪版ポケモン"といったところだ。

『妖怪ウォッチ』は、アニメ、マンガも大人気で、グッズの売れ行きも絶好調。特に、「妖怪メダル」と呼ばれるコレクションメダルの人気は高く、いまやプレミア価格で取り引きされている状態だという。7月10日には新作ゲーム『妖怪ウォッチ2 元祖』と『妖怪ウォッチ2 本家』の2タイトルが発売。その人気が今後もどんどん広がり続けるのは間違いないだろう。

 この『妖怪ウォッチ』の社会現象化で、俄然、注目が集まっているのが、ゲームの開発者であるレベルファイブの日野晃博氏だ。レベルファイブは福岡に拠点を置くゲームメーカーで、日野氏は同社の代表取締役社長・CEOだが、ゲームの企画、キャラクターづくり、ストーリー構成、メディア戦略までを自ら手がける超ワンマンクリエイター。これまでも『レイトン教授』シリーズ、『イナズマイレブン』シリーズ、『ダンボール戦機』シリーズなど、数々のヒットシリーズを産み出してきた。

 日野氏はいったいどんな発想でこれらのヒット作をつくっているのだろうか? 2012年、タレントのビビる大木が有名クリエイター6人にインタビューした『ビビる大木が聞き出した!"好き"を仕事にするための77の極意』(日経BP社)という本を出版しているのだが、この本に日野氏が登場。ヒット作を産み出す発想の秘密を語っているで、紹介してみよう。

『妖怪ウォッチ』もそうだが、『イナズマイレブン』『ダンボール戦機』など、レベルファイブと日野氏が手がける作品は子どもが熱狂するものが多い。子どもに愛されるコンテンツがどうやって考えつくのか? 日野氏は意外な本音を口にしている。

「もう子どもになれないから、子どもの気持ちになって考えることは厳密にはできないわけです。だから実際にやっていることは『子どもの頃に好きだったものを思い出す』という作業です。それを今の世の中に合った形でアレンジしていく感じです」

 必ずしもオリジナルで斬新なアイディアが必要だというわけではないというのだ。自分が子どもの頃に好きだったもの、熱中したものを、思い出して焼き直す。たとえば、『イナズマイレブン』は、日野氏が子どもの頃に読んでいたマンガ『キャプテン翼』がヒントになっているという。

 そういえば、『妖怪ウォッチ』も『ドラえもん』がベースになっているという話がある。主人公のケータはのび太、同級生のフミちゃんはしずかちゃん、ガキ大将のクマはジャイアン......。日野氏は最近のインタビューで、そのことを認めてこう答えている。

「例えば、ケータはのび太ほど"ダメ"な子ではないが、何をやっても普通でキャラがたたないところを、現代版のび太として制作したのです」(「AERA」14年6月30日号)

 また、この本の中で強調されているのが、クロスメディア戦略だ。日野氏はただゲームを作るだけではヒット作を生み出せないと断言。ゲームをヒットさせるには、アニメやマンガ、映画など、多角的なメディアでの「仕掛け」が必要だという。そして、その「仕掛け」はワンパターンではなくタイトルごとに異なると分析している。

「マンガやアニメとストーリーを連動させたり、ソフトにプラモデルをつけたり。売るための話題作りという一面もありますね」(同書より)

 実際、このクロスメディア戦略は『妖怪ウォッチ』でもかなり周到に展開されている。
まずはゲーム発売前の12年末から「コロコロコミック」(小学館)で連載をスタートさせ、ゲーム発売半年後の今年1月からTVアニメを放映。企画時からウォッチやメダルなどのグッズ販売を想定してストーリーに組み込み、相乗効果による大ヒットを作り出した。これらのメディア戦略の設計もすべて日野氏が考えているのだ。

 日野氏がもうひとつ意識しているのは、ゲームファン以外の層の取り込みだ。たとえば、『レイトン教授』シリーズでは、女性をターゲットに考え、そのためにさまざまな仕掛けをしたという。声優にタレントを起用し、パッケージの裏面にもそのタレントの写真を大きく使用。デザインも女性誌風にして、ワイドショーの取材も受けた。

「妖怪ウォッチ」でも同様で、ゲームでは主人公の性別を選べるなどユーザー層を狭めないような仕掛けをしているし、アニメでは、あえて大人にしかわからないネタを入れて、家族で楽しめるような工夫もしているという。

 よく「天才」といわれる日野氏だが、こうして見ると、天才というより、現象を冷静に分析し、ロジカルに作戦をたてる戦略家といったほうがいいかもしれない。ただ、日野氏が常人とはまったくちがうのは、ものづくりへの情熱だ。日野氏は若い社員が面白いアイディアを出すと、嫉妬してしまうのだという。本の中で、日野氏はこんな風にかかっている。

「嫉妬心というか、自分よりいいものをつくれる人間がいるなって思うと、そいつに興味を持ちますね。なんでそんな力を持っているのかを知りたくなるというか」

 だから、いいアイディアを出してきたからといって、褒めるわけではない。若手に対抗心を燃やし、「こんちくしょう」と思うこともあるという。

 なんだか"大人げない"社長だが、このエネルギーがあるから、ヒットメーカーとして君臨し続けられているのだろう。ただ、なんでもかんでもひとりでやってのけて、社員がいいアイデアを出すと、嫉妬心をむき出しにする上司というのは、部下にとって相当やりづらい気がしないでもないが......。
(金子ひかる)