運用難の影響で「2階部分」にも減額の恐れ

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■JALのOBには「逃げ得」もいる

年金制度はよく家屋にたとえられる。公的年金は基礎年金を1階、厚生年金を2階とする2階建てだ。企業年金は3階部分。公的年金の上に乗る私的年金である。勤め先の倒産で影響があるのは、基本的にはこの3階部分だけだ。

年金制度は給付の仕組みから2つに大別される。加入者の加入年数や給与に応じて将来の年金額を決める確定給付型(DB)と掛け金があらかじめ設定され、運用実績によって年金額が変動する確定拠出型(DC)だ。そして企業年金はDBの2種とDCの一種の3つに分けられる。DBは、会社独自の企業年金制度の「確定給付企業年金」と、2階部分の厚生年金の一部を代行する部分を有する「厚生年金基金」の2種。DCは、会社が用意した3つ以上の運用商品から、従業員が自らの責任で選び運用する「確定拠出年金(日本版401kともいう)」である。

勤め先の倒産で影響があるのはDBの2つだ。従業員のために積み立ててきた企業年金の受給権は「労働債権」である。企業が倒産しても、従業員の年金受給権は守られる。しかし年金資産は、将来の給付額に対して不足している場合が多い。従業員の退職まで数十年と積み立てれば当然利子もつく。そこで想定される運用利回りから逆算して年金を積み立てる。ところが、株価の低迷や低金利から実際の運用利回りが悪化し、積み立て不足が生じている。

積み立て不足があれば、企業の破綻時などに加入者の給付額に影響がでる。その代表例が日本航空(JAL)だ。同社は、実質破綻時点で約2400億円の積み立て不足だった。公的支援を受けて会社更生を目指す経営側は、年金債務圧縮のため、現役とOBから3分の2の同意を得て年金減額を行った。減額幅は現役が給付額の5割、OBは3割である。

当時、一部のOBが減額に強く反対した。年金を「退職一時金」として一括で受け取った人との間で不公平があったからだ。経営不振に配慮して年金給付を選んだ人は減額され、生活設計の再構築を迫られた。一方で一時金を選んだ人は減額されず、結果として「逃げ得」になった。

さらに深刻なのは「代行割れ」に陥っているケースだ。中小企業を中心とした厚生年金基金では、企業年金の3階部分だけではなく、公的年金である2階部分の厚生年金を代行して積み立てる仕組みになっている。

ところが、「AIJ問題」で発覚したように、運用の失敗や運用利回りの低迷で、企業年金の部分だけでなく厚生年金の部分まで積み立て不足の代行割れ基金が多い。厚生労働省によると、2012年3月末現在、577ある厚生年金基金のうち、287の基金で代行割れが生じている。

代行割れ基金の企業が倒産した場合はどうなるのか。代行割れでは3階部分の企業年金は当然もらえないが、2階部分の厚生年金は公的年金なので減額はされない。問題は代行割れの穴埋めを誰がするかだ。いまある基金の大半は地域の中小の同業社で構成されている。不足分は原則として同業社が負担することになるが、多くの企業にその余裕はない。

国は、厚生年金基金制度を廃止する方針を示し、特例的な解散ルールを定めて、代行割れ基金の「解散」を促している。具体的には特例として返還額を若干軽減し、最長15年で分割返還できるようにしている。

私も厚生年金本体の財政を考えると基金の廃止には賛成の立場だ。現行の5年の特例期間の延長や返還額のさらなる軽減措置の実施により、円滑に解散を選択できる環境整備を早急に進めるべきだろう。そのうえで中小企業向けの企業年金として、確定拠出型の普及などを急ぎたい。

自分の企業年金はどのようなタイプなのか。この機会にぜひ確認してもらいたい。

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横浜国立大学教授 山口 修
1950年生まれ。72年大阪大学理学部卒、住友信託銀行入社。年金運用部長、年金研究センター研究理事などを歴任。2004年より現職。著書に『確定拠出年金のすべて』など。

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(横浜国立大学教授 山口 修 構成=山下知志 撮影=プレジデント編集部)