有権者だけで約8億人がいるインド。1カ月余りに及ぶ総選挙が終わり、10年ぶりの政権交代が決まった。インド人民党のナレンドラ・モディ首相の下で経済改革が進むとみられるが、金市場でも期待が高まっている。

インド、トップ奪還なるか。

政権交代で期待される

金輸入の規制緩和

5月26日に就任したナレンドラ・モディ新首相に対する期待は高い。西部グジャラート州の州知事時代に「インドリスク」と呼ばれる複雑で面倒な法律と行政の手続きを簡素化し、企業を内外から引きつけて同州を大きく発展させた実績があるためだ。

実際に、選挙戦でインド人民党の優勢が伝えられた4月中旬には、インドの代表的株価指数であるSENSEX指数は過去最高値を突破し、就任当日にも高値を更新している。また、年初に発生した新興国危機の際に1ドル=63ルピーまで売られた為替も、就任当日には58ルピー台へと急速に回復した。

実は昨年、インドルピーは過去最安値を更新し続け、8月には1ドル=69ルピーにまで落ち込んだ。国際収支の赤字拡大が元凶とみたインドの財務省と中央銀行は、貿易赤字を減らす方策を考えた。そこで白羽の矢が立ったのが、輸入金額が原油に次いで2番目に多いという特殊な存在の「金」である。

インドは、日本円にして6兆円近い金(2012年度)を輸入している。日本的感覚では信じられないが、普通預金の口座を持っている人は全体の40%程度。貯蓄の手段として金を持つのが一般的なのだ。金が生活に根ざしているので、金ショップが金融機関の代わりとしても機能している。また、ヒンズー教では光り輝くものは縁起がよく、保有すればますます栄えるとされている。こうした宗教的な影響もあり、手に入れた金を手放したがらないことも特徴のひとつだ。

この金に目をつけた政府は、輸入関税を5回にわたり引き上げて2013年8月には10%にし、さらに輸入した金の20%はジュエリーなどに加工したうえで輸出に回すことを次の輸入許可の要件とした。この10%課税と20%再輸出規制は今なお続いている政策でもある。

こうした政策の影響もあり、その後のインドの貿易赤字は急速に改善された。そのため、インド国内でも人気のない金輸入規制の緩和を求める声が高まっていた。そこにタイミングよく政権交代、しかも新首相は自由化を促進する人物と目されていることから、20 %ルールの撤廃から税率の引き下げに至る規制緩和の可能性が高まっている。昨年初めて金需要でのトップの座を中国に奪われたインドだが、今年はインドの需要が復活しそうだ。

亀井幸一郎

PROFILE OF KOICHIRO KAMEI

マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表。中央大学法学部卒業。山一證券に勤務後、日本初のFP会社MMI、金の国際広報機関WGCを経て独立し、2002年より現職。市場分析、執筆公園など幅広く活躍中。

この記事は「WEBネットマネー2014年8月号」に掲載されたものです。