世界最大の自転車レース、ツール・ド・フランスに新城幸也(あらしろ・ゆきや/29歳)が5度目の参戦を果たした。

 ツール・ド・フランスに日本人選手が出場したのは101回の歴史の中でも4人しかいなく(川室競、今中大介、新城幸也、別府史之)、その中でも全23日間を走りきって最終日のパリ・シャンゼリゼに凱旋したのは新城と、その新城とともに2009年に初参加した別府史之(ふみゆき)しかいない。

 驚くべきことに新城は過去出場した4回、すべて完走している。落車による負傷や不調の日もあったはずだが、なにごともなかったかのように満面の笑顔でシャンゼリゼにゴールしている。新城自身は常に「ツール・ド・フランスは特別な大会。沿道の観衆がこんなに多いレースはほかにないので、声援をもらって走ることがとてもうれしい」と、このレースにかける意気込みを語っている。

 5回目の参戦ともなると、まさに自然体だ。かつては日本人選手が欧州の伝統や文化の上に形成されてきたこの舞台を走ることは夢物語だった。ところが、ここ数年はもはや新城なきツール・ド・フランスはちょっと考えられない。それほどまでの存在となり、いまやツール・ド・フランスの申し子のようでもある。

 新城はずっと「ヨーロッパカー」というフランスの人気チームで走ってきた。2014年のツール・ド・フランスに起用された9選手は、新城以外は地元フランス勢だ。フランスではテレビで新城特集が報じられることもよくあり、すでにチームの顔でもあり、ファンのためにもスポンサーのためにも、新城を外すことは想定できなかった。

「チームの最年長じゃないですよ」とは言うものの、5回目の出場はチームメートの中でも経験豊富な選手になる。ヨーロッパのメジャーレースで戦ってきたキャリアを加えれば、十分過ぎるほどの戦歴があり、2014年のツール・ド・フランスでは、チームの中心的役割を与えられることになった。

「今シーズン、チームからはツール・ド・フランスを念頭に置いたレーススケジュールを提示され、早い時期から出場を示唆されていた。これまでのようにのびのびと自由に走ることはできないが、チームからの信頼に応えられるように、今までの経験を生かしたい」

 つまり、過去4回のように序盤でアタックして先頭集団に加わるなどの派手な動きはないが、チームには総合成績の上位を狙うエースのピエール・ローラン、スプリント勝負で区間勝利をねらうブライアン・コカールがいて、新城にはその「アシスト」としての重要な任務が与えられているのである。エースはなかなか成績を上げられていないが、朝のミーティングで指示されたことを新城は確実にこなしている。

「強い選手のアシストとして走るのは楽しい。それに出場はまだ5回目ですよ。ツール・ド・フランスには10回出たいと当初から言っていますが、それだけ出ればチャンスはいつかめぐってくる。チャンスをものにするのはボクかもしれないし、チームメートの総合成績かもしれない」

 平均時速がこれまで以上に速いのが2014年ツール・ド・フランスの特徴だ。その中で、新城はレース中盤にメイン集団の先頭に出てペースメークしたり、ゴール勝負の牽引(けんいん)役をしたりと獅子奮迅の活躍を見せている。

 記録の上では区間勝利にはまだ手が届いていない。それでも総合1位の選手が着用するマイヨジョーヌらの集団と同じ位置でアルプスの難関を上がってくるのだから、その総合力は日本の中ではずば抜けている。

 2014年の大会は波乱含みで、多くの選手がクラッシュをしてレースを去って行った。総合優勝最有力と目されていたフルームやコンタドールもリタイアしている。

「彼らが棄権したのは残念で大会がさみしくなってしまった。強豪選手がいなくなったからといっても、ツール・ド・フランスで勝つのは難しい。誰が勝ってもおかしくないような強い選手ばかりなので」

 アルプスの山岳初日となる第13ステージで、新城は序盤からアタック合戦に加わった。しかし逃げ切れない。

「連日チームメートが果敢に攻めて働いていたから、今日は自分の出番だと思った。逃げに入りたかったけど、何度もチャレンジしてうまく決まらなかった。ツールで逃げることは難しくなっている」

 逃げ切れなかったレースの終盤は、気持ちを切り替えてアシスト役としてメイン集団の先頭を牽引(けんいん)するなど存在感を示した新城。

「いい形でエースを助けられたので結果オーライかな。暑さでばてている選手もいるが、自分は上りの調子も悪くないので、これからもまた頑張りたい」

 日本のファンは新城のステージ優勝を期待しているかもしれないが、新城のようにマークされる実力になってしまうと、それは逆に難しくなってくる。それでも、連日のようにチームのために着実な働きをして、いとも簡単にツール・ド・フランスを走り続けている新城だけに、パリまでのステージでこれまで以上のことをやってのける可能性も十分あるはずだ。

山口和幸●取材・文 text by Yamaguchi Kazuyuki