7月特集 Jリーグから始めよう(3)

躍進が期待されたブラジルW杯で、日本代表は1勝もできずグループリーグ敗退に終わった。しかしW杯も、日本代表の挑戦も、ここで終わってしまうわけではない。重要なのは、これからだ。日本代表を、そして日本のサッカーを、今後どう強化していくかである。そこで、クローズアップされるのは、日本サッカーの原点であるJリーグ。その活性化とレベルアップなくして、代表の進化は語れない。そのための方策を今回、解説者の福田正博氏に聞いた。すると、同氏からは意外な提案がいくつも出された――。

 ブラジルW杯の結果を受けて、日本と世界との力の差を改めて痛感させられた。その差を埋めるためには、代表チームはもちろん、日本人選手ひとりひとりの地力強化が求められている。

 その場合、Jリーグの存在はもちろん大事なのだが、今回のW杯を見て、正直Jリーグの位置づけは難しくなったような気がしている。1993年にJリーグができたことで、確かに日本サッカーのレベルは上がってきた。日本代表がW杯に出場できるようになって、これまでのJリーグは間違いなく日本代表の強化に貢献してきたと思う。ただし「これから先」、つまり「W杯でベスト8、ベスト4以上を狙う」ということについて考えると、難しい部分もある。

 今回のW杯で勝ち上がったチームは、局面における激しさやアグレッシブさ、勝負強さというものが際立っていた。それがないチームはことごとく敗れていた。そんな、世界で戦うための「厳しさ」とか「たくましさ」をJリーグで養うことができるかというと、どうしても疑問符がついてしまう。日本の中でやっている限り、おおよそ似たり寄ったりのスタイル、チームとの対戦になりがちで、そこでW杯のような厳しい戦いを期待するのは難しいことなのではないか、と思うからだ。

 例えば、Jリーグにもビッグクラブが生まれれば、状況は変わるかもしれない、といった考え方をする人もいるだろう。一理あるかもしれないが、それが「日本代表の強化」につながるのか、というと私は少し懐疑的だ。問題はもっと別のところにあると思う。

 今回のW杯を見てもわかるとおり、世界の中での日本の立ち位置は明らかに「格下」だった。残念ながら、これは認めなければならない事実。つまり、世界の強豪を相手にするときには、日本は「格下の戦い」をしなければいけないことになる。

 そう考えると、仮にJリーグにビッグクラブが出てきて、外国人を含めていい選手をそろえたそのチームが優勝したとしても、それと同じ戦い方を日本代表に落とし込むというわけにはいかない。スペインやドイツのように世界トップレベルの国が、バルセロナやバイエルンといったチャンピオンチームの戦い方を代表チームのスタイルにして戦うのとは違って、"格下"の日本がそれをやっても世界では通用しない。まして、長身の外国人FWを連れてきて勝っているようなクラブだったら、その戦い方は、世界レベルの長身FWの人材が少ない日本代表では到底実践できない。Jリーグと日本代表をつなげていくことの難しさは、そこにある。

 それでも、日本代表が強くなっていくためには、Jリーグで選手が育っていかなければいけない。日本人選手のほとんどがJリーグでプレイしているわけだから、選手がそこでがんばって、結果を残すことは何より重要なこと。各クラブ、各選手が高い意識を持って戦っていかなければいけない。

 今のJリーグでもやっていける具体的な強化策としては、外国人枠やアジア枠(※)を増やす、海外のチームと対戦できる機会を増やすなど、とにかく違った文化やスタイルとの接点を今以上に持つ努力をすることが考えられる。それは、Jリーグだけでなく、東アジア全体で考えていかなければならないことでもある。

※現在のJリーグでは、プロ契約を締結した外国籍選手は国籍にかかわらず1チーム3名まで保有でき、さらにAFC(アジアサッカー連盟)加盟国の選手を1名(「アジア枠」)、合計4名まで登録することができる(ただし、アマチュア選手または20歳未満のプロC契約選手を登録する場合は、AFC加盟国またそれ以外の国の選手にかかわらず、5名まで登録が可能)。いずれにしても、外国籍選手の総数は5名まで。

 あとは、かつてのように週に2回試合を組んでハードなスケジュールの中でやる、あえて状態の悪いグランドでプレイさせるなど、厳しさやたくましさを身につけさせようと思えば、そんなことも考えられるだろう。しかし、それらは非現実的なことだし、選手にとってもいいことではない。いずれにしても、今のJリーグの中だけで、世界を相手に戦えるたくましさを身につけるのは、容易ではないと私は思っている。

 世界の厳しさを知って、世界トップの戦いで通用する選手になるためには、やはり上のレベルでプレイすることが求められる。そういう意味では、Jリーグは当分の間、「ステップアップのためのリーグ」という位置づけであってもいいかもしれない。Jリーグで活躍して、ヨーロッパに出て行く。それは、決して悪いことではない。むしろ、どんどん出て行けばいいと私は思う。「世界」を体感するには、今のところそれしか方法がないわけで、第一に代表の強化ということを考えるならば、そこは割り切って考えていくしかないだろう。

 そのためには、リーグとしては選手が海外に出て行きやすい状況を作ることが重要になる。そして、海外で活躍できなかった選手がすぐに戻ってこられるような環境整備もすべきだろう。また、海外へ移籍する選手は、「自分はJリーグで育ててもらったんだ」という気持ちを忘れずにいてほしいし、クラブにお金を残していく形での移籍を心がけてほしい。育成にかかった資金がしっかり回収できる流れができれば、クラブにとってもいい循環が生まれることになるからだ。

 トッププレイヤーがこぞって海外に出ていってしまうのは、Jリーグ人気という面で心配はあるが、さっきも言ったように、何が何でも代表を強化したいと考えるのであれば、一定の期間は、Jリーグがある程度の犠牲を払うしかないのではないかと思う。そもそも、Jリーグを作った大きな目的のひとつは、日本代表を強くすること。いろいろと難しい面があるのはわかるけれど、原点を思い出して、リーグが日本代表に全面的に協力する、そんな姿勢も必要だろう。

 例えば、日程だ。日本代表が海外遠征をするときは、試合だけではなく、トレーニングもできるように、Jリーグを中断する。海外遠征に限らず、国内組だけで強化合宿を行なう場合も同じ。クラブ経営にも関わってくることだから、簡単ではないことは十分にわかっている。しかし、日本代表の強化を本気で考えるならば、多少の犠牲を払ってもクラブが協力するくらいの覚悟は必要だと思う。

 それに、日本代表に選ばれている選手に、ファンの目は向く。つまり、選手の知名度を上げることができる。それは、クラブにも、Jリーグ全体にも還元されるはずだ。

 日本にプロリーグができて約20年。今、誰もが早急に結果を求め過ぎているような印象がある。日本代表の強化は長い目で見なければいけない。その際、最も大切なことは、私自身は監督選びにあると思っている。そして、日本代表監督に一番に求められるものは、日本人のこと、日本の文化のことを理解していることだと思う。そのために、かつてのオシム監督のような人材を、各クラブが招聘すべきではないか、と考えている。

 代表監督というのは、4年間務めたとしても、日本人選手と接している時間はそれほどない。しかしクラブであれば、毎日日本人選手と接して、日本人のメンタリティーというものを深く知ることができる。そこから、日本人の特徴を生かすには、どんなマネジメントをして、どんなサッカーをすればいいかが見えてくる。そうやって、Jリーグで何年か指揮をとって、結果を出した監督が代表監督を務めるという、まさにオシム監督のような形が理想的だと思う。

 とりわけオシム監督は、日本の事情というものをすぐに吸収して、世界の中における日本の立ち位置をよくわかっていた。なおかつ、「格下として戦う」ことができる人だった。Jリーグの中で、豊富な戦力がそろっていたわけではないジェフユナイテッド千葉の指揮をとって、そういうチームでも勝てるサッカーを実践し、結果を残した。そのうえ、ユーゴスラビア代表監督としてW杯に出場したキャリア(※)もあった。

※1990年イタリアW杯でユーゴスラビア代表を指揮して、チームをベスト8に導いた。

 そんな監督を、各クラブが無理ならJリーグ主導で、もっと呼んでくるべきだろう。Jリーグは今、そこに一番お金をかけるべきではないか、と思っている。そうすれば、Jリーグ全体のレベルアップも図れるし、日本代表の強化にもつながっていくのではないだろうか。

text by Sportiva