わたしたちは新しい政治のありかたを受け入れられるか。家入一真の新刊『ぼくらの未来のつくりかた』 (WIREDブックレヴュー)

写真拡大

前回の都知事選に出馬し、クラウドファンディングでの供託金募集やTwitterでの政策公募など、新しい政治のありかたを模索した家入一真。その彼が、選挙活動を経て考えた「未来のありかた」を執筆した1冊を上梓した。その新刊をレヴューする。

「わたしたちは新しい政治のありかたを受け入れられるか。家入一真の新刊『ぼくらの未来のつくりかた』 (WIREDブックレヴュー)」の写真・リンク付きの記事はこちら

政治にもダイヴァーシティを

「敗軍の将、兵を語らず」と言うが、実際のところわれわれは成功体験より失敗体験から多くを学ぶ。それが自分自身の体験でない場合であっても。その点で著者の都知事選について詳細に書かれた本書『ぼくらの未来のつくりかた』は、われわれがネットと政治・選挙のこれからを考えるにあたって幾ばくかの参考になるかもしれない。

それまで選挙と無縁だった人物が、選挙戦に出る。右も左も分からないなかでの悪戦苦闘は想像に難くない。選挙ポスターの掲示板の位置を示す紙の束をドサッと渡され「グーグルが地球上のすべての地図情報を持っている時代にコレって無駄だよな」という感想はリアルだ。選挙戦の内幕に関して素人のわれわれからすれば家入氏の視点は我々自身の視点でもある。

そして、選挙戦や学習支援プラットフォーム Studygift の炎上、Twitter での妊婦の出産費用カンパなど、氏を取り巻いた一つひとつについて丁寧に言葉を積み重ねて説明されるうちに、なぜ家入氏が都知事選に出馬したのか、首都東京の未来をどのようにイメージしているのかといったことが少しずつ伝わってくる。

決して理路整然とまとめられた本ではない。冗長と感じる箇所もある。しかし、だからこそ著者の本音(もしくはその一部)と思しきものが行間からゆっくりと立ち昇る感覚がある。

いじめられた経験から素直に感情を表現するのが苦手。なるべく傷つかないように生きてきたため、ストレートに本音を言ったり情熱を前に出すのに「照れ」を感じるタイプ。このようなナイーヴさが政治家として適性な資質かどうかは賛否あるだろう。

しかし、同時に家入氏は paperboy&co. やクラウドファンディングプラットフォーム Campfire を設立した日本を代表するシリアル・アントレプレナーのひとりだ。はにかみ屋だが理想を抱くシリアル・アントレプレナーが政治の世界に入るとどう感じるのか、何をアップデートしたくなるのか、起業家精神と政治の関係性にまつわる問いに対してのひとつの答えが本書になっている。

例えば10日そこらの選挙戦の間、著者やヴォランティアが当選というひとつのゴールに向かって猛ダッシュし、選挙事務所や陣営をスタートアップを作り上げる感覚で育てる選挙の面白さや、オープンガヴァメントの実現に関し、ネットで政策を公募する新しい市民参加案。「都内に Wi-Fi 環境を完全に整備し、どこでも誰でも働ける東京、観光客にもうれしい東京を実現します」という政策は実現すれば個人的に嬉しかったりもする案だ。

未来のヴィジョンを有権者に見せるのではなく、ヴィジョンを有権者につくらせようとする著者は興味深い。そもそも「みんなの居場所をつくりたい」という思いはイデオロギーなんだろうか。リーダーとして人を引っ張っていくのではなく「ぼくら」を繋ぐ「場」となろうとする政治家は受け容れられるのか。

著者はお年寄り、女性、性的少数者もそれぞれの居場所を見つけられる社会を理想としているが、ダイヴァーシティは政治家本人だけでなく我々有権者も同じ志をともにしなければ実現しない。

今後も著者のような異色のアントレプレナー政治家は現れるだろう。その時、我々有権者は従来の政治家のイメージから外れた政治へのアプローチを受け容れられるのか、それは言うなれば我々自身が政治におけるダイヴァーシティについてどれほどオープンなのかを試されていることなのかもしれない。

山崎 礼
TED-Ed official facilitator/TEDxTokyo 2014 operation team

『ぼくらの未来のつくりかた (YOUR BOOKS 01) 』
家入 一真・著
¥1,080〈双葉社〉
Amazonで購入する>>

ひきこもりの経験から、「みんなの居場所をつくりたい」という思いで数々のビジネス、サービスを立ち上げてきた家入一真。その思いを政治の世界で実現するべく出馬(そして落選)した東京都知事選を経て、この社会や政治の理想のありかた、そして「ぼくらの未来のつくりかた」が見えてきたという。そのためのヒント、そしてこれから自分がやっていくことを語りつくした1冊。