ブラジルで開催されたサッカーワールドカップは、マリオ・ゲッツェのスーパーボレーシュートで幕を閉じた。

 しかしドイツ以外のヨーロッパの人々は、もうすでに別のスポーツイベントに熱中していた。「ツール・ド・フランス」である。

 今年のツール・ド・フランスは7月5日から始まり、スタート地点はイギリスのリーズ。

 初日からいきなり、ステージ優勝25回の実力者マーク・カヴェンディッシュ(イギリス/オメガファルマ・クイックステップ サイクリングチーム)が、ゴール前の落車によってリタイヤ。2010年のツール・ド・フランスで総合優勝を果たしたアンディ・シュレック(ルクセンブルグ/トレックファクトリーレーシング)は第4ステージでリタイヤ。さらに昨年の総合王者であり、連覇の期待がかかっていたクリス・フルーム(イギリス/チーム スカイ)も第5ステージで姿を消してしまう。

 ワールドカップ同様の波乱含みの展開に、ヨーロッパ中が熱狂している状態だ。

 なにせ現地でのツール・ド・フランスの人気は、日本人が考える以上に高い。

 以前F1ドイツGPに取材に行った際には、フリー走行の最中にもかかわらず、レッドブルのホスピタリーブース(VIPをもてなしたり、取材対応をしたり、選手やスタッフが食事をとったりする建物)のモニターではずっとツール・ド・フランスの中継が流れており、F1ジャーナリストたちは、取材そっちのけで観戦していた。F1村の人々さえも、ツール・ド・フランスだけは別腹なのだ。

 ツール・ド・フランスと時計はそれほど関係ないと思うかもしれないが、実は意外と密接である。

 まずは時計関係者にファンが多い。事実、スイスに取材に行くと、夕方、仕事を終えた時計関係者が峠道を黙々と登っている姿をよく目にする。毎日指先で細かな作業をしているため、自然に対して人力で立ち向かうという対極的なスポーツにはまってしまうらしい。ちなみにツール・ド・フランスにも参戦している自転車メーカー「BMC」は、スイスの会社で、ブラントリング本社の近くに拠点を構えている。

 さらにスポーツウォッチ界では、自転車ロードレース用の時計が人気を得ている。

 いくら「スマートフォンがあるから、腕時計は不要」とはいっても、自転車に乗っている時は腕時計の方が便利なのは自明の理。ロードレース用ウォッチは高精度のGPS機能を搭載し、猛スピードで走っていても、位置や走行距離、そして速度を計測できるようになっている。しかも軽くて装着感に優れ、取得したデータをパソコンに転送すれば管理も簡単なので、トレーニングに最適なツールなのだ。

 今回のツール・ド・フランスに参戦する新城幸也(日本/ヨーロップカー)も、ロードレースウォッチを装着しながら走っている。いくらチームカーと無線でつながっているとはいえ、長時間のレースの中では自分自身で展開を読み力をコントロールする力も必要。そういう時に、ロードレースウォッチが役に立つのだ。

 彼が着用しているロードレースウォッチは、日本ブランド「SOMA」から登場した新城幸也とのコラボレーションモデル。2013年の全日本チャンピオンだった(2014年は欠場)彼の"日の丸ジャージ"をイメージして、赤と白でカラーリング。シンプルだが主張のある時計に仕上がっている。ロードレースウォッチでは、アメリカの計測機器メーカー「ガーミン」が有名だが、SOMAはセイコー傘下のブランドなので、精度だけでなく時計としての質感にもこだわっている。

 ツール・ド・フランスは、ひとつのステージが3時間以上の長丁場なので、テレビ中継ものんびりとした空撮がメイン。誰かが逃げたり、アタックをかけたりしない限りは、特定の選手を追いかけることは少ない。つまり優勝に絡むような選手でない限り、特定選手を応援しようと思っても画面に映ることは皆無に等しい。だからこそ、新城モデルを腕にテレビにかじりつき、彼の健闘を願うというのが、ファンにとっては正しい方法と言えるだろう。


新城幸也
1984年沖縄生まれ。高校卒業後から本格的に自転車ロードレースを始め、18歳で渡仏。フランスの名門チームにスカウトされ、日本人で唯一のプロツアー選手となる。 今年も含めて5回の「ツール・ド・フランス」出場。2012年4月より、SOMAのアドバイザリーを務める。2012年の「ツール・デュ・リムザン」にて総合優勝。2013年は「ツール・デュ・リムザン」は総合2位。全日本自転車競技選手権大会では優勝を飾る。

篠田哲生●文 text by Shinoda Tetsuo