第40回:ブラジルW杯

大相撲は名古屋場所(7月場所)が始まり、
連日白熱した戦いが繰り広げられている。
その直前、横綱はサッカーのブラジルW杯を
熱心に観戦。日本代表に声援を送るとともに、
世界トップ選手のプレイを堪能したという。

 7月13日から大相撲名古屋場所(7月場所)が始まりました。

 先の夏場所(5月場所)で、私は29回目の優勝を果たしました。おかげで今場所前は、多くのメディア関係者をはじめ、ファンの方々から「横綱、いよいよ大台(優勝30回)が迫ってきましたね」と、何度となく言われました。

 確かにそうなんですが、私は優勝30回という数字をそれほど意識していません。もちろん、私が尊敬してやまない大鵬関が刻んだ、優勝回数歴代第1位となる32回、それに続く「小さな大横綱」と称された千代の富士関の31回という数字に近づいているな、という実感はあります。とはいえ、私はそうした数字を目標にして、相撲を取ってきたわけではありませんし、私の29回という優勝回数も、あくまでも白鵬という力士が土俵で積み重ねてきた結果というか、歴史であって、数字自体に大きな意味はありません。気づいてみたら「優勝29回かぁ......」という感じでしょうか。

 大切なことは、目の前の一番、一番を大事にすること。真摯に相撲に向き合っていくことだけです。今場所の2日目にも、私が大鵬関の幕内勝ち星数(746勝)を超えたという報道をしていただきましたが、そうした数字にも一喜一憂することはありません。私はこの場所も、そして先場所も変わりなく、自分のペースで体を作ってきました。そのうえで、場所中、全力で相撲を取っていくだけです。

 さて、名古屋場所前の6月、私は北海道に飛んで恒例となっている『白鵬米』の田植えをしたり、滋賀県長浜で所属する宮城野部屋の合宿を張ったりしていました。

 場所中の15日間、私はほぼ同じペースで一日を過ごします。相撲を取る18時前頃にピークの状態を迎えるように逆算して、自分の心と体を高めていく準備を日々重ねています。普段は仲間と一緒にワイワイ飲むのが好きですが、場所中は一切、アルコールも口にしません。とにかく15日間、相撲に集中することに専念し、ストイックに過ごしています。

 それゆえ、場所が終わったあと、地方のいろいろな土地に出向いて、素晴らしい風景を見たり、さまざまな人々と触れ合ったりするのが、とても楽しみです。それが、私の心身を存分にリフレッシュしてくれるからです。

 よって、北海道で田植えをして気分が爽快になりましたし、長浜の合宿でも地元ファンの声援を受けて、すごく元気をもらいました。とりわけ長浜の合宿では、充実した稽古をつめました。加えて、夜は特産の近江牛や鮎などをいただきながら、美味しいお酒も存分に味わわせていただきました。体を鍛えながらリフレッシュもできて、本当にいい時間が過ごせたな、と思っています。

 一方、横綱・日馬富士や、35歳で三役(小結)に復帰した安美錦らが所属する伊勢ヶ濱部屋も、場所前に大阪で合宿を張ったそうです。朝、夕2回の稽古をこなすなど、精力的に地力強化を図ってきたようです。特に、今年に入ってからまだ優勝のない日馬富士は、「次こそは」と懸命な稽古を重ねていたと聞いています。

 私も長浜での合宿を終えて名古屋入りしてからは、積極的に出稽古に出掛けました。モンゴル出身の大先輩・旭天鵬関がいる友綱部屋をはじめ、関脇・豪栄道が所属する境川部屋、千代鳳ら生きのいい若手力士がそろう九重部屋に出向いて、自分なりに相撲の感触を確かめてきました。

 調子は先場所と変わることはありません。まずまずといったところですが、名古屋場所の期間中は、厳しい暑さに加え、湿度の高い日が続きます。体調管理に心がけて、15日間、しっかりと戦い抜きたいと思います。優勝回数については、頭の片隅に置いて、何より自分の相撲を一番、一番、大事に取っていきたいと思います。

 ところで、サッカーのブラジルW杯も大いに盛り上がりましたね。私も、できる限りテレビ観戦して、一喜一憂していました。

 日本代表は、ちょっと残念でした。本田圭佑選手が「目標は優勝です」と語ったこともあって、かなりの躍進が期待され、知り合いでもある香川真司選手の活躍も楽しみにしていたんですが、グループリーグで敗退してしまいました。

 何より痛かったのは、初戦のコートジボワール戦(1−2)。先制したものの、後半に逆転されて、出鼻をくじかれてしまいました。それが響いたのか、続くギリシャ戦でも、日本のよさが見られずに0−0のドロー。もう負けられない3戦目のコロンビア戦では、積極的な姿勢を見せてくれましたが、結局1−4と敗戦。世界との力の差を痛感させられたような気がしました。

 改めて思ったのは、日本の選手と世界の選手との体格差です。日本はフィジカルで劣る分、セカンドボールの競り合いや1対1の局面でことごとく負けていたように思います。もちろん、それはわかっていたことでしょう。フィジカルでは世界にかなわない分、その差を組織やチームワークで埋めていくのが日本の戦い方だったと思うのですが、今回はそのチームワークや団結力も日本には欠けていたように見えました。

 日本の主力選手のほとんどは、欧州リーグで活躍しています。そのため、代表チームとして一緒に練習する時間が少ないことはよくわかります。しかし、真剣に世界と戦って勝つことを考えるならば、日本の選手だけでも、または欧州にいる選手だけでもいいから、頻繁に集まって、できる限り代表チームとして多くの時間を過ごすことが必要なんじゃないかな、と思ったりしました。

 日本代表以外で気になって見ていたのは、ブラジルです。それだけに、ネイマール選手の負傷はとても残念でした。

 それにしても、驚いたのは、準決勝のドイツ戦。「サッカー王国」と呼ばれるあのブラジルが、まさか1−7という大差で負けるとは思いませんでした。サッカーというスポーツの恐ろしさを感じた試合でもありました。

 また今大会、選手個人で最も注目していたのは、アルゼンチンのメッシ選手です。故郷のアルゼンチンへの温かい思いがあって、『レオ・メッシ財団』を作って恵まれない子どもたちをサポートし、社会貢献に力を入れているところが、私の心に響くんですよね。これまでも、メッシ選手と私は、考え方が似ているんじゃないかなと思って、ずっと応援していました。

 そうした姿勢だけでなく、メッシ選手のプレイぶりにも魅力を感じています。体は決して大きくありませんが、非常に自然体のプレイが光っていて、今回も"ここ"というところでビッグプレイを見せてくれました。決勝戦ではドイツに0−1で敗れてしまいましたが、最後の最後までメッシ選手の活躍を見られたのはよかったです。そして彼が、大会MVPに選ばれたことは、私にとってもとてもうれしい出来事でした。

武田葉月●構成 text by Takeda Hazuki