『美味しんぼ』10巻で紹介されている韓国の文化、いわゆる「朝鮮飲み」。ネット上では、あの「号泣議員」が朝鮮飲みをしていることから、「在日なのでは?」という疑問が生まれているようだが……

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7月1日の「号泣記者会見」で時の人となってしまった野々村竜太郎元県議。辞職やお詫び文の掲載も政務活動費問題の鎮火にはならず、虚偽公文書作成・同行使容疑で刑事告発、詐欺容疑での立件を視野に入れられている状態。週刊誌の見出しにも彼の名前は踊り、中高時代のエピソードも続々と暴露されている。
野々村県議について、Twitterやまとめブログなどで、このようなことを言っている人々がいる。

「野々村議員は朝鮮飲みをしている。在日なのではないか?」

「朝鮮飲み」とは、韓国の礼儀作法のこと。韓国では目上の人の前でお酒を飲むとき、顔を横に背けて飲む。そのさい、飲んでいる口が見えないように手でコップや口を隠すこともあるだそう。
確かに、号泣記者会見の映像で、野々村氏が「記者から顔を背けて、コップと口を隠して水を飲む」シーンがある。これを受けて、さまざまな人が野々村氏を「在日」と称している。もちろん在日韓国人に被選挙権はないので、「帰化して現在日本人になった在日韓国人」ということを言いたいのだろう。
この朝鮮飲みを指摘されている議員はほかにもいくつか名前が挙げられており、「韓国に利を与える人物だ」とされている。

でも、「朝鮮飲み」をGoogleで検索してみると、トップに来るのは「NAVERまとめ」や「ニコニコ大百科」、youtubeの動画や2ちゃんねるのまとめブログだ。また、朝鮮飲みのソースとして挙がっているのは『美味しんぼ』の10巻収録エピソード「キムチの精神」の1ページだけ。
「朝鮮飲み」って本当にあるのだろうか?

駐日韓国文化院の担当者(韓国人)に問い合わせてみた。「あくまでも私感ですが」との前置きのあとに、担当者はこう答えた。
「韓国には目上の人を大切にする文化があるので、目上の人の前でお酒を飲むときには避けるように飲みます。これは現代でも続いている文化です。コップを手で隠すように飲む人も中にはいますね。決まりがあるわけではないので、人によって個人差があります」
なるほど、「美味しんぼ」で紹介されていたエピソードは、確かに実際にあるもののようだ。
「これはタバコでも同じ。お酒やタバコは『大人のもの』なので、目上の人から『いただく』という感覚なのです。水やお茶、ジュースなどは大人のものではないので、目上の人の前で飲むときにも顔をそむけることはありません」
そういえば『美味しんぼ』でも「酒」とはっきり書いてある。野々村氏が会見で飲んでいたのは「水」。他の議員についても同じだ。
「朝鮮飲み」は確かにある。けれど、それはネット上ではかなり曲解されて伝わっている。野々村氏はもしかしたら帰化人かもしれないし、韓国文化に親しい人物かもしれないが、それは「朝鮮飲みをしているから」で説明することはできない。

ネット上では盛んに「在日認定」が行われている。なにか問題を起こした人物に対して「この人は在日なのでは?」とレッテルを貼り付けているのだ。その是非はおいておくにせよ、「在日認定」の根拠とされているものは実はあいまいなものが多い。

たとえば「韓国人は左右対称の漢字が好き」というもの。帰化するさいの名字として、「林」「金」「中山」などが好まれる、というものだ。ここで、2013年の名字ランキング(名字由来netより引用)を見てみたい。
田中(4位/205,560)、山本(6位/167,767)、小林(9位/162,481)……20位以内にはほかにも吉田や山田、山口に林といった名字が並ぶ。この人々を「在日認定」していけば、「日本人」はかなり少なくなってしまうだろう。
駐日韓国文化院の担当者はこのように答えていた。
「韓国では、左右対称というよりも、むしろ意味のある漢字が大事にされますね。男の子だったらたくましいイメージ、女の子だったら美しいイメージ。帰化した人たちの名字に関しては、とけこみやすい一般的な名字を選ぶことが多いのではないでしょうか」
漢字の意味を考えるのは日本でも同じ。また、もし「左右対称の名前に帰化人が多い」という事実があるとするならば、「左右対称が好きだから」ではなく、「とけこみやすい、もともと日本に多い名字を選んだから」という理由になるのではないだろうか。

もしかしたら、韓国人や在日韓国人、帰化した人の中には、水を飲むときにも(酒を飲むときと同様に)顔をそむけて飲む人がいるかもしれない。左右対称の漢字を好む人がいるかもしれない。林や山本という名字で帰化したのかもしれない。けれどあくまでもその人個人がそうなのであって、その個々の例から全般を語ることはできないのだ。
デマまみれのインターネットでは、ググっても正しい情報が出てくるとは限らないもの。前後関係を間違えず、前提とされている根拠を疑わなければならない。
(青柳美帆子)