ブラジルW杯グループリーグ第3戦のコロンビア戦、1−4で敗れた直後、吉田麻也の視線は宙をさまよい、放心状態に陥っていた――。

 2011年1月のアジアカップでレギュラーを獲得し、以来、日本代表不動のセンターバックとして君臨してきた。2012年ロンドン五輪では、オーバーエイジ枠でメンバー入りし、キャプテンとしてチームを牽引。日本の44年ぶりのベスト4進出に貢献した。

 その後、オランダのVVVフェンロからイングランド・プレミアリーグのサウサンプトンに移籍。世界有数のリーグでもまれ、ブラジルW杯にはそれなりの手応えをつかんで挑んだはずだった。だが、グループリーグ3試合で6失点。3戦目のコロンビア戦では、後半だけで3失点を喫した。しかも最後の失点は、吉田が相手エースのハメス・ロドリゲスのキックフェイントに簡単に引っ掛かり、ピッチに転ばされて決められるという、ディフェンダーにとっては屈辱的なものだった。そして、吉田にとって初めてのW杯は、1分け2敗という無念の結果に終わったのである。

「腹立たしいというのを通り越して、虚(むな)しい......」

 吉田は、力が抜けた表情でそう言った。

「プロとしてお金をもらってプレイしている以上、(自分は)結果がすべてだと思ってやってきた。それなのに、昨年(6月)のコンフェデレーションズカップに続いて、結果を出せないとなるとね......。この4年間、いくら努力してきたと言っても、そんな言葉は何も響かない。そうなると、(自分たちが)やってきたことは正しくなかったんじゃないかって言われるかもしれないけど、僕は、この4年間でやってきたことは無駄だったとは思っていない。可能性のあることを信じてやってきたので、それを否定するつもりもない。ただ、結果が出なかったのが悔しい......」

 やってきたことは間違っていない――。その言葉はコロンビアに負けたあと、ほとんどの選手が口にしていた。それでも、勝てなかった。どこに原因があったと、吉田は考えているのだろうか。

「欧州でプレイしている選手が増えて、日本人のレベルはすごく上がってきていると思うけど、自分の力を常に100%出し切ることができない。それは、僕も含めて、ですけどね。やっぱり、世界のトップクラスの選手は、こういう大舞台でも活躍するじゃないですか。僕らもこういうプレッシャーのかかる大会の中で、100%に近い力をアベレージで出せるようにしないといけない。それができていないので、昨年(11月)の欧州遠征でオランダ(2−2)やベルギー(3−2)とやったときのようなサッカーができるときもあれば、その直前(10月)のベラルーシ戦(0−1)のような質の低いサッカーをしてしまうこともある。自分の能力を常に、いかにして100%に近い状態で出せるか。これが(日本の)今後の大きな課題だと思います」

 では、その課題を克服するには、何をすればいいのか。自分の力を常に100%発揮するには、どうすればいいのだろうか。

「うまく力を出し切れないのは、プレッシャーなのか、相手のせいなのか、まだよくわからない。でも、ひとつ思うのは、みんながW杯のような大舞台に慣れることが必要だということ。そうした大舞台の経験を含め、まだまだいろいろな経験が足りない、というのは僕ら自身も感じたし、今大会を見ていた日本のサッカー選手も感じたと思うんで。これから次のロシアW杯に向けて海外に出て行く選手もいると思うけど、より厳しい環境に身を置いてやっていくしかない。それは、選手個人やクラブチームとしてだけでなく、代表の試合においてもそう。アウェーの環境など、厳しい中でプレイする機会を増やしていかないとダメでしょう」

 さらに吉田は、あらゆるポジションの選手が海外に出て、厳しい環境の中でプレイしないといけないという。

「今、海外でプレイしている選手は中盤が多いけど、これからはストライカー、ゴールキーパー、そしてセンターバックの選手がもっと海外でプレイするようにならないといけない。すべてのポジションに海外で活躍する選手がいれば、どんな大舞台であっても普段どおり戦えると思う。今回の初戦のコートジボワール戦、僕はすごく緊張したんですけど、そこでも勇気を持って戦えたと思うんで」

 初めてのW杯で、吉田はつらく、痛い経験をした。そして、W杯で勝つことの難しさを知った。しかし彼は、まだ25歳である。これから所属クラブに戻って、さらに経験を積んで、4年後のロシアW杯でリベンジを果たせばいい。

「今回のW杯の反省としてあるのは、欧州でプレイをしていても、僕を含めてクラブで試合に出ていない選手が多かったこと。選手はまず、コンスタントに試合に出ることが最優先だと思います。そこで、欧州の高いレベルの選手と毎週試合をする。そうして、欧州の選手の成長スピードについていくのはもちろん、それを追い越すぐらいの感覚で成長していかないと、世界との差は縮まらない。当たり前のことだけど、(欧州の)クラブで試合に出ることが、個人の成長にも、日本代表を強くしていくうえでも、すごく大事だと思います」

 W杯を経験したことで、身につけるべきもの、やらなければいけないことが明確になった。日頃から「難しい問題に直面したほうが成長できる」とポジティブな姿勢を貫く吉田なら、その"宿題"にも前向きに取り組んで、彼の今後にもプラスに作用するだろう。そうして成長した彼が、これからの代表でリーダーシップをとっていく存在になっていかなければいけない。

佐藤 俊●文 text by Sato Shun