前回のロイヤルリバプールではタイガーが優勝した

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 今年の全英オープンは8年ぶりに英国のロイヤルリバプールに戻る。「ホイレイク」と呼ばれるこの地が全英オープンの舞台になるのは12回目。前回開催の2006年大会と言えば、最愛の父アールの逝去からわずか2か月後だった傷心のタイガー・ウッズがメジャー11勝目を挙げて少年のように泣きじゃくった場面が思い出される。
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 06年大会の際のウッズの勝ち方という話になると「72ホールでドライバーを1度しか使わず、2番アイアンを多用して勝った」というのが、まるで決まり文句のように持ち出される。確かに、ウッズがドライバーを握ったのは初日の16番(パー5)の1度きりだった。だが、だからと言って「2番アイアンの勝利」と呼んでしまうのは短絡的すぎる。
 あのときウッズに勝利をもたらしたものは、2番アイアンのみならず、ティショットに用いた多様なクラブ。そして、それらのクラブと次打のクラブのコンビネーション。ウッズの言葉を借りれば「リンクスゴルフはイマジネーションとクリエイティビティの勝負」であり、あのときのウッズの勝利はまさに「想像力と創造性の勝利」だった。
 そもそもロイヤルリバプールのフェアウエイは「ペンシル・シン(鉛筆みたいに細い)」と表されるほど細いのだが、06年大会のときは、コース側が前年から散水を極端に制限し、意図的に固いフェウアエイとグリーンを作り出し、思惑通り、何百ヤードでも転がりそうなフェアウエイが出来上がっていた。とんでもなく細く固いフェアウエイの両サイドには深いラフが鬱蒼と茂り、80個とも100個とも言われる英国特有のポットバンカーが点在している。ここに強風が加われば、選手たちは四重苦、五重苦を強いられるわけで、1つでも「苦」を減らすべく、ウッズはドライバーの封印を決意した。
「バンカーさえかわせて、グリーン上で勝負できれば十分に勝ち目はある」
 だが、予想外の前夜の雨で初日はグリーンが想像以上に柔らかくなり、おまけにほぼ無風。そのため初日は予想外のバーディー合戦となり、その中でウッズは「ついつい」封印していたはずのドライバーを16番で握ってしまった。ショットは大きく曲がって17番のフェアウエイへ。それでもバーディーを奪ったところはウッズならではのワザだったが、さすがのウッズもドライバーの危険性を痛感し、以後は2度とドライバーを使わなかった。
 だが、その事実以上に印象的だったのは、ウッズの2打目への臨み方だった。予選2日間はアーニー・エルス、片山晋呉と同組だったのだが、ティショットに2番アイアン、3番アイアン、5番アイアン、3番ウッドの4種類を駆使していたウッズは、常に第2打を3人の中で最初に打っていた。極端なときには片山より40ヤードも手前に刻むこともあった。そして14番では「2番アイアン+4番アイアン」のコンビネーションでチップインイーグルまで決め、ウッズはすっかりご満悦だった。
「グリーンの表面には小さなデコボコが無数にあり、ウエッジでスピンをかけながら落とすと、そのデコボコに跳ね返されて、どう転がされるか予想がつかない。だから4番アイアンで手前から転がして乗せた。風の中でクリエイティブなゴルフができた」
 ウッズは第2打を4番アイアンで打てるよう、ティショットを2番アイアンで「刻んだ」のだ。米国の通常のゴルフなら、ティショットで距離を稼ぎ、ショートアイアンやウエッジでグリーンを狙うほうが有利だが、「英国のリンクスでは、いかにティショットを飛ばさず、どれだけ長いクラブでピンに向かっていけるかがカギになる」と、あのときウッズは力説し、それを忠実に実践して、見事な勝利を手に入れた。
 パワーヒッターのウッズがドライバーを封じ、得意のウエッジではなく通常より長いクラブでグリーンを狙い続けたのだから、ウッズとて、きわめて難しいマネジメントを求められた戦いだった。さらに言えば、メンタル面の戦いは、それ以上に苦しかったことだろう。父親アールが生きているうちにメジャーで勝利する姿をもう一度見せたいと願いながら、マスターズでは3位タイに終わり、その翌月、アールは息を引き取った。6月の全米オープンは予選落ちに終わり、そして挑んだのが、この全英オープンだった。
 ロイヤルリバプールの女神は、そんなふうに持てる力のすべてを必死に駆使して勝利を切望する戦士に優しく微笑むのかもしれない。そうだとしたら、今年、女神の目に留まるのは、復活を目指すウッズか、全英タイトルのディフェンドを目指すフィル・ミケルソンか、それともジョーダン・スピースら、米ツアーの新鋭か。
 亡き父へ捧げる勝利を達成したウッズのような運命的なストーリーが女神のお好みだとすれば、大会直前にぎりぎりで出場資格を得た石川遼はドラマの主役にはうってつけだ。いやいや、米ツアー初優勝、そしてメジャー優勝を狙う松山英樹の大活躍もエキサイティングなドラマになる。
 そうやって見る者の想像の世界はどこまでも広がっていくのだが、勝利の女神が試そうとしているのは選手たちの想像力と創造性だ。ゴルフは何が起こっても不思議ではないと言われるけれど、英国リンクスでは米国ゴルフ以上に予想外のこと、想定外のことが起こりうる。運も不運も訪れる。
 その中で、イマジネーションとクリエイティビティを最も見事にフル活用した選手が勝利する。それが、ロイヤルリバプールの勝ち方だ。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)

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