『宇宙怪人みずきちゃん』は、絵本のようにかわいらしい絵柄で、動物と人間の境界線を踏み荒らす問題作。怪獣、という特異な存在をネタに、読者の倫理観を揺さぶってきます。

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つい先日、京都府鴨川でオオサンショウウオが出て話題になりましたね。
オオサンショウウオを鴨川で発見 どうしたらいい?
で、こういうのを見ると、ふと考えるわけです
食べられるのか?
結論だけいうと、特別天然記念物指定を受けるまでは食べていた地域もあったそうです。
中国では「チュウゴクオオサンショウウオ」を最近まで食べていたそうで。
食べられるのかー……。

珍しい動物の写真を見た後に、「食べるのかどうか」を考えると、世の中がちょっと変わって見えてくると思うんだ。
自分にこの生き物が殺せるんだろうか?ってなるから。

たばよう『宇宙怪人みずきちゃん』は、水乃まるという幼児を主人公に、上の階にいる女子学生(の服を着ている)宇宙人、みずきちゃんの奇行を描きます。
序盤、みずきちゃんが大好きなまる君が追いかけていくと、彼女はセミを頭からしゃくしゃくと食べています。
雨の日にまる君が大きなカエルを取れたので、喜んでみずきちゃんに見せに行きました。すると、嬉しそうに頭からかぶりついた。「きみも食べなよー」

うーん、でもセミは食べたらだめなわけじゃないよね。カエルだって日本で食べるよね。
踊り食いなんて文化もあるんだから、生きたまま食べるのはおかしいことじゃない。
あれ? いやでも……気持ち悪い、かなしい。
みずきちゃんは、笑顔。

彼女は、人間に似た顔を持った、両生類のような生き物「ポコドン」を育てています。大きくなったら「この町をこわすのには丁度いいと思わない?」と、まる君にニコニコして言います。
一応、宇宙人が町を破壊する怪獣を育てる物語です。
でもどうにもそれだけでは、花畑をあえて踏み荒らすようなみずきちゃんのおかしな行動の数々に説明がつかない。そもそも侵略とかが目的ではないらしい。

ポコドンは繁殖力が異常に高く、どんどん増えます。
大雨の日、あまりにもポコドンが増えすぎたとき、彼女は「うーん、しかたないねー」と言ってスコップでポコドンの群れをぐちゃぐちゃにし、袋に入れて捨てます。
残ったポコドンを、頭からモグモグと食べます。

大きく育てているポコドンは一匹だけ。
残りのポコドンを刻んで、育てているポコドンに食べさせます。
瓶に詰め込まれた、生きた餌用ポコドンの絵面は、吾妻ひでおや藤子・F・不二雄のマンガを思い出します。

人間は動物を「殺す」「食べる」「育てる」。
なぜ?と言われると……困っちゃう。いやあだって牛おいしいし。豚おいしいし。
このマンガは人間が保っている「ここまでは食べるのが常識」「殺してもいい」という倫理観のラインをどんどん壊していきます。宇宙人と幼児ですから。そこに大人の「当たり前」は介在していない。
怪獣ポコドンを包丁で切って食べるのと、魚をさばいて食べるのと、差はあるんだろうか。うーんないのかなあー。じゃあ他の動物でも同じなのかなー?

あとは「欲望」がそこに入ってくるかどうか。
みずきちゃんは「楽しいかどうか」という欲望のままに動き、一般的にNGとされそうな行為をします。さっきのカエル頭から生で食うとか、ポコドンの脳みそに機械を突っ込むとか。
でもそれって本当にダメなんだろうか。ダメだとしたらそれはなぜなんだろうか。

常識はずれなものを見ると、自分の倫理観の線引きはどこか、と考えてしまうもの。
「殺す」「食べる」などの問は、動物だけじゃない。人間にも及んでくるんじゃないか。
人間より上位の存在が出てきたら、殺されて刻まれて食われるかもしれない。
自分の価値基準がふらつく体験、是非読んで試してみてください。
(たまごまご)

たばよう 『宇宙怪人みずきちゃん 1』(Kindle版)