『さよならの儀式 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)』東京創元社

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 7冊目となる創元SF文庫の「年刊SF傑作選」。前巻まで、よくわからないがカッコよさげな四字熟語のタイトルだったが、こんかいから収録作から表題をつけるようになって、まずはめでたい。覚えやすい。

 2013年に発表されたあまたのSF短篇のうちから選りすぐって......が主旨だが、作者の意向、各版元の事情、アンソロジーとしてのバランス、文庫本一冊という物理的制約などがあり、編纂はパズルを解くようだろう。しかも、苦労してできあがったラインナップを見て、半可通の野次馬(ぼくだ!)が「コレが傑作って、ネタじゃないの?」「ソレを入れるくらいならアレを入れろよ!」と勝手を言うのだから、アンソロジストとは報われぬ仕事である。ま、本書の編者ふたりはそんなことすら見越したうえで、むしろ見せつけるように仕掛けているだろうが。

 まず、読者がかぶるから大森編『NOVA』(河出文庫)からは採らないという方針は、アッパレと言えよう。このルールをはずすと少なく見積もっても5〜6篇が追加されてしまう。そのほかの媒体についても制限を設け、たとえば日本SF作家クラブ編『SF JACK』(角川書店)からの採用は2篇に絞っている。宮部みゆき「さよならの儀式」と冲方丁「神星伝」だ。前者は、アシモフ「ロビー」の系譜に属すジェントルなロボット・ストーリーと思いや、終盤でシビアな人間性の問題へと急転する。後者は、国風文化(オカルティック・ジャパン)を遠未来の木星へ移植した、絢爛たるニュースペースオペラ。

 短篇SFの主要な供給源である〈SFマガジン〉からは、これも本数を絞って3篇。変容したネットカルチャーを描いた藤井太洋「コラボレーション」、動物/音楽SFで爽やかに読める草上仁「ウンディ」、音響をギミックとしたミステリ仕立てのオキシタケヒコ「エコーの中でもう一度」。このうちで、とくに注目は藤井作品だ。デビュー長篇『Gene Mapper -full build-』と同じ近未来が舞台で、検索エンジンの暴走によってインターネットが崩壊したのち、新しいネット環境・文化が築かれている。ハッカーのアクチャルな現場感覚もさることながら、その感覚から析出する独特の衝動(それは創造であり破壊でもある)を描く筆致がクレバー。長篇2冊ではサイバーカルチャーの互恵的な面を見ている印象があった藤井太洋だが、なかなかどうして一筋縄ではいかない洞察力の持ち主だ。

 SF新人賞出身の出世頭である円城塔、それを追いぬく勢いの宮内悠介、そのまた後から超光速発進した酉島伝法、この3人もそれぞれの個性を遺憾なく発揮した作品で登場。円城塔はロジックを手玉にとった、宇宙/意識テーマの「イグノラムス・イグノラビムス」。酉島伝法は鏡迷路を思わせる言語/意識テーマの掌篇「電話中につき、ベス」。そして、宮内悠介は、暴力性と人間性のぬきさしならないつながりを、大胆な前提から焙りだす「ムイシュキンの脳髄」。

 この宮内作品が、今年度傑作選の白眉だろう。ぼくは、もっとも強いインパクトを受けた。中核にあるアイデアは、脳をカスタマイズするオーギトミーなる外科手術だ。ロボトミーと異なり後遺症もなく、犯罪気質・暴力気質を選択的に破壊することができる。しかし、オーギトミーがらみで殺人事件が起こり、世界は深淵のごとき謎へと滑りおちる。暴力衝動を除去された者が、はたして人を殺めることができるだろうか? この作品は哲学ミステリでもあり、自己の根源を問う脳科学SFでもある。

 これに次ぐ傑作が、藤野可織「今日の心霊」。こんかいはこの作品が唯一、文学リーグからの参加だ。心霊写真を撮る能力を有しながら、自分では普通の写真にしか見えない女性の物語で、ホラーというよりも異常なユーモアがたぎっている。いっけん客観的な三人称で描かれているが、それが結末の間際でくるりとひっくりかえるのにも吃驚。

 小田雅久仁「食書」も奇妙な味の作品。書物を食べることで作品世界へ入りこむ、と説明するとありふれたメタ小説のようだが、現実侵食の気持ち悪さが尋常ではない。ラノベ分野からは石川博品「地下迷宮の帰宅部」が採られている。ほんらい別個に考えられている日常とゲーム世界が、皮肉なかたちで通底する。

 大ベテランの登場も、この巻の特色だ。なかでも目玉は筒井康隆「科学探偵帆村」。海野十三作品を元ネタにしながら、月並みなパスティーシュにおわらずツツイ一流の不謹慎な結末へとなだれこむ。ほかの二篇、埋もれていた遺作で未完の式貴士「死人妻(デッド・ワイフ)」、ファンジン初出の荒巻義雄「平賀源内無頼控」は、その珍らしさが価値だ。

 マンガ枠が設けられているのもこのアンソロジー・シリーズの恒例で、この巻には田中雄一「箱庭の巨獣」を収録。異様生態系のもとで人間の集落が細々と文明をつないでる未来で、麒麟なる巨大生物と融合することがさだめられた少年の葛藤が描かれる。異形生物の質感も迫力だが、人物の表情(とくに眼球)が独特で、重い逼塞感がある。

 もうひとつの呼びものは、創元SF短編賞受賞作の掲載だ。第5回にあたるこんかいは受賞作が2篇という異例で、そのうちの一篇、門田充宏「風牙」が本書に収録、もうひとつの高島雄哉「ランドスケープの知性定理」は、雑誌〈ミステリーズ!〉に載るらしい。「風牙」はサイコダイバーもの。余命2年を宣告された男が人生を残そうと記憶レコーディングをおこなうが、その最中に、識域下空間から離脱しなくなる。彼を救出すべく記憶世界へ入りこんだヒロインは、そこに記憶主体とは別の存在がいることに気づく。救出の手立てを講じる外側のチームと、記憶世界で追体験/改変がされる過去の情景----このふたつが結びつくところがクライマックスだ。文章にメリハリがあって、物語のテンポもよい。

 短編賞の選評(大森望、日下三蔵、ゲスト審査員の瀬名秀明)が併載されており、いつもながら紛糾した審査過程がうかがえる。野次馬なぼくはこれも面白く読んだ。

(牧眞司)