元アナウンサーで文筆家の下重暁子さん。喜寿を迎えた下重さんが、現代の物の溢れかえる社会に疑問を持ち、自ら実践する「シンプルな暮らし」を提案しているのが本書『持たない暮らし』です。

 タイトルにもなっている「持たない暮らし」とは、生活をシンプルにすることなのだと下重さんは言います。ただしここで言うシンプルにするとは、物をただ、どんどん捨てれば良いということなのではなく、物を大切にすることを意味するのだとも指摘します。
 
 大量のブランド品や必要のないものまでも買い漁り、次々と発売される新商品を買い替えては捨てていくという姿勢ではなく、本当に自分に必要なものだけを買い、手元に置くことが大事なのだと言うのです。

 本当に自分に必要なものを買うこと。これを可能とさせるには、みんなが持っているから、みんなが良いと言うから買うのではなく、本当に必要かどうか自分の判断で決めることが重要なのだと言います。
 
 そのため、「持たない暮らし」を実行するには、個が確立していることが必須条件になるのです。

「自分にとって必要か必要でないかを決めるのは、自分自身の美学である。言葉を換えれば、自分自身の生き方である」(本書より)

 しかし突然そうした持たない暮らしを目指そうと思っても、なかなか難しいものです。そこで、持たない暮らしを練習するには、旅に出てみることが良いのだと下重さんは指摘します。

「旅は人生の縮図といわれる。その旅をいかにシンプルに行動し、シンプルにコンパクトに荷造りするか、旅をしてみると、その人の生き方がわかる。いかにさりげなく、シンプルに旅ができるか。旅は『持たない暮らし』への試金石なのである」

 本書では、自らも世界を旅した下重さんが旅する中で感受した、シンプルに生きることへの様々なヒントとなるエピソードや、他国と比較してみた時に見えてきた、本来の日本の持つ美学を忘れ、物に惑わされ過ぎている現代の日本人の問題点等も綴られていきます。

 溢れかえる物から解放された、シンプルな暮らしを少しずつ心がけるみることは、自分自身について見つめ直すきっかけになるのかもしれません。