都内のオフィス街にそびえ立つ、大手電機メーカーグループ企業の本社ビル。その受付に女優の堀北真希に似た清楚な美女、河村美沙さん(26・仮名)は座っている。

 毎朝8時に出社する彼女には変わった日課がある。更衣室で制服に着替えた後、必ずトイレへと急ぐ。タイトスカートをたくしあげた彼女は身をよじって穿いている下着を脱いだ。用を足すためではない。代わりにカバンの中から小さなハンカチのような布を取り出す。Tバックだ。

 そのTバックをしっかりとお尻に食い込ませ、スカートを元に戻すと、両手でお尻にパンティラインが浮き出ていないことを確認。「はァ……」。そう大きな溜め息をつくと、家から穿いてきた下着をカバンの中にしまってトイレを出る。ここから彼女の受付嬢としての1日が始まる──。

 今から2年ほど前、河村さんは受付嬢専門の派遣会社を経て、この大企業に正社員として勤務することになった。数週間後、総務担当の男性上司から信じられない注意を受けた。

「キミ、パンティのラインが浮き出てるよ。お客様の目に入ったら、不快な思いをされる方もいらっしゃるだろう。原則、Tバックを着用するように」

 受付嬢の主な仕事は来客対応と応接室や会議室への誘導だ。案内をする受付嬢は客を先導して歩くため、必ず客にお尻を向けることになる。その時、下着のラインが浮いてしまうことが失礼にあたると会社は考えているという。その日、河村さんはうっすらとスカートの上に下着のラインが浮かんでいる状態だった。河村さんがいう。

「絶句しました。制服が短いスカートというだけでも慣れないのに、ましてやTバックなんて穿いたこともないし、1枚も持ってない。そう上司にいうと、“午後は休憩を取っていいから、買って来なさい”って。断われなくて翌日からTバックを穿いて勤務することになりました。お尻に食い込むし、スースーするし違和感だらけ。通勤時の電車の中で落ち着かないので、朝、会社で穿き替えるようにしました」

 2年経った今でもTバックに慣れず、勤務時だけの限定着用だ。それでも彼女にとっては苦痛だという。

「周りの目がとても気になるんです。会社の飲み会に参加した時、男性社員から“今日もTバック穿いてるんだよね?”って耳打ちされて、ギョッとしました。総務部だけの秘密だと思っていたのに、他の部署の人も知ってた。

 どんな下着を穿いてるのか多くの男性に知られてるのって、辱めを受けているような気分で……。生理の日だけはボクサーパンツでいいので、辛いはずの生理の日は少しホッとするんです」(河村さん)

 同僚の受付嬢の中には、「タイトなスカートを穿くならTバックは当たり前」という考えの人もいるという。もちろん納得して穿いているなら外野がどうこう言う話ではない。が、河村さんはTバックの強要に苦痛を感じている。セクハラの観点から問題はないのだろうか。東京労働局の担当者に聞いた。

「男女間だけでなく世代間の認識の格差がセクハラを起こすことがあります。どんな行為が若い女性を傷つけているのかを年配の幹部は理解できていない面もある。被害者の方は然るべき窓口に相談して対応を考えてほしい」(雇用均等室)

 河村さんの会社にもセクハラを訴える相談窓口が設置されている。Tバックの強要を訴える気はあるのかと尋ねると、「そんなことできません。他に納得して穿いている子たちがいるし、学歴もなく資格も持っていない私なんかクビを切られておしまいですよ。これからも穿き続けなきゃいけないと思うと耐えられなくなってきますけど……」と涙ながらに語るだけだった。

※週刊ポスト2014年7月11日号