(C)2014「渇き。」製作委員会

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3月に公開され、いまだにトップを走り続ける『アナと雪の女王』。観客の多くがヒロインの王女姉妹に共感し、思わず「ありの〜ままで〜♪」と口ずさんでしまう中、そんなディズニーの超大作に真っ向から対抗するような問題作『渇き。』が封切られ、そのあまりの衝撃的な内容が話題となっている。

原作は、第3回「このミステリーがすごい」大賞(04)を受賞した深町秋生のデビュー作「果てしなき渇き」。“ありのままで”いちゃいけない、ひどい登場人物しか現れず、観客のほとんどが誰にも共感できないという本作。だが、それでも多くの人々が映画館へ足を運んでいる。7月5日からは、大ヒット御礼の舞台あいさつも各地で行われることになり、役所広司、小松菜奈、オダギリジョー、中谷美紀、中島哲也監督が登壇する予定だという。

一体どんな作品なのか。

■ストーリー

主人公は、数カ月前、妻の不倫相手への傷害事件を起こして退職し、自暴自棄な暮らしを送っていた元刑事の藤島昭和(役所広司)。ある日、彼の元にかつての妻(黒沢あすか)から連絡があり、娘の加奈子が失踪したことを知る。彼女の手がかりを見つけるためにこれまでの交友関係をたどるが、次第に加奈子の優等生の仮面は剥がれ、思いもよらぬ事実が明らかになっていく。藤島は彼女の正体に近づけば近づくほどヤバい奴らと接触することになり、怒りがあらゆる衝動を抑えられず暴走を始める……。

監督は『嫌われ松子の一生』、『告白』の中島哲也監督


手がけたのは、『下妻物語』『嫌われ松子の一生』、『パコと魔法の絵本』の中島哲也監督。毎回強烈なビジュアルとストーリー展開で話題を呼び、『告白』に至っては社会現象と言えるほどの大ヒット。日本アカデミー賞4部門獲得、アカデミー賞外国語映画賞部門日本代表にも選ばれた。そんな中島監督が4年ぶりに満を持して挑んだのが本作だ。原作の『果てしなき渇き』はそのあまりにもハードな暴力描写や内容に映像化不可能と言われていた。それでも監督は、脚本化に挑戦し(通常の何倍もの労力と時間を要したという)、主演の藤島役を“ダメもと”で名優、役所公司にオファー。近年の日本映画で最高にヒドい男の役を受けてもらえるわけがないと思っていた矢先、OKの返事が来たという。さらには、國村隼、中谷美紀、妻夫木聡、黒沢あすか、オダギリジョー、橋本愛、二階堂ふみらそうそうたる豪華キャストが集結した。

最悪の男、藤島。役所広司が圧巻の演技


本作、過激な暴力描写に話題が集中しているが、筆者が驚いたのはそれよりも役所広司演じる藤島の暴力性であった(その演技力は圧巻!)。愛し方、愛され方を知らないが故なのか、あらゆるモノ・人を壊し、傷つけ、殴り倒しながら、娘の行方を追う。そして心も体も血みどろになりながらの暴走ぶりに、何度も目を背けたくなる。その上、藤島と接触する面々誰もが常軌を逸した人間ばかり。見ている途中で「やっぱり夢と魔法の国に行きたい……」と思わず逃げ出したくなることもあった。

しかし、物語が進むにつれ藤島が加奈子の真実に迫れば迫るほど、その狂気の裏に一瞬、愛の片鱗(へんりん)のようなものを感じる。いや、ひょっとしたら単なる藤島の執着なのかもしれない。でもやはり、あれは父性だったのでは……と、タブーを犯し続ける藤島の心の底を見放すことなく、探ろうとする自分がいることに気づく。

観客の反応は賛否両論!?


一方、観客の中には、その過激な描写やストーリー性に耐え切れない方もいたようで、映画レビューサイトなどでは賛否両論、意見が真っ二つに別れている。「否」派は、「残酷すぎるシーンが見ていられない」「ここまで倫理観に外れた人間たちを学生に見せていいのか」といった意見が。一方「賛」派からは、「グロすぎると言われているが、美しい映像もありアニメーションもあって、そこまで不快にはならなかった」「スタイリッシュなカメラワークや、スピーディな展開。印象的な音楽も多く、中島ワールドを楽しめた」「ヒロイン役の小松菜奈がすごく良かった」など、さまざまだ。

また「デートにはオススメしない」というコメントもあったが、確かに初デードにはちょっと不向きかも(苦笑)。だが、本作をひとりで見ると、悶々としてしまう方もいるかもしれない。むしろ「いや〜ありえないよね! あのシーン!!」と盛り上がる方が楽しいのではないかと思う。ということで、ひとりぼっちで見た筆者としては、ペアもしくは何人かでご覧になることをオススメしたい。

■さいごに

『告白』が衝撃だったから、『渇き。』も見に行ってみよう!と思っている方は、渇くどころか、やけどする可能性もあるので、少しばかりご注意を。前作に比べて、時系列が錯綜し、映像も早いテンポで切り替わり、カラフルなクラブシーンから残虐な暴力シーン、藤島の暴走、アニメーション、ディーン・マーティンや松田聖子、Trippple Nippples、でんぱ組.incの音楽が盛り込まれるなど、ラストまで見る者の心と目と耳を翻弄(ほんろう)し続ける。その世界をどこまで楽しめるかが本作のポイントかもしれない。ちなみに筆者が、本作を本当に感じられたのは鑑賞してから数日後。昨今のニュースからも裏付けられる“現代のリアル”がそこにはあった。「アナ雪」ではラスト、真実の愛が雪を溶かして王国には夏がやって来る。本作のエンディングは、雪の世界。血みどろになった藤島が真っ白な大地でたどり着く先は一体どこなのか、気になる方は映画館へ足を踏み入れて欲しい。
(mic)

映画『渇き。』は現在公開中。