ザックジャパン総括(3)コートジボワール戦への準備と敗因

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キャンプ地選びは正しかったか

 2013年12月6日、ブラジルW杯グループリーグの組み合わせ抽選会が行われた。日本はコートジボワール、ギリシャ、コロンビアと同じグループCに入った。シード国のコロンビアが頭一つ抜けており、残り3チームが決勝トーナメント進出の2枠目を争うだろうという構図だった。

 アルベルト・ザッケローニ監督は「コロンビアは南米の強豪であり、優勝候補。コートジボワールはアフリカ大陸で最も強いチームだ。その代わりに欧州では一番とは言えないギリシャが入ってきたが、ギリシャを過小評価するつもりはない」と、対戦相手について言及した。また、3試合とも気温の高い都市での試合となったことで「暑熱対策をいかにするかが大切だ。特に初戦のコートジボワール戦に向けて、いい準備をしないといけない」と述べた。

 2010年の南アフリカW杯では、事前のスイスキャンプで綿密な高地対策を施し、初戦のカメルーン戦に勝利して勢いに乗った。抽選会の結果を受けた現場サイドと日本サッカー協会は、ブラジルW杯でもグループリーグ突破のカギを握るのは初戦であるとの共通認識を持ち、本大会に向けての準備を進めていく。

 その中で重要なポイントとなったのが、暑熱対策だった。ザックジャパンには、ちょうど1年前の6月にブラジルで開催されたコンフェデレーションズ杯で欧州組が高温に対応できず、運動量が落ちたという経験があった。そのため、事前の暑熱対策が不可欠であると判断。また、高温下での試合で受けたダメージから回復するため、設備の整った、リラックスできる施設をベースキャンプ地とするという方針を採った。

 日本は南アフリカW杯の際、同国内で最も治安の良い都市の一つであるジョージ市の高級ゴルフリゾートを前線基地とした。南アフリカでのグループリーグの試合会場は3会場のうち2会場が標高の高い都市にあったが、試合ごとに低地のジョージに戻り、リラックスしながらリカバーに務めるというやり方が功を奏した。

 前回の経験を生かそうと、ブラジルでのキャンプ地選びも基本的には施設の充実度を重視した。コンフェデレーションズ杯後にザッケローニ監督をはじめとするスタッフ陣がサンパウロ周辺のいくつかの候補地を視察し、組み合わせ抽選会後、すみやかにサンパウロ州北西部にあるイトゥ市に決定した。

 ブラジルではFIFAが定めるベースキャンプ地の多くがサンパウロ州付近に集中しており、32か国中、日本を含めた15か国がサンパウロ州の施設をベースキャンプ地に選んでいる。日本にとっては、現地の日系人社会からの支援を受けやすいという利点もあった。

 グループリーグの3会場はイトゥと比べて10度以上暑かったため、涼しいこの地をキャンプ地に選んだことが間違いだったのではないかという声もあるが、この指摘が的確であるというデータはない。そもそもザックジャパンは5月29日から6月6日まで、30度を超える米フロリダ州で暑熱対策を行っており、そこで汗腺を開いた効果はしばらく持続していたはずだ。選手は「キャンプ地が涼しいからコンディションが悪くなったということはない」と口をそろえていた。そもそも「コンディションは悪くなかった」と話す選手が多かった。敗因の大きな部分をキャンプ地に求めるのは安直と言えるだろう。

 強化の責任者である原博実専務理事は大会後、キャンプ地選びについて「こういう結果になるとすべて否定されるが、イトゥというキャンプ地自体は素晴らしいと思っている」と言った。「ただ、気候(の違い)や移動(距離)はどうだったか。いろいろな意見を出してもらって判断する」とも話し、今後は各方面へのヒアリングから詳細な分析を行っていくという意向を示した。

 また、ザッケローニ監督は「個人的な意見を言うと、ここイトゥは最高のベースキャンプ地だ。準備していくうえでこれ以上最高の環境は得られなかったと思うし、今もその思いは変わらない」と、言い訳をしなかった。

2006年の失敗をなぞったトレーニングスケジュール

 そんな中、最善策ではなかったであろうことがある。5月21日から行った指宿合宿だ。6月14日のコートジボワール戦からさかのぼること24日。5日間にわたる指宿合宿ではフィジカルトレーニング中心の2部練習が行われ、FW香川真司が「マンチェスター・ユナイテッドでもやったことがないような厳しい練習をやっている。足がパンパン」と話すほどに追い込んだ。

 これは2006年のドイツW杯前にジーコジャパンが行った福島・Jヴィレッジ合宿とほぼ同じスケジュールであり、メニューも似ている。当時を知るただ一人の選手であるMF遠藤保仁は「8年前と似ている。あのときも国内でフィジカルを上げてからドイツに入った」と話していた。ジーコジャパンは本大会直前に行われたドイツとの親善試合で2-2の引き分けを演じる好試合を見せて期待を高めたが、本大会では初戦のオーストラリア戦で終盤に立て続けに3失点を喫し、逆転負け。残念なことにピークがドイツ戦に来てしまっていた。

 ザックジャパンも指宿合宿のタイミングでフィジカルを上げたことで、コートジボワール戦を迎えるころにはフィジカルとメンタルのコンディションがすでに下向きになっていたのではないか。6月2日のコスタリカ戦で1ゴールを挙げるなど、日本の全3得点に絡む大活躍を見せた香川は「初戦を迎えるまでが長かった」と吐露していた。

 逆に前回の岡田ジャパンは国内合宿を行わず、壮行試合となった韓国戦の直前に選手を集めて試合を行い、すぐに事前キャンプ地のスイスへ移動。フィジカルを上げるメニューをスイスで行った。ザックジャパンには負傷上がりの選手や、所属クラブで出場機会の少なかった選手がいるなど、コンディションに不安を抱えるメンバーが少なくなかったのは事実だが、指宿で全員が同じメニューをこなす必要があったのか(FW本田圭佑、DF長友佑都、GK川島永嗣は指宿合宿4日目の5月24日から練習に合流した)。

相手の分析は適切だったか

 コートジボワール戦を2日後に控えたイトゥでの練習後だった。非公開練習を終えて取材エリアにやってきたDF吉田麻也が、今までに見せたことのないような緊張を漂わせていた。表情が硬く、言葉遣いがピリピリとしていた。コートジボワールを分析したDVDミーティングに出てきたFWディディエ・ドログバ、MFヤヤ・トゥレ、FWジェルビーニョの映像があまりに強烈だったことで、恐怖心に近いものが生じているようだった。メンタルの安定感が高いDF内田篤人でさえもナーバスになっている様子が伝わった。

 吉田はW杯初出場。内田は2度目だが、前回は一度もピッチに立たないまま大会を去っている。W杯に懸ける4年越しの思いもあっての緊張だったとも言える。ただ、それにしても守備陣の緊張ぶりは際立っていた。

 反対に楽観的に見えたのが攻撃陣だ。DVDではコートジボワールの守備の穴が強調され、「チャンスはつくれる」との強気なコメントが次々と出た。

 結果は、コートジボワールが香川と長友が位置する日本の左サイドを完全に攻略。最大の武器である左サイドからの攻撃を封じられただけではなく、左サイドから2失点を喫し、日本は1-2の逆転負けを喫した。本田のゴールはあったものの、その後は腰の引けた戦いでチャンスもつくれなかった。選手は試合の中での対応力の低さを悔いていたが、そもそも事前の分析や情報の与え方は適切だったのかという疑問が残る。

 多くの選手が「守備がハマらなかった」と敗因を挙げる中、本田は「なぜ守備がハマらなかったか。相手の前線の選手をリスペクトしすぎた。それに尽きると思う」と語った。コートジボワール戦に敗れた日本は、ショックを引きずったままギリシャ戦に臨むことになった。

 セットプレーについても言及したい。日本はMF遠藤保仁が控えに回ったことで、キッカーが本田だけになった。これは希代のキッカーであるMF中村俊輔を擁したドイツW杯、本田と遠藤が左右で蹴り分けた南アフリカW杯と比べてレベルダウンした部分だ。しかも、本田の調子そのものも良くなかった。

 問題はそういう状況であるにもかかわらず、CKで工夫が見られなかったことだ。単純に上げるか、あるいはショートコーナーか。時に香川が蹴る場面や途中交代で入った遠藤が蹴ることもあったが、特別な意図は見えなかった。6月6日のザンビア戦で相手にトリッキーなCKからゴールを決められた場面があったが、日本にその姿勢はあったのか。キックに合わせる選手も空中戦に強いわけではない。より工夫が必要な状況ではなかったか。

 非公開練習の中身は報道陣のだれも知るよしがない。

(取材・文 矢内由美子)