ザックジャパン総括(2)メンバー選考の偏りと拙かった采配

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23人の顔触れが示していた“一つしかない”方向性

 ブラジルW杯の日本代表メンバーの特徴をひと言で表すなら、自分たちの良さで勝負するという目的を全面的に押し出した構成だった。

 5月12日のメンバー発表。アルベルト・ザッケローニ監督は「相手に合わせるよりも、自分たちのやりたいことを出そうというコンセプトがある」というポリシーの下、23人の名を読み上げた。

 指揮官は「選考基準の第一はクオリティーと才能。その次にチームの和を大切にすること。そして、戦術的理解力の高さ、ユーティリティー性」と説明。さらに「我々にはW杯でやりたい自分たちのサッカーがある。それを出すためには主導権を握っていかなければならない」と語った。

 指揮官が列挙した選考基準の中で特徴的なのは「チームの和」だろう。歴代のどの監督も重要視してきた要素ではあるが、ここまでプライオリティーを高く設定した監督は初めてだ。負傷明けでコンディションに不安の残っていたMF長谷部誠、DF内田篤人、DF吉田麻也の3人をメンバーに入れたのは、単純に戦力として考えたのに加えて、4年間にわたってチームの中核に位置してきた彼らを外すことによる「和」の揺らぎを懸念したのではないかと想像できる。出番の少なかったFW清武弘嗣は「ここには何があってもチームのために全力を尽くせるメンバーだけがいると思っている」と話していた。

 一方で、だれが見ても明白な「高さ不足」という弱点にはあえて目をつむった。空中戦に強い選手を選ばなかった理由は、DFの場合は後ろからつなぐことに適した選手を選んだから。そしてFWの場合は、最もタレントのそろった2列目との相性の良さを重視したからだ。1トップ候補にFWハーフナー・マイクやFW豊田陽平を入れず、FW柿谷曜一朗とFW大迫勇也を選んだのは2列目、中でもFW本田圭佑との相性を重視してのことだった。

 岡田武史前監督が「終盤のリードを守り切るために矢野貴章を入れた」ような、戦況に応じたピンポイントの人選もなかった。攻撃陣でサプライズ的な選出だったのはFW大久保嘉人。32歳のベテランは経験豊富で、性格的にもチーム内にカンフル効果をもたらした。加えて、Jリーグで結果を出している選手の代表入りは各方面に好意的に受け止められ、日本代表の応援ムードを高める一因ともなった。

 控えメンバーの選考に目を移すと、長谷部、内田、吉田のポジションをすべてこなせるユーティリティー選手としてDF伊野波雅彦が入ったことが目を引いた。一方で、常連メンバーだったボランチのMF細貝萌、コンディション不良の本田のサブになり得るMF中村憲剛は23人には収まり切らなかった。

 チーム全体を見渡すと、今回は「自分たちのサッカー」に固執するあまり、メンバー選考が一方向に偏った感は否めない。選手の多くは、今後もザックジャパンで4年間積み上げてきた『ポゼッション&コンビネーション』を軸として据えることを希望している。それは日本サッカーの潮流やファンの好みにも合致している。

 ただ、内田が「世界は近いけど広い」と言ったように、W杯出場国はバリエーションに富んでいる。23人という限られた枠内でオプションとなり得る選手をどう組み込んでいくか。あるいは選手個々の対応力をどう磨いていくか。選手選考のバランスはこれで良かったのかを精査する必要がある。

W杯未経験……目立った采配ミス

「自分たちのサッカー」をピッチ上で表現するための采配面はどうだったか。結果論で言えば、ザッケローニ監督は『ボールを保持し、パスをつなぎながら相手を崩し、連動したプレーでゴールを奪っていく』というチームコンセプトをピッチで表現させることはできなかった。できたのは3試合の計270分間のうち、コロンビア戦の前半45分間だけだった。

 大会中はザッケローニ監督の経験不足がさまざまなマイナス要素となって露出した。

 初戦のコートジボワール戦。指揮官は右膝不安の再発により、アメリカでの親善試合2連戦に出場しなかった長谷部を先発起用し、後半9分からMF遠藤保仁に代えた。

 指揮官の長谷部に対する信頼の強さを示す起用だったが、問題は長谷部の途中交代があらかじめ予定されていたということだ。3つしかない交代枠のうちの1つをボランチで使うことが決まっているというのは実にもったいない。非の打ち所のないリーダーシップを発揮し、個性の強いメンバーを結束させてきた立役者である長谷部についてこのようなことを言及するのは、たとえ選手起用の責任が監督にあると言えども心苦しいが、今回の場合は長谷部の起用がいわばハンデ戦に近い状態を招いていた。

 試合の中では交代の遅さが目についた。初戦では後半19分、21分と立て続けに失点し、一気に逆転を許したものの、同22分に大迫から大久保に代えたあとはしばらく動かず、柿谷を投入したのは後半41分。このプレータイムでは『何かをやれ』と言っても難しい時間だった。FWディディエ・ドログバ投入でガラリと戦況を一変させたコートジボワールとは対照的だった。

 何が何でも勝利が欲しかったはずのギリシャ戦では、10人になった相手を攻めあぐねていたにもかかわらず、交代枠を1つ残したまま、0-0で試合は終了した。23人の中で最も特徴的なスタイルを持つFW齋藤学を使うとしたらこの試合だったはずだ。結果がどうなったかは別としても、あらゆる手を尽くすという姿勢に欠けた采配には、やるせなさしか残らなかった。

 3試合で出場したフィールドプレイヤーは計17人。齋藤、伊野波、DF酒井宏樹、DF酒井高徳の4人が試合に出ずに終わった。フィールドプレイヤーで不出場4選手というのは、日本が出場した過去5大会で最も多い人数だ。

 コートジボワール戦とギリシャ戦の終盤に吉田を前線に上げたパワープレーは、ザックジャパンが今までに一度もやったことのない戦術だった。パワープレーに対する世間の反応は過敏だったと言えるが、選手によって捉え方に違いがあったのも事実。戦術や意図を23人に周知できなかったのはザッケローニ監督の問題であり、ひいてはもともと交代策を打つのが遅い指揮官への助言を日本サッカー協会が怠っていたからではないかと思わせられる。

 ザッケローニ監督は5月12日の会見で「主導権を握った戦いをできないということも想定内にあるが、そのときのための戦術の準備はある程度持っている。そういう状況に耐え得る準備を進めていく」と話していたが、W杯でそれは見られなかった。指揮官自身が試合中に動揺し、判断が遅れていた。

(取材・文 矢内由美子)