取材・文: 合六美和  写真: 鈴木親  英語翻訳: Oilman  取材協力: montoak

 

90年代半ばから、フランスの雑誌『Purple (パープル)』を拠点に、インターナショナルな活動を続けている写真家・鈴木親 (すずきちかし)。ファッションとアートとストリートの境目を縦横無尽に行き来しながら独自の作風を確立させ、作家としての高い評価を勝ち得てきた。

鈴木氏は写真を撮るのみならず、ファッションブランドにコラボレーションワークを仕掛けるなど、クリエイションの現場そのものから作り上げていくパワーとネットワークを持つことでも一目置かれる存在だ。

伝説の編集者として語り継がれる故・林文浩=『DUNE (デューン)』編集長には、「日本で唯一のファッション・フォトグラファー」といわしめたこともある彼に、ここではそのファッション写真のロジックについて話を聞く。

 

(第1回/全4回)【インタビュー】写真家 鈴木親/ファッション写真の構造
(第2回/全4回)【インタビュー】写真家 鈴木親が犯すタブーとロジック
(第3回/全4回)【インタビュー】写真家 鈴木親/ファッション写真の9.11以後
(第4回/全4回)【インタビュー】写真家 鈴木親/フォトグラファーとデザイナーの関係

 

- フィルムとデジタルをどう使い分けていますか?

フィルムの特性と限界をわかった上で、フィルムにできないことをデジタルでやっています。僕は運良くフィルムもデジタルも両方できる世代。フィルムを長年やった後、まだ現役のうちにデジタルがきたのはラッキーだったと思います。今の若い子にとっては、デジタルがマイナスになっているかもしれないですね。リスクも少なく、修正も可能な分、個性を出しづらくなってしまっているのかもと思います。Canon (キヤノン) の 5D で撮って MAC で編集したら、普通に雑誌で使えるようなクオリティーにはなりますから。

 

- 親さん流の現場の作り方は?

たとえば僕が正面でキメを撮る時、アシスタントに望遠レンズを渡して、違う角度で離れたところから狙って撮ってもらう時があります。モデルの意識は僕のほうに向いているから、僕が予想していなかったハプニングが入ってくることがある。アシスタントのカットには、以前『Youtube』で見たんですけど、Inez van Lamsweerde & Vinoodh Matadin の撮影法が面白かったんです。Inez の旦那さんやアシスタントが、彼女のすぐ脇で撮っているんですよ。Inez はストロボとリンクさせたカメラで、旦那さんはストロボとリンクしないカメラで。そうするとストロボがリンクしていないアンダーやオーバーが同時に撮れて、それが案外予想できないカッコいいものになっているのかなと思いました。

 

- フィルムとデジタルの使い方以外で、ファッション写真の転機を感じたことは?

9.11以降、海外のファッションキャンペーンのすべてが激変しました。9.11以前は、『purple』で撮影していたような作家系のフォトグラファーもキャンペーンの仕事をいっぱいやっていたし、僕もオファーを受けることがあった。でも9.11を境目に、大御所カメラマンたちがギャラをかなり下げたと聞きます。先行きの不安定さで保守的にもなり、以後、現在に至るまでキャンペーン仕事のほとんどは一部のトップフォトグラファーに集中しています。モデルも競合がなくなったことで、何人かに集中してしまい、新しい人が出る機会が以前より減ってしまっているように見えます。もし9.11がなかったら、僕も含めてもっと多くの作家系のフォトグラファーがキャンペーンを手掛けていたかもしれないし、モデルもより多くの若手が活躍する場が広がって多様性が出ていたとかなとも思います。


Photography: Chikashi Suzuki

 

- 雑誌も変わりましたよね。親さんが携わっていた『Purple』がふたつに分かれたり。

『Purple』はフォーマットを変えながらがんばっていましたけど、結局わかれました。Elein Fleiss (エレン・フライス) と Olivier Zahm (オリヴィエ・ザーム) の2人の編集者は、もともとアートの人です。Elein は、Man Ray (マン・レイ) などを扱っているギャラリーオーナーの娘さんで、写真の好き嫌いが昔からすごくはっきりしていました。ブランドから広告費をもらって撮影しても、その写真が良くなかったら使わないという気質の人です。それでも9.11以前なら、雑誌が面白かったらいいという風潮がなんとなくありました。9.11後はそうもいっていられなくなった。服が写真にちゃんと写っていて、それがちゃんと掲載されていないと広告が入らなくなったと思います。当たり前のことなんですが。(笑)

 

- 親さんの写真は今、エレンが手掛ける『Purple Journal』のほうでよく見かける印象です。

Olivier は『Purple』のテイストをちゃんと残しつつ、『Purple Fashion』という強い印象の本に変えました。今は作家系のフォトグラファーにはファッションの撮影をあまり頼まなくなっていますね。Elein はそういうのに興味がないからと、独自に『Purple Journal』を立ち上げました。『Purple Journal』ができた当時は、作品をつくることに興味があったので、Eleinの方でそれを発表していました。最近は、ファッションシュートでも自分の作品にできるようになったので、『Purple Fashion』で撮影しています。どっちも僕のルーツなんで外せないですね。

 

2/2ページ: 「ずっと、芸能人と白人モデルはなんとなく断っていたんです。転機となったのは、菊池凛子さんの撮影です。」

 


Photography: Chikashi Suzuki

- 9.11後、親さんの中での変化は?

芸能の方、役者さんを撮るようになったこと。それまでずっと、芸能人と白人モデルはなんとなく断っていたんです。転機となったのは、菊池凛子さんの撮影です。Chanel (シャネル) を乗馬で撮りたいと思って乗馬ができるモデルを捜した時、やってきたのが彼女だった。まだ菊池凛子と名乗り始める前で知名度もなかった頃。芸能人だけどまぁいっかと思って撮影してみたら、意外とサラりと撮れた。自分が年をとったのもあるかもしれないけど、芸能を撮ることにコントロールされなくなっていた。この撮影をきっかけに、役者さんをモデルにするようになりました。そうしたら、すごく仕事が広がっていきました。凛子さんに感謝です。

 

- 白人モデルは?

僕が日本に戻って来た頃は、雑誌に出ているすべてのモデルが白人だった。英会話の先生じゃないの?って思うようなレベルの子もいたし、だったら日本のモデルを自分で探したほうが全然いいと思っていました。当時、よく一緒に仕事をしたのは Sachi や Rila です。人気のショーや雑誌に出ていないようなモデルさんばかり探していました。(笑) でもいい写真を撮ると、人気もガラッと変わるんですよね。そういうのが面白いと思って、新人ばかり撮影していました。最近はけっこういいモデルさんも来日しているので、外国人モデルも撮影するようになりました。

 

- 親さんの撮影スタイルについて教えてください。

もともと、撮影はすごく早いです。先日やった『commons&sense (コモン&センス)』の撮影は、8ページ8体を1時間くらいで終わらせました。そのぶんロケハンは徹底的にやります。撮影するルックも事前に送ってもらってチェックする。完全にフィックスはしないけど、無駄なテイクは入れません。だいたい1体につきワンテイクかツーテイク。ツーテイク目は、ハプニングを入れたいと思った時に撮ります。


Photography: Chikashi Suzuki

 

(第1回/全4回)【インタビュー】写真家 鈴木親/ファッション写真の構造
(第2回/全4回)【インタビュー】写真家 鈴木親が犯すタブーとロジック
(第3回/全4回)【インタビュー】写真家 鈴木親/ファッション写真の9.11以後
(第4回/全4回)【インタビュー】写真家 鈴木親/フォトグラファーとデザイナーの関係

 

鈴木親 (すずき・ちかし)
1972年生まれ。96年渡仏し、雑誌『Purple』で写真家としてのキャリアをスタート。『Purple』(仏)、『i-D』(英)、『Dazed & Confused』(英)、『CODE』(オランダ)、『Hobo』(カナダ)、『IANN』(韓)、『honeyee.com』(日)、『GQ』(日)、『commons&sense』(日)、『Libertine / DUNE』など国内外の雑誌で活動。Issey Miyake、United Bamboo、Toga などのワールドキャンペーンを手掛ける。主な作品集に『shapes of blooming』(treesaresospecial刊/2005年)、『Driving with Rinko Kikuchi』(THE international刊/08年)、『CITE』(G/P gallery刊、09年)など。

Blog: http://blog.honeyee.com/csuzuki
Twitter: https://twitter.com/chikashisuzuki